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30【引越し】

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 大坂城の敷地の中に設けられた道場では、稽古から上がったばかりの瑠璃が相も変わらず男のなりで汗をかいていた。

 ここではあくまで瑠璃は、武士の子供が稽古をしに来ているという体でいる。


「瑠璃殿、精が出ますな」

「これはお奉行様!」

 そこには百沙衛門と東次郎の父である西町奉行の藤岡 重蔵が居た。

 瑠璃は立ったまま礼をする。

 周りの武士も重蔵に向かって頭を下げている。

「瑠璃殿ちょっとこちらへ。

 皆の者、続いて稽古に励んでくれ」

「「「はっ」」」


 藩主のいない大坂城はもっぱら江戸幕府が大坂を治めるための物置にしている。主な行政は奉行所がしているのだが、抱えている地域が広いので、書類などは城内に置いているのだ。


 重蔵は瑠璃を伴って、大坂城の一角。倉庫にしている六番櫓に向かう。

「それにしても、お父上はすんなり許してくれたようだな」

「尾関はんの気が変わらないうちにということだったようですえ。噂では、白拍子は子持ちだったとか。まあ遊女上がりだったし、そうかもしれないですね。養女にしはった石倉様が父親だとか。まあ、うちにはもう関係あらしませんけどね。

 尾関はんも手癖の悪い噂がありましたよって、本当に助かります。

 百沙衛門様はしっかりしたはるから、父も安心しはったんでしょう」

「そう思ってくれたなら、ありがたい」

「ふふふ」


「父上!あ、瑠璃も」

「どうだ」


 六番櫓には、百沙衛門と東次郎がいた。

 ここには、武器や鎧以外でえびす屋から持ってきたものが置いてある。

 武器は、厳重に重蔵の自宅屋敷に隠すように保管している。

「これが、先日見つかった血判書です」


「うむ」

「この、真ん中に家紋が入ってますなぁ。しかも、最近見た覚えのある・・・」


「そうだ、先日えびす屋で見た大紋の袖に大きく描かれていた。大紋はこれだほら」

 百沙衛門が桐箱を指し示す。

「父上もこの家紋に覚えがありそうですね・・・」


「それから、えびす屋の主人からひとつ聞き取れたことがありました」

 東次郎が親相手ではなく、奉行に対しての与力としての真面目な顔をして話す。

「なんだ」

「あの大紋は手代の持ち物だそうです」



「ああ、そのことも含めて、百と瑠璃にはすぐにでも江戸に行ってもらわねばならぬ」

「「はっ」」

「瑠璃はもう支度は出来ているのか?」

「はい、いつでも出られますよ」

「わかった。ついでに、長屋を引き払っておきなさい」

「わかりました」


 次の日、堀江銀座の裏手の長屋に岡っ引きの七兵衛が大八車をもってやってきた。

「七兵衛はん、ご苦労さんやな」

「なんの、瑠璃ちゃんのためなら何でもやるで。まあ百沙衛門様からの用事やけどな」

「ふふふ」


「え?どうしたん?瑠璃ちゃん」

 となりの、権蔵の嫁のお菊が赤ん坊を紐で背負ってやってきた。

「ちょっと、引っ越すねん。それで、七兵衛はんが手伝ってくれる言うて」

「え?何処に引っ越すの?」

「天満橋の方や」

「そうなんか、近いやん」

「せや」

「権蔵に手伝わそうか?」

「大丈夫や、そんなにたくさんあらへんし」

 見られたら困るような、町人の女とは思えない荷物もあるしな。


「瑠璃ちゃん、この水屋箪笥どうするん?」

「どうしようかな。要るのは長持と行李だけなんやけど」

「そうなん?瑠璃ちゃん気に入って使ってたやん」

「引っ越し先にもこういうのあると思うねん」

 また、買えばいいし。

「じゃあ、うちが貰ってもいい?」

 お菊の目がきらりと光る。

「ええよ、火鉢や座卓もあるねん。見てくれる?」

「わあ、奇麗に使うてるね。うちのを捨てて瑠璃ちゃんのが欲しいぐらいやわ」

「ええで」

「ほんま?」

「ほんまほんま。その方がありがたいわ」


 しばらくすると、大八車には桐の長持一つ、その上には行李が二つ、着物の紐でぐるぐるに縛られた。

「瑠璃ちゃんこれで全部?ってうわ、ご近所さんたちが」


「瑠璃ちゃん引っ越すって?」

「綺麗な子がこの長屋からいなくなるなんて、寂しいわ」

「あんたは皆の娘みたいなもんやったからな」

「おおきに、皆さん。まあ、歩いて行けるところに引っ越すだけやから、またお芝居観に道頓堀とか来ると思うし」

「そうなん?」


 皆、好きなこと言うてる。

 武家の奥方になったらなかなかこういう会話できなくなるのに。

 まあ、俺は百様の手下だから、あの人の奥方になる瑠璃ちゃんには会えるもんね・・・でも、奥方かぁ・・・くすん。公家のお姫様だもんな。俺にだってもともと雲の上の方だ。だけどさ。


 七兵衛の心の中は瑠璃への未練が一杯だ。


 しばらくすると、長屋を取りまとめている組長も出てきた。

「組長はん、お世話になりました」

「お世話て、三年しか住んでへんやん」

「そうやなあ。うちもお名残り惜しいけど、しょうがないねん」

「瑠璃ちゃん、もしかして、お嫁に行くんか?」

 組長が少し声を落として聞く。

「組長はん、ええカンしてるな。まあ、そんなとこやねん」

「え?お相手は?」

「そのうち、ちゃんと報告するわな」

「絶対やで」


「七兵衛はん。ごめんな、ほな、行こうか」


「七兵衛、瑠璃を連れてどこ行くねん」

「どこて、そんなん言うたら俺の首が飛ぶから!言われへん」

「まあまあ、権蔵さん、岡っ引きの七兵衛さんが運ぶんやったら、あの人やろ」

「え?せやけどあの人はお侍さんやで」

「じゃあむり?あ。まさか七兵衛さんか」


「俺が連れていきたいのは山々や!」

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