23【呉服屋の土蔵】
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「瑠璃ちゃん、ちょっと来て下さい」
土蔵を見ていた東次郎が呼びに来た。
手代や丁稚など雇われた下っ端が住む離れのそばに土蔵があった。
瑠璃は、喜助の部屋の出口で下駄を履いていると、
「瑠璃様、私も行きます」
喜助がよろよろと立ち上がろうとする。
「いや、あとで百沙衛門様達が聞くと思うよって、まだそこで休んでいて」
「いえ、ご説明出来るところは先ほどのようにお話ししたいのです」
「ほな気を付けて」
「先行ってて、俺が連れていくわ」
「頼んだよ七兵衛はん」
「どうしました?」
「これ」
反物の詰まった行李がそれなりに整然と並べられた棚の奥深くに、大きな茶箱が並んでいた。竹や籐などで出来た行李と違って、しっかりと密封された茶箱はカビや虫が付きにくい。しかし、いったん入り込まれると行李よりはひどいものなのだ。
しかし、その茶箱に入れられていたのは・・・
「これは、短筒?」
火縄銃が短くなったようなものが大量に並べてあった。
「さっき、手代の喜助が話してくれたんやけど、番頭が長崎からやってきたときに持ってきたらしいで。女将さんには火薬や玉が無いよって玩具やって説明してたらしいけどな」
「ふむ」
百沙衛門は袖ではなく、懐から左手を出して顎を触る。
「だけどそっちの茶箱には、火薬も玉もそろっている」
「へ?・・・ほんまやな」
「お瑠璃ちゃんこっちもあるよ」
上から東次郎の声がする。瑠璃の傍らにはまるで梯子のような急な階段がある。
下駄のままでは滑りそうなので、裸足になって登っていく。
「なんやここは・・・」
「すごいよな、呉服屋の風景じゃないよ」
そこには夥しい刀や長槍、弓に矢が整然と並べられていた。もはや隠している様子もなく、すぐに戦が始まってもよさそうなほどの並べ方だ。
「老中様のお屋敷の武器庫みたいやな」
「そうだな」
「こんなところに鎧兜まで、あ、ここにも。鎧兜も五個はあるな。
お子さんおらんかったのに、過ぎたばかりの時期やいうても節句のお飾りにしても立派すぎるえ。こっちの兜についてるもんはさっきの大紋の背中についてたものと同じや」
「な、なんですかこれは!」
後から登ってきた喜助が叫ぶように驚いている。
「あんたは知らんかったんか?」
「下にあった鉄砲はさっき話した、女将さんに玩具や言うてたのは見たんですけど」
「この部屋にはもともと何があったのだ?」
「なにも。倉庫ではなく、大勢に増えた丁稚などを住まわせていたことがありました」
「それはいつまでやの?」
「先代がお二人揃うていた時は丁稚など住み込みの下働きが多く、私も初めはここで過ごしておりました。今みたいな板張りではなく、お布団を敷いて寝れるように畳が敷き詰めてありました」
「あんたがここに来なくなったのはいつからや」
「新しい番頭が来てからですね。上には番頭が長崎から仕入れた大事なもんがあるさかい、一つでもなくしたらひどい目にあうぞと脅されて、上には上がれなくなってしまいました」
「いちいち、怪しい動きやなあ」
瑠璃はつい口に出してしまう。
「土蔵の上に住まわせるのはあんまりやろ、と先代の悪口を交えつつ、黒兵衛と私以外の下働きは、外に旦那様が借りた裏の長屋に住まわせ、そこから通っておりました。今では皆移動してしまって、長屋ももう借りていませんが」
「その時におった、他の手代や丁稚はどこにいるん?」
「みな、旦那様に連れられて、江戸に行ったおもいます」
「江戸に支店かなんかあるんか?」
「先代のころには、小さな呉服屋が一件、支店として開いておったと言いますけど、そこが閉じられたかは存じておりません。
連れて行った下働きがすべて必要なほどの大きさやないですよ」
「まあ、とりあえずこの物騒なものを、大八車で奉行所か城の倉庫に運ぶ必要があるやろな」
「そうだな」
「こんなもん、大坂の町にあったら怖すぎるわ」
「同心たちに番をさせながら、運ぶしかないな」
「後は、番頭の人相書きを作って回さなあかんな」
「そうだ。瑠璃そいつの顔を覚えてるか?」
「それが、あまり特徴のない人でな。あ、左のこめかみに小さい傷があったな、ほかになんか、喜助さんないかな」
「背は、東次郎様ぐらいでしょうか」
「そうそう」
「それと、絵にはできませんけど、長崎から来た割にはあちらの訛りは無くて、江戸から来た人かと思うこともありました。私や女将さんが近くにいないときは、お侍様同士の会話かと思う時もありますよ。二人の牢人は分りますけど、旦那様や番頭の話し方まで改まった感じでした」
土蔵の武器に囲まれて皆で思案に暮れる。
「なあ、喜助さん」
瑠璃は手代を見る。まだ弱っている感じはするが、顔色が良くなってきていることにすこし笑顔を出してしまう。外側だけかもしれないが、着物も着かえてござっぱりしている。
「なんでしょう瑠璃様」
「先代のなにか書付とか書類は無いですか?旦那さんを江戸から連れてきたときにやり取りした手紙とか、そういうものがあるとしたら何処やろう」
「もしかしたら。竈のそばの引き出しに」
「竈?」
「あるかどうか分からないですが、昔女将さんが私に教えてくださったんです、こちらへ」
そういって、喜助の案内で皆で土蔵を出て母屋に行く。
土間になっているところの隣の座敷の入り口のそばには框の様に横たわった木材が嵌っている。
「これ、動きますねん」
長い木材が手前に引かれると、その奥に取っ手の付いた引き出しが横に並んでいた。
ちょうど、座敷の床下になるんだろう。
「ここに、私たちが丁稚になるときに買わされた証文などが入っているって言ってました」
「よし、ここは拙者が開けましょう」
東次郎が引き出しをひっぱっていく。
平べったい引き出しは全部で三つある。その中には夥しい書類が入っていた。
「とりあえず、これも持ち帰って調べようか」
「そうやな」
「喜助はん」
「へえ」
「こんな状態では、店も開けへんやろ」
「そうですな」
「なにか、客とやり取りしてた予約とか取引とかあるんか?」
「そのようなものは今は無いです」
「しばらく、店を離れてどこか家を借りて待機しておいてくれへんか?」
「そうですね」
「さっき言ってた、丁稚たちに借りてた長屋ってまだあるやろか」
「ありますやろ、丁度この裏の路地にあるんですわ」
「よし、そこの家主にも聞きたいことあるからな」
「では、私は少し手荷物を整えております」
「うむ、七兵衛、喜助が持ち出す荷物を見てやりなさい」
「へい!」
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