34【江戸城の古い闇】
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江戸幕府の四代目将軍は、僅か九つで将軍につき、政をすべて大老とその腹心のものに任せて、大奥で日がなすごし、八年前に世継ぎに恵まれず病気で亡くなった。
それは、今の将軍に仕えている武士ならだれでも知っていることではある。
「僅か九つでは、まだ漢文も読めぬほどに幼いし、政などは無理な話だ。瑠璃もそう思わぬか?」
「はい、大人の助けがないと無理でございます」
「その手助けする大人が、誠に幼い将軍や幕府、その下の武士たち、そして民衆のために動けば問題は無いのだが、一気に手にする権力の前に、出来心を押さえられぬ者もいる。とくに、権力争いに忙しいもの程な」
綱吉の語りに頷くしかできない。
「そして、そのとき大老だった坂伊保志が、まさしくそういう人物だったのだ」
思わず隣にいる羽盛 義直を見ると、瑠璃の視線に頷く。
「九歳の将軍の前ではしっかりした大老を装っていたが、その実、幕府の予算を着服していたり、下に着く役人たちを、自分の言うことを聞くものばかりに取り換えていたのだ。
そして、将軍はもう職に就いているのだからと、大人になる迄、大した学問も修めさせず、武芸などで体を鍛えるでもなくしているうちに病になり、正室や側室はいたが子に恵まれず亡くなったのだ。
そして、亡くなる少し前に、ここに居る皆の計らいで余が養子となり、将軍職を引き継ぐことができたのだ。のう安部よ」
「はい、あの時は丁度冬で、大老の方が風邪で寝込んでいるすきに、書類を作って、上様を前将軍の養子として迎えると、京の帝に早馬で提出したのでした」
「それは、その後もご苦労されたのではないですか」
「ああ、将軍職になる前は十年ほど上野の藩主をしておったからな、余の方が十分に政の経験はあったのじゃ。だからこそ江戸城内のひどさが目に付いたのじゃ」
綱吉がひとしきり語って、茶で口を潤している間、老中の安部唯規が引き継ぐ。
「帝から正式に宣下を受けられた後は、上様自ら、城内に巣食う魑魅魍魎を成敗して回ったのだよ」
「まあ。陰陽師のごとく?もしや安部さまは・・・」
「いや、確かに我の先祖は陰陽師だったようなことも聞いたような・・・私はどうでもよい」
「ははは。
その時に、結局風邪をこじらせていた坂伊を、大老職から降ろし、坂伊藩に帰らせたのだが、不満をぶつけだして、あろうことか年甲斐もなくまだ幼い余の娘を嫁にくれとか言い出すではないか」
それはまた、幕府を牛耳るためなのか・・・。
「そして、上様はそのまま坂伊家を改易として、その周りにいた藩主や武家もいくつか取り潰したのだ」
「そして、その中にはあの呉服屋の番頭に扮した男の本当の家、坂伊家の分家もあったのだ」
そう言うと、老中が一つの帳面を出して開く。
「人相書きを書かせるときに藤岡も気が付いたと言っていた。前将軍のおり、江戸城に参内していた時に大老のそばに小姓としていたらしいからな」
「ああ、これが」
思わず瑠璃はうなるように声を出してしまう。
そこには、心斎橋のえびす屋で見た、大紋や兜に張り付いていたものと同じ家紋があった。
その下には、〈坂伊家〉の文字が。
「恨んでるのかもしれぬな。
藤岡の書簡によると、江戸城どころがそれより広く吹き飛ぶほどの武器があったというじゃないか」
「はい。それはもうびっくりして、思わず鳥肌が立ちました」
「そうだろう」
「それでなくても、江戸は火事が多いって聞きますし、あんなものを持ち込まれてはひとたまりもないでしょう」
「ああ、恐ろしいことだ。
火事ならば火の行方を見ながら逃げおおせることもできるが、短銃はいかんな」
「はい、暗がりから狙われたらひとたまりもありませぬ」
「そうだ」
「それに、今のお武家様達は、商人の様に算盤をはじいたり書き物をしたりばかりで、武術の鍛錬は少ないのではないですか?」
「そうだ、きっと、鎧の着方を忘れている武士も多いだろう。
瑠璃、一つこちらの武士に稽古をつけてやらぬか」
孫もいるような男が、いたずらっ子のような笑みを浮かべて、安部が言う。
「御冗談を」
「「「ははは」」」
「まあ、一試合ぐらいは構いませぬが」
「そうだな、今回の滞在中に一度頼みたい」
「わかりました」
再び湯呑に口をつけた綱吉が口を開く。
「もう一つ、えびす屋とか言ったな。あそこの婿に化けていたのは、その坂伊家の家老の息子だ」
どうりで、呉服屋をするつもりはなかったのだ。
初めから大店の財産を狙っていたのだろう。
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