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3【天満橋で途中下船】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 「ちょっと、瑠璃」

 しばらくして、瑠璃は揺さぶられる。

「起きてるで。川になんか大きいもん落ちたな」

「よりによって俺が船頭の時に」


 二人の視線の先には白っぽいものが浮いている。


 ヒュッ カカ

「もうやめてや」

 船頭の足元に二つの小刀のようなものが刺さってる。

「なにゆうてんねん、伏せなあかんやろ」

「ちょ、俺にそんなこと言っといて、あんたどこ行くんや」

 船の後ろで櫂を操っている船頭とは反対の舳先へ、お客の間をひょいひょいと移動すると、瑠璃は何かを帯の隙間から取り出す。

「どこも行かへんけどっ」


 シュッ

「うっ」ガサガサガサ

 遠くでうめき声がして、土手の向こうに転げ落ちていく音がする。


「うまいこと当たった。なあ、あっち寄られへん?」

 とさっきから気になってる川面に浮かんでいる白っぽいものを指さす。

「しゃーないな」


 船は直角に近く船先を変えて、気になるものへ進んでいく。


「なんや?」

 他の客も起きてきた。

「あの上から落ちはってん」

「すごい音してたな」

「人かいな」

「ゴミではないやろおもうんやけど」


「あ、あれは」

「女の人っぽいな」

「船頭はん、もうちょっと寄られへん?」


「無茶言うなあ」


 ザーッ 

 船頭が浮いているそれを櫂で寄せると、いつの間にか船頭の方に戻ってきた瑠璃が、水の中で上向きにする。

「うわっ」

 心構えしていても驚く船頭。

「とっくに死んではるやつやな」

「せやな」

「まだ道頓堀ちゃうけど、もうそこ天満橋の船着き場やな」

「せや」

「このまま、この仏さん引っ張っていくわ」

 と言って船にうつぶせで寝そべるようにしながら、死体の袖をつかむ。

 良い所の女でも、打掛も小袖も着ないで、襦袢一つの最後なんてと思いなら。


「ほな行くで」


「坊主、度胸あるな。俺なんか死体ってだけで見たくもないわ」

 瑠璃のそばにいた男が話しかけてくる。

「起こしてもうた?ごめんなおっちゃん。仏さん変なとこに流されたら困るやろ?」

「そりゃそうやけど」

「ところで、おっちゃんも浪速の人やろ?見たくないかもしれへんけど、この仏さん、えびす屋のごりょんさん(おかみさん)に似てへん?」

「確かに言われてみれば」

 他の客も覗きに来る。

「ほんまや、心斎橋んところの呉服屋の」

「せやせや」


 ガクン

天満橋(てんまばし)ぃ」

 船頭が声を張り上げる。

 ここで降りる客もいるのだろう。


「僕、そこの番屋行ってくるわ」

「頼むわ。みんなちょっと待ってくださいよ。この仏さん引き上げてもらいますよって」


 あたりは白み、大坂の街が良く見えてくる。

「「「なんやなんや」」」

「仏さんやって」

「えびす屋さんとこの」


 まだ日も登っていないっていうのに、商人の街は早い。

「「「どいたどいた」」」

 番屋に詰めていた同心が岡っ引きを連れてやってきて、そのものに死体を引き揚げさせている。

 それを眺めていた瑠璃の肩をたたく者がいた。


「お早う御座います。長見様」

「帰ってきたのか?」

「へえ。あ、ちょっと、汗臭いよって離れて下さいよ」


 着流しに紋付姿の、長見ながみ 百沙衛門ももざえもんが身をかがめて、ほっかむりの手ぬぐいを結んだ瑠璃の首のあたりに顔を近づける。

「汗というより、上品な香の匂いはするけどな」

「え?まだする?お香炊いた袿を着とったん昨日の昼やで」

 首のあたりを気にする仕草に女性らしさが見えてしまう瑠璃の耳元に百沙衛門が再び顔を寄せる。

「聞きたいこともあるから、ちょっとおいで」


 長見百沙衛門は、二年前に父親の藤岡 重蔵が大坂奉行に任命されて江戸からやってきたのに付き合って弟と共に大坂入りした。本来は与力だが、大坂に来たばかりの奉行を支えるためにと、より情報を集めやすく小回りの利く同心として商人の街を回っている。

 長見性は江戸にいたころに亡くなった母親の旧姓を借りている。


 大坂奉行所は、天満橋の船着き場と、大坂城の間にある。


 天満橋の番屋には夜の不寝番のための大きな火鉢があって、その上で鉄瓶が湯気を出していた。

「わぁ、ぬくいなぁ」

「冷え切ってるじゃないか。火のそばに座りなさい」

 遠慮なく肩を掴まれて火鉢のそばの腰掛けに座らせる。

「まあ、一番寒い時間やから。それに川船に乗ってたんやで、風に晒されっぱなしやった」

 そしていつの間にやら瑠璃の膝にはトラ猫が座ってる。


「それで瑠璃さん、さっき目撃した船頭にも聞いたけど」


 今はほっかむりを外し、長い髪を無造作に括り直し、岡っ引きが入れてくれた熱い番茶を飲んでいる瑠璃に話しかける。


「これ」

 と言って懐から二本の短い火箸のようなものを包んだ、重なった紙を広げる。

 船頭の足元の船に刺さったものだ


「手裏剣?」

 とつぶやきながら手を伸ばす百沙衛門に

(もも)様、さわらんでくださいよ」

「おっと」

「こういうものは毒が塗ってるかもしれへんやろ」

「そうだな」

「船頭に目撃されたかと、口封じに投げてきたと思うんや」

「なるほど」

「せやけど私が、これを投げ返して、殺っちゃいないけど右肩口にささっとったから、そこに怪我のある人がいたら捕まえて聞けばいいやろ」

 と、百沙衛門に四寸ほどの長さの小さい苦無を渡す。

「ふむふむ」

「場所はここの土手の・・・あ、おはようございます」

 番屋の壁に貼られてる地図を確認し合ったあとは、出勤してきた別の同心にも内容を引き継ぐ。


 クシュン


「おい、風邪ひくなよ。ほら出るよ」

「だいじょうぶ」

「道頓堀は八つ時に着けばいいんやろ?」


 百沙衛門はこのまま瑠璃の手を引いて武家屋敷のある方に歩いて行く。もちろん手ぬぐいのほっかむりはし直した。


「ちよ、百さん」

「風呂入っていきなさい。私が帰るのに合わせて入れるようにしてあるから」


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