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41【江戸町奉行】

いつもお読みくださりありがとうございます。

ゆっくりペースですがよろしくお願いします。

 二日後、瑠璃は再び武家の娘姿に身を包み、北町奉行所に百沙衛門と訪れていた。頭は吹輪に結いなおされている。


 「これは、結婚前の挨拶か?百沙衛門。瑠璃姫も久しぶりだの。その姿は初めて見るがな」

 前に会ったときは老中の家で小姓の真似事中だった五年前だ。


 「河口様、例の件がなければただ穏やかな挨拶で済みました。上様や老中様にも結婚を了承していただきましたので」

 「そうか、我が家にも歳の釣り合う息子がおれば、瑠璃姫殿に紹介いただいたのに口惜しいことよ」

 「ふふふ、何をおっしゃいますかお奉行さま。河口様のところのお嫁さんたちも素晴らしい方ですえ」

 「まあそうだけどな。もう孫も十歳をうえに、六人いるよ」

 「それは大変どすなぁ」


 現北町奉行の河口宗和は、身分は旗本だが役目としては大坂町奉行の百沙衛門の父とは、北町奉行は当然地域は離れていても同僚のようなものである。


 「長崎かぁ。大変だったけど今となっては懐かしいな」

 河口は江戸町奉行の前職は長崎奉行だった。

 「儂が長崎にいた時もそれはそれは明や清からの荷物に気を使っておった。阿蘭陀なども一度明に行って、一緒にやってくるときもあったのでな、荷物が混在しておったよ」

 「その時に阿芙蓉もありましたか?」

 「あったな。交易のための荷物じゃなくて、船員の嗜好品として積んでおった」

 「嗜好品?」

 「長い長い船旅は退屈なんじゃろう。双六とか碁の道具とか、将棋に似た四角い駒を使うものとか色々な玩具を積んでおった。すべて賭け事として遊んでいたらしいので、一つも船から出さないようにするのが大変だった。あとは明の酒や葡萄牙や阿蘭陀の葡萄でできた血のような色の酒とかな」

 「その暇つぶしに阿芙蓉もあったのですね」

 「そうだ」


 「はるばる、長崎とはいえ日ノ本に来た、青い目の船乗りたちは、長崎の町に入りたがったので、奉行所の人間がついて案内するようにしていた。何しろ言葉が通じないからの。町の人に何かあっては困るからな」

 「それは、ほかの奉行所と違うご苦労があるんですねぇ」

 「そうじゃ。なのに阿芙蓉が大坂の呉服屋や、江戸の大奥においてあったなんて、不覚じゃ」

 「しかしそれは、河口殿が長崎奉行じゃなかった頃のお話でございましょう」

 「ああ、じゃが、長崎奉行は、大名藩主より下の立場なのじゃ。普段警備を担当する藩主がご禁制の品を江戸には流通しないからと取り寄せるのには目こぼしせざるをえなかったりするのだ。

 今の長崎奉行に交代した時の印象では、儂より賭け事や阿扶養の危険性を理解しておらなかったからな。若いやつじゃったから逆に興味を示していたやも知れぬ。

 上辺だけはハイハイと返事をしておったから、老中や上様もそのままにしたのじゃろううて」


 「長崎ですかぁ・・・」

 その瑠璃のつぶやきに不安を抱いた百沙衛門は思わず

 「そちらの調査は老中様にお願いしよう」

 「ははは、これ以上夫婦になる日が伸びるのが困るか、百沙衛門」

 「はあ、瑠璃姫の好奇心は人一倍ですからな」

 「そんな、百沙衛門様、いくらうちでも長崎は遠すぎて無理やと思いますえ。船だとすぐやろうけどねぁ」

 「船ぇ?」

 「瑠璃姫や、海路はおなごは無理なんだよ」

 「なぜ?」

 「厠がないのさ」

 「そうなんどすか?」


 「だから、長崎の船乗りもみんな男だった。だから花街は流行ってたな」

 「奉行、なんてことを瑠璃姫に言うのですか」

 「すまん」

 「ほほほ、平気ですよ。長崎のお話は実に楽しおすな」

 「阿蘭陀の菓子でカステラというのが旨くて、いつか姫にも食べてもらいたいもんじゃ」

 「奉行!」


 「失礼いたします」

 襖の向こうで男の声がする。

 「構わぬ、入れ」

 

 入ってきたのは宗和の長男の宗継。父の奉行を助けて与力をしているのは、百沙衛門と同じ。先ほど言ってた六人のうちの四人の子供の父親である。


 「まずはお灰の所にいかれますか」


 「うむ」

 「行こう」

 「お疲れ様です」


 大奥にいたお灰と、江戸城で将軍に刃を向けた低井兼靖は、普通なら伝馬町の牢屋に入れるところだった。


 低井兼靖をとらえたとき膝にはやはり小姓に扮した瑠璃が投げた苦無が刺さっていた。

 「相変わらず命中するのがうまいなぁ」

 老中がこっそりつぶやくのに

 「ありがとう存じます。しかし此度は目の前でしたから外す事は御座いませぬ」

 「今度、余と鷹狩に行かぬか?」

 まるで小姓に遊びに誘うように綱吉が言う。口元を扇子で隠しながら。


 「ふふふ、堪忍しとくれやす」同じく袖で隠して拒絶。

 「では、上様ご退出を」

 「うむ。行くぞ」

 「はい」

 将軍の大刀を持つものはすぐ後ろを歩かねばならぬ。

 小姓はそれを捧げてすぐに後ろをついていく。


 大広間の大名たちからは見えないところに控えていた百沙衛門たちも後ろに続き、中奥の部屋に続く廊下をいく。

 

 「ところで、なぜ町奉行所の牢屋なんどすか?」

 瑠璃はすぐ後ろにいる百沙衛門に聞く。

 「牢屋といえば伝馬町なのだが、あそこはもう沙汰を言い渡された罪人が入れられていて、軽い刑などもそこで行われているのだ。そんなところに入れてしまえばもう落ち着いて取り調べなどはできなくなるだろう」

 「なるほど」

 「調べが終わったら伝馬町に移動だがな」

 「そうなんどすね」


 そうして、取り調べのために江戸北町奉行所を訪れたのだった。

 

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