43【奥の調べ物】
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日を何日か遡って、お灰を北町奉行所に送った瑠璃は取って返して大奥に戻っていた。その時に北町奉行河口の妻のお香と与力である息子の嫁の桜も連れて。
普段彼女たちは北町奉行で、調べ物の手伝いをしていたのだ。
犯罪者というのは圧倒的に男性が多いが、女性もいる。その者たちの調べ物の手伝いをよくするそうだ。大奥はもちろん女人禁制なので今回は綱吉と老中の頼みでお勤めにやってきた。給金も弾むと言われたので、張り切っている。
三人はまず、大奥の出入り口である七つ口の管理をしている部署の過去帳を収めている蔵を突撃して、お灰あての荷物が北記録が書かれている書類を引っ張り出しては、三人で持ち込んだ行李に詰め込んでいく。鞍の出入り口には、現在大奥を全体的に管理している老中の姉である蒼蓮院がいて、一緒になって文書をめくっている。
「まあまあ、私の知らないところで、こんなものを買っていたとは。道理で、大奥の支出が多いはずだわ。一人の女に何故襦袢を五十着も一度に仕立てるのかしら。・・・これは反省しなければいけないわね。老中の弟や上様に叱られてしまうわ」
「蒼蓮院様、それは後でお楽しみくださいませ」
「ごめんお香。つい」
お香からすれば蒼蓮院は雲の上にも近しい相手、それでもきちんと意見を述べるところは蒼蓮院自身気に入っていた。
「お香、やっぱり大奥に」
「私は今は奉行の家内ですから」
「ここは二人に任せまひょ、桜さん」
「はい、瑠璃姫様」
瑠璃と桜は、お灰が滞在していた御台所の世話係として与えられていた一角を調べに行く。
大奥は複雑に廊下が繋がっていて、廊下が町中の通りの様な扱いになって玄関の代わりに部屋に入る襖がずらりと並んでいる。その中で世話係の中でも上級の位ともなると、世話係をさらに世話をする下女の腰元が詰める部屋もある。
お灰の部屋は八畳と六帖の続き間になっていてその奥に専用の厠などの水回りと小さな坪庭、そこから階段があって二階にも続き間が二つある、二階が主に位の低い世話係の下女の寝泊まりする部屋となっている。
だが、御台所が亡くなり、いつまでも居続けているお灰を部屋から出すべく給金が減らされたお灰には専属のお世話係の下女が居なかった。だから、下級の腰元と同じように、大奥全体の世話係に世話をされていたのだ。だから二階などは誰も使っていなかった。もちろんお灰本人が下女用の二階の部屋に直接行くこともなかった。
以前お灰がいた時の様に、真っ先に坪庭に向かって雨戸をあけて裾広がりの着物では使いづらい階段を上がる。
「うっ」
「瑠璃さんどうされ・・・これは」
「ものが多すぎやろ」
二間の座敷には、えびす屋の屋号の描かれた行李がいくつかあり、その中には反物が入っていた。
「これにはちゃんと樟脳を入れてるんやな」
反物が届いても仕立てることが無ければ着物にならないのは当たり前である。
「沢山下女がいた時はそれこそ使い捨てる勢いで着物を作ってたのじゃありませんか?」
「捨てるんやのうて、下げ渡しているならマシやけどな」
それでもこの部屋の荷物も全て外に出す。主のいなくなった部屋は明け渡してきれいに掃除するべきである。廊下には多くの女中が荷物を運び出すために来てくれている。男ではないが、だからこそ皆普段から力仕事をしていたりして、逞しい女たちである。
「これもお願いします」
「はいよ!あ、ここに積んどくれ」
押入から引っ張り出した掛け布団に行李を乗せる。これを引きずっていくと、磨かれたつるつるの廊下を楽に荷物を運べるのである。
「御台所や側室様の部屋の廊下ならそこも畳敷きだからこれが無理なんだけどね」
「そうそう、ひとつづつ下げて運ぶのよ。虫干しの時とかね」
「大変やなあ」
「まあ、それだけのお給金はもらってるよ。うちら町人には」
「そうそう、こういう時のためにね」
女中たちの朗らかな声に少し笑顔が出てきてしまう。ここから出てお嫁に行けば、その先が大店だとしても肝っ玉母さんになることだろう。
「それにしてもきれいな反物やな」
「一つぐらい失敬してもばれへんよ?」
「いややわ瑠璃ちゃん、こんなの着る場所ないですやん」
「そうよ」
「ほほほ」
「ふふふ」
「じゃああとで、うちがお饅頭を差し入れるな」
「そっちのほうが嬉しいわ!」
「瑠璃ちゃん分かってる」
お灰の荷物も七つ口を通って外に控えている大八車に乗せられていく。
七つ口には、桜の旦那で奉行の息子の与力も同心を引き連れていて荷物を運ぶ。
本格的な調査は奉行所でするみたい。
「じゃあ、桜さんもう一度お灰さんの部屋に戻るえ」
「え?あの部屋はもう空っぽになってるわよ」
「まだ、畳下を見てないやろ」
「あ」
がらんとした上級腰元の部屋の畳をひっくり返していく。
「なにやら色々挟まってるな」
「ほんと。まあじっくり見ずにここはかき集めて奉行所行きだわね」
「そうそう」
床板の下に頭を突っ込んで床下を除く・・・
「床下までは何もなかったな。よかった」
新たな行李に、畳の下のものを入れている。もちろん二階も。
「お疲れ様、瑠璃姫」
「蒼蓮院様、此度はありがとうございました」
「お礼を言うのはこっちの方や。おかげで気になってた部屋が空いたわ。お金の流れも角印で来たしね。これで次の予算が立てやすくなったわ」
「そうですね。ある程度お調べがおわったら反物は大奥に戻ってくるんちゃいますか?」
「それは助かるわ」
大奥の重鎮が晴れやかに笑う。清々しく美しく。
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