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32【江戸入り】

いつもお読みいただきありがとうございます!

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 四十回近く馬を取り換え、本陣に二泊、旅籠に一泊の四日で、江戸は日本橋の太鼓橋が見えてきた。


 ひとつ前の品川宿で馬を置き、そのあとは歩く。太鼓橋は馬の蹄では歩きづらい。あと二里と二十町程度だから、鍛えている二人は多少荷物があっても一時はかからない。


「そろそろ、太鼓橋が見えて来るやろか」

「せやな、五年ぶりやな」


 二人の目的地は日本橋と江戸城の間あたり。そこに羽森でなく羽盛家の屋敷がある。字は違えど、ご先祖様が同じで、親戚づきあいもある武家だ。

 今回、父親の兼麿は祝言までは百沙衛門と別に動いた方がいいだろうと言う意向で、これまで滞在した宿と、江戸で世話になる羽盛家の屋敷に飛脚をやっている。


「おたの申します」

 江戸に来たからこその京都弁だ。

 中途半端に取り繕って江戸弁を真似したとてすぐにばれるからだ。

「おお、待ってたよ」

「五年ぶりだから、どんな娘さんになってるか楽しみにしてたのに・・・」

「武士の装いとはな」

 屋敷から出てきたのは、羽盛家当主の 義直と嫁のお銀だ。


「この方が身を守れるんどす」

「まあ、たしかに別嬪さんになってるから、女子の格好で歩いていたら危ないわね」

「しかし、この瑠璃姫は強いのになにも武士の格好をしなくても」


「だからって、いちいち返り討ちにしていては面倒やからね」

「確かにそうですよ。ささ、まずは旅装を解いて、ゆっくりしなさい。

 勘三もな」


「へえ、お世話になります」


「坊ちゃんたちは何処にいるん?結構、大きゅうなったんちゃうの?」


 五年前は、よちよちしていた羽盛家の二人の男子。


「今は寺に読み書き習いに行ってるわ」

「え?もうそんなに大きなったん?」

「五年ぶりなのよ。上の子だってもう剣のけいこ始めてるわ」

「せやったわ」


 羽盛家も、江戸城では老中の下に着く武家なので、格式が高い。

 ゆったりした湯殿を借りて、旅の汚れと疲れを落とす。


 勘三は近くの銭湯に行くらしい。

 男にはあかすりも必要だそうで。


「お銀さん、これは?」

 羽盛家の女中に団扇で仰いでやっと乾いた洗い髪を緩く結ってもらって、襦袢姿でお銀に問う。

 関西とはまた趣の違う洒落た小紋のちりばめられた着物がそろえられていた。


「それは私のお古で申し訳ないけど、屋敷ではこれを着てて」


「可愛い模様やな。おおきに」

 それを、一人でするすると着る。


「帯は、私がしましょう」

 女中と行っても武家の末端の娘が行儀見習いで来ているのだ。年も瑠璃と同じぐらいだろうか。

 本当は大奥の腰元にと言われてたのを、親が嫌がったそうだ。


「おおきに」

「まあ、本当に美しい娘さんですねえ。夏の東海道を来たというのに色が白いし」

 帯を結んでくれた女の子がため息交じりに褒めてくれる。

「そうでしょ、やっぱり公家のお姫様は違うわ」

 お銀も頷いている。

「え?瑠璃様って公家のお姫様なんですか?」

「まあ、もう公家じゃなくなるんやけどね」

「聞いたわ、藤岡様のご長男と婚約したんですって?

 瑠璃姫の相手も公家の坊ちゃん違じゃなかったっけ?」

「あの人には振られてもうて。

 まあ、すぐに次が決まってうちもびっくりしたんやけどね」


「藤岡家なら、羽盛家(うち)と同格だし、羽森の瑠璃ちゃんには一つ落ちるかもしれないけど」

「そんな、家の格は、お父上も気にしてはらへんかったわ。珊瑚姉様が公家と決まったさかい」


 藤岡も羽盛も老中の直属なので、江戸城下では同僚である。ともに上様にお目通りのできる武士であるのだ。


 しばらくすると玄関からパタパタと小さく元気な足音がする。


 「だだ今戻りました」

 「母上、瑠璃ちゃん来た?」

 「あ!るりひめだ」

 「まあまあ、ぼっちゃんたち、おおきゅうなって」

 「瑠璃ちゃーん」

 上の子は数えで八才、下の子は六才。何処かの丁稚と同じ年だが、まだ親に甘やかされているからか幼く見える。

 寺から帰ってきた二人の男の子と、寺で交流している他の町人の子供達のことなども、楽しく聞きながら夕餉をもらって人心地ついた瑠璃は、食事の終わったお膳の並べられた部屋から、義直の部屋に行く。

 ここは江戸城から持ち帰った書付や書簡を整理して処理する仕事部屋だ。


「お邪魔します」

「うむ、入りなさい」


 部屋の下座には、銭湯から帰ってきた勘三も座っていた。


「大坂は大変だったみたいだな」

「ほんまですよ。まさか勘三さんが見つけた仏さんが、ここまでつながるなんて」

「ちょ、瑠璃ちゃん、俺が見つけたなんて言わんとってよ。拾いに行けって言ったのは瑠璃姫なんやで」


「まあ、その後のお調べは勘三さんにはちょこっと話しただけやけど、詳しくはこちらに」

 と、大坂西町奉行に直接預かって持ってきた書簡を義直に渡す。


「ふう」

 広げた書簡を一通り読んで、両の目頭を摘まむ義直。

「確かに、これは急を要する案件だな」


「百沙衛門が江戸入りするのはいつなんだ?」

「あと、十日程はかかるでしょう」

 あちらも馬を使っているとはいえ、年寄りを運ぶためなので、駆けることはかなわない。

「それほど、待っておれぬな」


 大坂の奉行もこの案件を急いで江戸に持って行くことを望んでいた。

 しかも、できるだけ秘密裏に。押収した武器類も、他の与力や同心には明かさず、大坂城の六番櫓の床下の石垣の隙間に隠すほどの念の入れようだった。

 あの武器は、江戸に持ち込んではいけないものだ。ただでさえ、火事に何度も見舞われ天守閣のない江戸城の中の将軍様のもとに持って行くものではない。


「火薬は結構あったのか?」

「へえ、江戸なんか丸ごと吹き飛ぶんちゃいますか?」

「やっと大火事から立ち直ったところなんだから、やめてほしいな」

「せやろおもいます」

 江戸は本当に火事が多い。日本橋の周りでも、大工が景気よく仕事をしていた。他の建物の、建てたばかりのような、新しい木や土の色をしていて、古い建物が立ち並ぶ大坂や京都から出てきた瑠璃には、眩しい町だと感じるほどだ。


「藤岡のお奉行様は、奈良の花火職人に黒い粉を下げ渡す言うてました」

「それがいいよ。ぜひそうして欲しい。

 たぶん、老中殿もそう言うだろう」


「花火は見とうおますけど、火事は嫌やね」

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