15【とっさの小唄】
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「小まめ姐さん、座敷に着く前に、ちょっと注意を先に言って良い?」
「なんやの?」
「煙草やお酒を勧められたら、絶対断るんやで」
「え?なんで」
「最近、えびす屋の悪いうわさが色々あるねん。姐さんのためやからな」
「おりょんさん亡くならはったのに遊んでる事か?」
「まあ、それだけやないけど」
小まめについて行ったのは、お座敷遊びを専門にする茶屋で、芝居小屋を抱える茶屋とは趣が変わる。
「「こんばんわぁ」」
「待ってたで~」
「おそなって堪忍やで」
座敷ではすでに男性が数人いて、一人はえびす屋の主人、そしてえびす屋の新しく変わったという番頭、それに二人の侍だ。
侍の一人は大小曽川、もう一人は福山下という名前で、大阪城の稽古場で見たことがある。刀は持っていて、袴を履いた武士の身なりであるが、仕える主が居らず二人とも牢人であることも知っていた。仕官先を探しながら、苦労して生活していると聞いていた。なのにこのお座敷。
稽古場では凄くまじめに取り組んでいたように見えていたが、今の二人はどうだろう、すでに酔い始めていて、しなだれかかっている遊女に夢中だ。
「なんや、もう盛り上がった後や無いの?」
「とりあえず舞いますか?」
「せやな」
番頭に顔がばれないよう、藤のかんざしで半分顔を隠しながら、三味線を抱える。
演目は源氏物語の一部を抜粋して、適当に瑠璃が節をつけながら歌う。
それを一節聞いた小まめが少し頷いて、舞い始める。お互い合わせたことはないので出たとこ勝負の踊りだ。
「なんや、聞いたことない歌やな」
「しかし唄の内容は聞き覚え有りますよ」
「拙者も、母親が読んでいた物語に似てまする」
教養があるなら知ってるかもしれないな。
歌いながらじゃ聞こえないから、口の動きでつぶやきを拾う。
それにしても、小まめは芸事が好きと言ってただけあって、とっさに歌ったものでうまく踊るなぁ。
今は白拍子の踊りより、こういう少し動きのある小唄風のものが庶民にははやっている。
ひとしきり踊ってもらって、まるで合わせ稽古をしてきたように、ぴったり唄と舞が終わる。
「おお、よかったで」
「「お粗末さんです」」
「いやいや、唄もええ声やったわ」
「へえ。おおきに」
武士の福山下に付いてた遊女が番頭のほうにずれ、呼び寄せられる。
「あんた名前は?」
「今日は、臨時で入りましてん、名乗る名前はあらしません」
「じゃあ源氏名じゃなくて」
「いややわ、福山下様。詮索はなしですえ。うちがおつぎしますさかい」
「そ、そうか」
「ほんま、あんた三味線も唄もうまいなあ」
お客に酒を注ぎながら、小まめも話しかけてくる。
「これも我流で、姐さんも即興に合わせてくれおおきに」
「あの絵物語を唄にするなんてびっくりや」
「姐さんもすぐに分かってくれましたやん」
「へえ、二人ともいいとこの出なん?教養あるんやなあ」
「教養って、お金貰うならちょっとはねぇ」
「うちは、菫乃丞はんと違って、何もないとこからは作れまへん。
琵琶法師の平家物語みたいなもんですやん。ささ、旦那様も」
「あ、ああ、おっと」
「堪忍」
「大丈夫、座布団にこぼれただけや。あんたも飲むか」
「うちはちょっと、お医者に止められてて」
「なんや、持病もちか?」
「お酒飲んだら、ひっくりかえりますねん」
「ほな、煙草はどうや」
「それもちょっと」
「なんや、付き合い悪いなぁ」
「すんまへん。お詫びにもう一曲やりまひょか?」
なんて、適当にあしらってたら
「ちょ、ちょっとなんやのあんた」
「きょうは呼ばれてないで」
「うるさい」
下から廊下でドスドスと足音と数人の声がする。
バァン!
座敷の襖が乱暴に開かれる
「旦那様ぁ、どうして」
そこには、ガリガリに痩せた玉むしが立っていた。
芝居小屋で見かけてから十日も経ってないというのに、その変わりようにさすがの瑠璃も驚くが、玉むしは真っすぐ、えびす屋の主人のほうに進んでいく。
思わず小まめをかばうように前に出る。
「なんやのあんた。じゃませんといて」
玉むしがつかみかかるようにするのを少しいなす。
「なんやはそちらの方です。大きな声で、何しに来はったんですか」
「旦那はうちのお客さんなんや、どいて」
とりあえず成り行きを見たいので、小まめを守りつつ、えびす屋の主人への道を開ける。
しかしその前に二人の武士が壁を作っている。
「福山下様どいて下さい、話だけでも」
「なんだ」
「旦那様、薬を下さい」
「薬?この人は呉服屋だ。薬屋ではないぞ」
「旦那のために怪我したって言うのに。あれがないと肩が痛くて。その煙管でいいから」
もしかして苦無の傷の痛みを阿芙蓉で胡麻化してたのか。
「姐さん、まだお医者に行ってへんのか?」
小まめは知ってたみたいだ。
玉むしは恨めしそうに睨んで
「・・・肩に傷のある者はお上に言うように、医者にお触れが回ってるんや」
「姐さんが捕まるわけやないやろ。それともなんかしはったんか?」
「べつになにも
・・・とにかく薬を下さい旦那様」
「もうタダでは譲られへん。お前には散々渡した」
「そんな、傷口が醜いから客がとれへんって部屋を出されてしもうて、金なんかないわ」
「そんなら、無理やな」
「そんな・・・うちは旦那様と一緒になれる言われたから」
ふらふらと、打ちひしがれたように出ていく玉むし。
その様子を見ながら、えびす屋と侍の一人が何やら静かにやり取りをしている。
「旦那様、私たちも少しお花摘みに。
姐さんもちょっと」
「う、うん」
玉むしの動きを捉えながら、小まめを連れ出して、お座敷を取り仕切っているものがいる部屋に行く。
「ちょっとお兄さん、今出て行った玉むし姐さんやばいから追いかけたいんやけど、小まめ姐さんをかくまっといて」
「え?ちょっとそれは」
「いいから、これで頼むわ」
とこっそり十手を見せて、小さな銀板を掴ませる。
「わ、わかった。小まめちゃんそっちの納戸に」
「え?ってお瑠璃ちゃんどうするん?」
「うちは大丈夫!あ、さっきのお侍さん出て来たわ」
大小曽川が袴の帯に刀を差しながら出てきた。
「はやく、小まめちゃんこっちや」
「兄さん頼んだよ。あとうちの三味線もお座敷に置きっぱなしやねん、あとで見といてな」
「追加欲しいわ」
と手を出す男に
「わかったわかった」
と返すと、良い笑顔で送り出してくれる。
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