21【手代の喜助】
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岡っ引きの七兵衛と瑠璃が、横になった喜助のそばに着く。
百沙衛門と東次郎兄弟は二人で土蔵に入っていった。
「ああ、もう、えびす屋はおしまいですね」
「どうして?ああ、ゆっくり話してくれたらええんやで」
喜助は頷きながら目を閉じて静かに話し始めた。
私は、喜助。数え七歳だったでしょうか。えびす屋の先代の旦那さんの時に丁稚として店に入りました。兄弟が多かったので口減らしみたいなものです。
旦那さんと女将さんは、越前から来た私に厳しくも優しく、手習い算盤、それに子供ならではの躾や色々な作法、そして反物など商品の知識や着物のことを教えてくださいました。
お嬢様が跡取りになった経緯ですが、もともと跡取りと期待されていた長男さんが私が来る前に、病気でお亡くなりになったからだそうです。
一人残されたお二人の子の、ますお嬢様とも幼いうちは兄妹の様に扱っていただいて、可愛がっていただいた思い出があります。
そして、美しい大人の女性になった、お嬢様いえ後に跡を継ぎ女将さんになる、ます様に江戸の呉服屋の紹介で兼近様が婿養子として来られました。
最初の半年ほどは大坂のお屋敷のしきたりを学ぶべく、殊勝な態度で先代の旦那様や女将様の言うことをよく聞いていました。
私も、手代になったばかりではありましたが、年も近いですし、何とか親身になって店のことをお教えしようとしたのですが、先代の見えぬところでは、態度が悪いと言ったら言い過ぎかもしれませんが、商売をしたいようには見えなかったのです。
ある寒い日に兼近様は茶室の前の庭で掃除をして集めた落ち葉を燃やしていました。が、その中には蔵に片付けるよう言われていた夏物の反物が数本、巻きを解かれてくしゃくしゃになって一緒に燃やされていたのです。
「兼近様、何をなさっているのですか。大事な商品を燃やすなんて」
「あぁ?夏物の売れ残りだろ。来年までに虫にでもやられたらゴミになるんだしよ、ここで一緒に片づけてしまえばいいじゃないか」
「なんてことを。織元の織子さん達が一反織るのに二十日はかかっているのですよ!それを・・・」
「うるせえなあ。売れ残りなんだぜ・・・。喜助、お前みたいだなぁ」
「な、なにを」
「なんだ?その目は、次の旦那様に歯向かうとどうなるか教えてやろう」
そういって、町人の私には考えられない速さで拳を下の方から繰り出したのでした。
ドスッ
「ううっ」
私は着物越しではありましたが腹を殴られました。
私はまだ、所帯を持てる甲斐性がないだけだ。
こんな陰で拳を振るうような男より、私の方が幼いころから一緒に育ったお嬢様を幸せにできるのに。
それからというもの、誰も見ていないときに兼近に殴られるようになっていました。
兼近の本性を旦那様にお伝えしたこともありましたが、
「しょうがないのだ。こればかりは古くからの付き合いで断れなかったのだよ。
喜助、どうか、ますを助けてやっておくれな」
「・・・はい」
兼近とお嬢様がとうとう祝言を上げて、三月ほどたったころ、熊野参りに出かけた旦那様と奥様が盗賊に会い命を落とされました。
悲しみに暮れるお嬢様をうわべだけ慰めて、兼近はさっさと新しい旦那の地位に就いたのです。
それからというもの、店を長く開けてあちらこちらに旅に出ては、呉服業とは関係のない荷物を仕入れてきたり、やくざ者や破落戸を連れてかえって滞在させたりするようになったのです。
先代をなくされて落ち込んでいた女将さんが立ち直った時には、もうすでに時は遅く。店の奥深くでは、呉服屋としての機能を失っておりました。
そして、先代までずっと蓄えていたものも持ち出してはどこかに出かけていき、やくざ者や、遊女を連れてきたりしていたのです。
その中でも、玉むしという遊女は、女将さんの前でも旦那にべったりと寄り添っては、昼から酒を飲ませたり、毎夜遊びに連れだしたりと旦那様を振り回しておりました。
そして、旦那様は新たに大小曽川様と、福山下様という二人の牢人を用心棒だと言って、一部屋ずつお与えになって住まわせるようになりました。
まだ、お子さえ生まれていなかった旦那様と女将さんの仲は冷え切っておりましたが、先代から受け継いだ店だけは何とか切り盛りしていこうと、私も精一杯お手伝いをし、お支えしながら女将さんと奮闘しておりました。
半年ほど前のある日、先代が亡くなられた時に、独り立ちして店を離れて行ってしまった番頭の後を任せるためにと、長崎から一人の男と何やら怪しげな荷物を積んだ車で旦那様が戻ってこられました。
女将さんも私どもも、呉服屋としての仕事をしない旦那様の行動をあきらめて、何を仕入れてこようとも見ないふりをしておりました。先代から御贔屓にしていただいていたお客様を第一に考えようと奮闘しておりました。が、新しい番頭が持ってきたその中身を一目見た女将さんは、これまでになく旦那様を問い詰めておりました。
「あんた、これはご禁制の品じゃないの?こんなものが見つかったら、取り潰されるんやないの?それどころか最悪打ち首になるんやないの!」
「何を勘違いしているんだ?
これは玩具だ。ご禁制の品なんかじゃないぞ。本物だったら。玉や火薬が要るだろ?それがなかったら本当には使えないのだからな。ほら」
と言って、その道具を構えて、私の方に向かってカチカチと動作をするのです。
「たしかに、使えへん状態のものならしょうがないんか?うちはそこんところ詳しくないさかい。でも、お上に疑われるようなことはやめてな」
「大丈夫や、心配することはないよ」
旦那様は疑う女将さんを優しく宥めてその場を凌いでいるようでした。
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