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上方びいどろ  作者: 前野羊子


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肆拾伍【裏を取る】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 日本橋手前の路地を行く。

 とはいえ火事の後だから少し道が広くなってはいた、その先に昔ながらの狭まっている所に入り込む。

 

 瑠璃も途中から藍に染め抜いた手拭いで姉さんに被って顔を隠している。

 

 「こっちです……これが」

 「……なるほど」

 二人の女は止まることなく過ぎていく。

 そのままさらに路地があって裏にまわるとそこは長屋が並んでいた。


  入口には、自身番と肩を並べるように木戸番屋がある。

「すんまへん」

 手拭いを取って声をかける。

 木戸番屋の窓口には、手習い用の半紙や障子紙、懐紙にちり紙、それに安物の筆と墨、硯が並び、飴玉の入った小瓶がひとつ置かれている。

「なんだ?」

 四十ほどの、どこか破落戸めいた男が、隣の自身番の方から顔を出した。


 「そこの長屋、空いてる家はあるんでっしゃろか?」

 「お前さんが住むのか?良いとこの娘さんに見えるし話を聞くと……上方から来たのか?」


 「へえ。

 この格好は、余所いきです。

 さっきあっちの大店の奉公が決まって、住むとこ探しているのですねん」


 「後ろの女は?」

 「私はこの子の奉公先の呉服屋の下女で」

 「なるほどな、ここいらの長屋の家主は津軽のお人や。

 俺が店子に仲介をしているよ。見るか?」

 「へえ」


 「ちょっと待ってな」

 一度引っ込んで、鍵が色々ぶら下がった鉄の輪っかを下げてきた。


 「娘、名はなんていうんだ?」

 「うちはお瑠璃いいます」

 「お前さん、俺が怖くないのか?」

 「怖くはあらしまへんえ」


 「俺はこんな風貌だから、若い娘には怖がられるんだけど、お前は肝が据わってるんだな?」

 「そう見えますか?

 こう見えて結構あがってますえ。手えも冷とうなってるし」

 「そうかあ?」

 「お兄さんの名前を聞いてもええですか?」

 「お兄さんなんて呼ばれる年じゃないぜ。

 俺は松助。ここいらの目明しをしているよ」

 そう言って房の無い十手を出してきた。

 「あらまあ」

 声を出したのはお染。


 「丁度よかった。

 松助さんはどっちのお奉行所からの?」

 「北だぜ」


 木戸番から扉を五つほど過ぎたところに、二つ並んだ閂の付いた扉。

 それを二つとも外しながら男が言う。

 

 「これ、両方空き家だけど、どっちでもいいぜ」

 「中を見せてもらってからでもええ?家賃は同じ?」

 「どっちも六百文だぜ」


 「……お染さん?」コソッ

 「普通です」コソッ


 中は、一応掃除はされているけれど、薄っすら埃が積もっていた。

 そこへ草履のまま上がっていく。


 「住む時に拭いてから畳を入れるから、お前さん達もそのまま草履のまま上がっといで」

 「へえ、おおきに」

 

 長堀で借りていた部屋とほとんど同じ。二間続き。便所が共同で外にあるのが違う。

 便所が無い分裏庭が広い。とはいっても便所一帖分だけど。

 

 「あの木は何ですの?渋柿?」

 「あれは渋くねえほうの柿だ、朱くなったら食えるぜ」

 「それは楽しみやな」

 「烏より先に食おうとして、渋いうちに齧ったらえれえ目にあうぜ」

 がははと豪快に笑う。

 大坂の百沙衛門たちの所にいる岡っ引きより逞しそうだ。


 「大丈夫や。ほんなら柿の部屋にしてもらおかな」


 「よっしゃ」


 「ほなら松助親分さん、これ、手付渡すわな」

 「わかった。で、おるりの奉公先はどこだ?」

 とお染の方を見る。

 「福禄屋です」

 「ああ、清作んとこの」

 「へえ」

 

 「では、証文を書いてもらったらすぐ戻ってきます」

 「え?すぐ?」

 「へえ」

 「福禄屋の下宿は今空きが無いものですから」

 「わかった、んじゃすぐ畳は出しとくけど、夜遅いけど掃除は自分で出来るか?」

 「出来ますえ」

 「よっしゃ、じゃあちょっと待ちな」


 三人で木戸番に戻る。

 「これ、手付金の預かり証」

 「へえ、ご丁寧に」

 「それで、こっちにおるりの名前書いてくれ」

 「……はい」

 「……よかったひらがなで」

 「そうですね。瑠璃って漢字は難しいですよね」

 お染に言われてしまう。

 「だろ?」


 「瑠璃さん、どうしてあの家にしたの?」

 「えびす屋の家の横に柿の木見えてて」

 「ほんと?気が付かなかったわぁ」


 「ふふふ」


 通りに出る角で床几が外に出ている茶屋があった。

 床几ではみたらし団子を齧ってる女性が二人座って話していた。


 「あ、ここよ、お饅頭屋さん。

 ごめんください」

 「はーい、あら、お染さん今日はそんな格好で」

 「ふふふ、この方がこのお嬢さんが引き立つでしょ」

 「確かに奇麗な娘やねぇ」

 「おおきに」


 「あら、お染さんがいた大坂で一緒だった人?」

 「へえ、お染さんにはお世話になってますねん」

 「まあまあ。じゃあ今日ははお饅頭持って帰るのね?」

 「そう」


 「待ってて!」

 茶屋の女将は直ぐに出てきて、竹の皮に包まれたものを渡していた。

 「ありがとう」

 「いえいえ、いつも通ってくれてるからおまけしてるわよ」

 「あらあらまあ」


 「じゃあまたいらっしゃって」

 「はい」



 「なるほど、そういう感じで通ってたのですね」

 「もともと、ここのお饅頭が好きで、久しぶりに食べたら、つい……」

 本当やろか。助かるのは確かやけど。



 ほどなくして日本橋を渡った先に福禄屋が見えてきた。


 「只今帰りました」

 「お帰りなさい大女将さん」

 店先では丁稚が声をかけてくれた。


 「お帰りおっかさん、お客さんかい?」

 「ああ、この方が瑠璃さんですよ」

 「なんと、ささ、こちらにどうぞ」


 暖簾を潜った店の中は、大坂のよしの屋と同じような様子だった。

 ただ江戸の流行は小紋の柄が多いようだ。

 「あら、この反物」

 「そうだよ大坂から数日前に届いた河内木綿の浴衣地なんだ」

 「この店の河内木綿はね、よしの屋さんから仕入れているのよ」

 「そうなんどすか?」

 「かわりにこっちの江戸小紋がよしの屋に並んでたと思うけど」

 「たしかに若い娘さんたちには、江戸の柄やって珍しいから買うひといましたねぇ」

 「そりゃあ有難いことです」


 「おせんさんは?」

 「今は上の子と使いに行ってるわ」

 「なら丁度よかった清作悪いけど奥に一緒に来てくれない?」


 「?いいですよ」

 

 奥の座敷の一番上座に瑠璃が通される。

 「お構いなく」

 「まあまあ、どうぞ座ってください。なにしろ瑠璃さんほどのお姫様をここに呼ぶことなんてないですからね」

 「そうなんどすか?」

 「もちろんですよ」

 清作と呼ばれたここの主人はお染に少し聞いているのだろう。

 それでも瑠璃さんと呼んでくれるだけ分かってもくれている。


 「改めまして、お染のせがれの清作と申します。この呉服屋福禄屋の当代の主をしております」

 と丁寧に頭を下げられる。

 

 「ああ。頭を上げてください。

 うちは瑠璃言います。詳しい事は言いづらいんですけど、お染はんに少しはお聞きしてはるんですか?」

 「はい。

 百沙衛門様とご婚約おめでとうございます」

 「おおきに……」


 改めて言われてすこし耳が熱くなるのを感じる。


 そして、お染が瑠璃が長屋を借りたいことを代わりに清作に伝えてくれる。


 「いいですよもちろん。お安い御用です」

 「おおきに、助かります」

 「うちの名前で隣の部屋と二つとも下宿として借りて契約しましょうかね」

 「いいのですか?」

 「はい、丁度二人ほど新たに雇うことになってますから」

 「わかりました」


 「じゃあ、証文は私が書いてくるわ」

 「おっかさん書き方わかるか?」

 「任せて!私が女将の時はいつもやっていたんだから」

 「わかった」


 「ほな、清作さん、これ渡しておくわ」


 と小判を一枚出す。

 「二部屋半年には足りないやろうか。

 先払いしておけば文句言われないやろ?」


 「瑠璃様」

 「これも仕事の入用やさかい、気にせんと使うてや」

 「え?私が用立てしますよ?」

 「女将さんに言い訳するときに困りはるやろ」

 「クスクス……わかりました」

 お染に似た顔で笑う主人。


 「証文を肩代わりしてもらうだけでも助かるんやからね」

 「はい」

 「はよ隠して、お染さんにも内緒で」

 「ふふふ、わかりました」

 

 「証文書いてきたわ、同じ文面で二枚。二部屋分まとめてで、こっちが店子として福禄屋の名前にすれば瑠璃さんの名前を入れなくてもいいわね」


 「ああ、大丈夫だろう、朱肉と印を取ってくる」


 「お染さん江戸に来てもすっかり百さんの手足やねぇ」

 「瑠璃さんこそ」


 「「ふふふ」」


 「只今帰りました!」

 「かえりましたー」


 店先から女性の声と男の子の声が聞こえてきた。

 「おかえりー」

 それに声をかけながら主人がやってきた。

 「おっかさん着替えておいでよ。福禄屋として行くでしょ?」

 「そうだわ。ちょっと着がえてくる」


 入れ替わりに出て行って、

 「おかえりー」

 「お婆ちゃんただいま!」

 

 声が一緒に遠ざかる。

 「丁度女将が帰ってきたから、私も一緒に行きますね」

 「え?いいのですか?」

 「自分の名前で借りるところ位みたいですしね。それにお布団ぐらい持って行かなきゃいけないでしょ」

 「貸してくれはるんどすか?」

 「もちろんです。ちょっと取ってきますね」

 「おおきに」



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