20【えびす屋】
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えびす屋の中の様子は、よしの屋と左右がさかさまだがほぼ似たようなものだった。
東向きの平屋の建物は入り口が二つあって、南側が店、北側が住居用の入り口。
だが、昨日お座敷で主人が何食わぬ顔で遊んでいたとは思えないほどの荒れようだ。
まるで泥棒にでも入られたかのようだ。
店の手前の座敷は普通にいつもの店の様子があるが奥の座敷は足の踏み場もないほどに反物がひっくり返っている。
その奥の台所の横の座敷もかなり荒れている。
煙草の盆があって、数本の煙管や灰が散乱している。
思わず畳んだ手ぬぐいを鼻の下に充てる。
「百さん」
「ああ」
明らかに煙草とは違う匂いが部屋に染み付いている。
「ここでも阿芙蓉をやっていたのだな」
弟の東次郎も一緒に見分している。
居住用の座敷にいくと、立派な床の間に大小の刀が飾られていた。
「もしかして、えびす屋の主人も」
「武士だったかもしれぬ。商人に身をやつして何をしていたのか」
いくつかの襖を開けて、中の行李をさらに開ける。
「裃が出てきたわ」
大きな紙に包まれた、青みがかった灰色の裃。
この兄弟は奉行所内で他の武士を相手にする時しか裃を着ないが、町に出ると与力以上は裃を着ているものだ。
「裃は町人も正月に着るだろう」
正月や行事の節目に神社にお参りする大店の主人も裃を着て袴を履くことはよくある。
しかし、裃が包まれていた紙の下には、桐の薄い箱も出てきた。その中にさらに紙に包まれた着物が。そこにが
「でもその下には大紋まで入ってるわ」
大紋は江戸城に登場し、将軍に会う時に身に着ける武士の一段上の正装だ。
これを持っているということは、将軍に会えるほどの身分の武士だったということだ。
「この紋、どこの家のか」
「もちろん、調べる」
「百さん、昨日まで店にいた手代がおらへんわ。・・・というより、誰も居ぃへんのがおかしくない?
番頭は道頓堀のお座敷にいたけど、旦那と一緒に捕まえてあるん?」
「いや、奉行所に連れて行ったのは、ここの主人だけだ」
仏壇には先代と、先日亡くなった女将の真新しい位牌がある。
その下の引き出しを開ける。
「百さん、ここに鍵が」
「多分土蔵だろう」
「隣のよしの屋さんも裏の離れに丁稚たちの部屋があるんや」
「とにかく行こう」
先に裏に向かっていた、岡っ引きの七兵衛と東次郎が戻ってきた。
顔色が悪い。
「離れに男が一人倒れている」
「生きてるのか?」
「虫の息だけどな、生きてる」
「とにかく行こう」
土蔵の隣にある下働きの部屋の一室にたどり着く。
雨戸が開け放たれて風通しはよいが、部屋の中は、じめっとしている。
「窓は東次郎様たちが今開けたんですか?」
「そうだ、近づくなよ。吐いているようだ。何やら流行病かもしれぬぞ」
近くの井戸に行って、水を盥に汲む。
手持ちの竹筒にも入れる。
そうして、離れに戻る。
やっぱりこの人
「喜助はん。大丈夫か?喜助はん」
水を入れた盥で、手拭いを絞って、喜助の顔を拭いてみる。
東次郎が言ってた通りに口の周りに吐いたあとがあり、汚れている。
それを拭いながらこの冷たい感触で気が付けばいいと、もう一度絞りなおして顔を拭いてみる。
ふっと思い出して、懐に入れていた印籠から小さな丸薬を二つほど出して、喜助の口に入れ、竹筒の水を口から流しいれる。
鼻を摘まむと苦しいのか無意識でも口が開いたのでそれで飲ませることができた。
「ごほっ」
ゴクッ
咳き込んだ男の目が開く。
「喜助はん、もうちょっと水飲んで」
瑠璃の顔を認めた男が頷いて水を飲む。
「はあ、助かりました。瑠璃様」
喜助は瑠璃が、お染に連れられて隣に出入りしてした客だと思っているようだ。
「今布団入れ替えるさかい、ちょっと待ってな」
そうして押入から奇麗そうな布団を出して、隣に敷く。
「喜助はんこっちに。まだ寝とき」
「瑠璃さん。どうして瑠璃さんがここに?」
汚れた布団を丸めて外に追いやる。
「うちのことは詮索無しで頼むな」
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