肆拾肆【暇より怖いものはない】
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江戸北町奉行、河口宗和の屋敷の奥の縁側では、お香と桜が大奥のお灰の部屋から引き揚げてきた荷物を広げて調べていた。
「大奥の中に入れて、色々見れて嬉しかったわぁ」
「え?入りたかったん?桜さん」
「奉公は嫌だけど、興味はあるのよ」
「確かにね、贅沢してるのじゃないかとか、男衆がいない世界が良いとか悪いとか、話のタネにななるわね」
「で?どうなん?」
「一度で十分よ。
私たちは、同心達、男の汗や煙草の匂いは荒いと思ってたけれどねぇ」
「お灰様の部屋は確かに怪しい匂いだけど、他の所も女所帯の匂いはまた別でした」
「まあ、高価な香も合わせを間違えますと濁りますさかい。鼻がおかしゅうなりますよって」
「流石は公家のお姫さまともなると香にも詳しいのですね」
「うちは、普通どす」
そんな大奥の名残を話しながら手を動かしていると、
「瑠璃さん、ちょっとこれ……」
桜の手にあるのは、蛇腹に畳まれた地図だった。
「これは、奥羽って書いてますね」
「父に先に見せてきます」
「へえ、おたのもうします」
桜が濡れ縁で立ち上がり、歩き出そうとすると、
「瑠璃姫様にお客様です」
河口家が雇い入れてる下男がやってきた。
「うちですか?」
「はい、お染と申しておりますが」
「分かりました、まいりまひょ」
「瑠璃さん大丈夫ですか?」
「へえ、お染さんは百沙衛門様の所のお女中さんどす」
「ああ、日本橋の大店の大女将だった」
「はい」
「私も付いて行こうかな」
桜も瑠璃に負けず好奇心が旺盛だ。
「あら、上がってもらうように言わなかったの?」
河口家が内々で利用している玄関が見えたところで桜が下男に聞く。
ちなみに、表の玄関は通り沿いにあるので、こちらはいわば裏口ともいう。
「上がるように申し上げましたが、ご辞退されまして」
「そう」
そんな会話を背に瑠璃が声をかける。
「お染さん」
「瑠璃様!」
「どうしたの?」
見れば大店の大女将とも大坂での女中姿とも程遠いくたびれた絣を着て、菅笠を持って立っていた。
「それが……」
と一緒にいる下男や桜を気にするので、桜は下男を下がらせる。
「この方は桜様、北町奉行の娘さんです」
「お染と申します、このような格好で申し訳ありません」
「で、その恰好はどうしはったの?」
「ふふふ、姫様を見習いまして。変装ですよ」
たしかに楽しそうである。
いつも瑠璃に何とか華やかな着物を着せようとしているときのようだ。
しかし身を寄せている羽盛家やこの奉行所には、お染が百沙衛門の手の内の者だということは伝えているのである。
「とはいえ、ここでは何だから、やっぱり上がらせてもらって」
「どうぞどうぞ、遠慮はいらないわよ」
「わかりました。失礼いたします」
そしてそのまま台所まで連れて行ってしまう。
くたびれた姿だからこそまるで下女のようにそこまで連れていける。
台所にはもちろんお香もいた。
先ほどの蛇腹の地図などを別の塗り箱に入れていた。
「改めまして、日本橋で呉服屋をやっております福禄屋の大女将のお染と申します」
「まあ、本町筋の福禄屋さんだったのですね」
「はい。息子夫婦に店を任せた後は好きにやらせてもらっているのですよ」
「私たちも、福禄屋さんにはよく買いに行くわ」
「ありがとうございます」
「さて、で、変装してまでどうしたん?」
「うちのみせのもうちょっと銀座よりの南伝馬町の路地に、暖簾は出てないのですけど〈えびす屋〉と書かれた板切れが貼られた家が昔からありまして」
「店ではないの?」
「はい、何処かの店の住み込みの部屋があると思っておりました」
「それは、お染さんが江戸にいた時から?」
「はい、その並びに洗い張りを頼んでる店がありましたから」
「なるほど。
その洗い張り屋さんは今は?」
「あの頃にはもうお年でしたし、子はいなかったですからね、やはり今は違う家に建て替わっています」
「ああ、あのあたりは火事で燃えましたからね、ここからすぐだったんですよ」
「私も小さかったけれど覚えております」
「そうなんですね」
「でも、〈えびす屋〉の家は残っています」
「……お染さん、まさか見に行ったん?」
「瑠璃姫に動くなって言われたんだけど、店にいてもご隠居業は暇でね。
その〈えびす屋〉の家を思い出したものだからちょっと……」
「お染さんはお福さんと浪速で歩いてることが多いんやから、あっちのお隣のえびす屋の人に見られてるかもしれないんやで?」
「だからこれを被ってるのよ」
と菅笠をちょいと持ち上げる。
「……お染さん」
「で、でもね、昨日まではまるで空き家のようになんともなかったんだけど、今朝出入りしている様子があって」
「……毎日見に行ってくれてたと」
「お染さん、与力の女中はそこまですることはないのよ」
「美味しいお饅頭を食べられるお茶屋さんがあって」
「……まさか通ってると」
「うふふふ」
大奥の中に探りに一緒に行ってくれたお香が言うことはないのでは?
と思わず口から出そうなのを堪えて瑠璃はもう一度お染に向きあう。
「とりあえず、福禄屋さんにも興味があるし、今から見に行こかな」
「ですね」
「ここから近いとはいえ一人で帰せないですから」
「せやろ。
せやけどうちこの辺りには詳しゅうないから、お染さん教えてくれへん?」
「お任せください」
幸い今日の瑠璃は、お灰の荷物を探るために武家の女の格好とは言え、武家の姫装束ではなかったので、このまま外には出られる。
桜に鏡を借りて、鼈甲に貝が光る櫛や簪を、柘植の櫛と小さな摘まみ細工が揺れる金魚に差し替える。
「瑠璃様、懐剣を」
「そんなん、動きにくいからいらしまへんえ」
「そうよ桜、瑠璃姫は百沙衛門様よりお強いらしいよ」
「え?毘沙門天と言われているあの方より?」
「この位なら大店の娘位になりますかね」
品は良いけど上質な着物迄は変えられない。
「地味なぐらいですよ」
「ふふふ、では行ってきます」
北町奉行所近くの河口家のお屋敷から、日本橋に向かう。
お染はすっかりその気で、菅笠を深くかぶり、風呂敷を持って瑠璃の二歩後ろを歩きながら道を案内する。
「このあたりは奥羽や津軽あたりからの物を扱ってるお店が多くて、そこにほら」
「南部鉄器?」
「茶道具の窯とか、黒いお鍋とか」
「なるほど」
「そっちは漆塗りの入れ物を扱ってらっしゃるの」
「嫁入り道具とか…ここで買ったら困るなぁ、浪速にも店あったら良いのに」
「ふふふ、そうですね。帰ったら探されますか?」
「そうやな……あれ?あの店は閉まってるんか?」
「あれは、絹織物屋さんの〈だてや〉さんですよ。一昨日は開いてたんですけどね」
「今日は休みの日かな?」
すると、お染がピッタリくっついてきて、
「……なんでも、えびす屋の婿旦那はその〈だてや〉からえびす屋の先代に紹介されたっていう事らしいですよ。
ちょうど例のその〈えびす屋〉って札の家もそのぐらいに出来たと記憶しているんですけどね」
「……お染さん」
「何でしょうか」
「流石や!」
「うふふ」
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