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14【次は見習いの】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 「これ、菫之丞様の簪?」

「あれは舞台用やさかい顎の下、胸のあたりまで垂れ下がってて大きすぎるやろ。あれよりは小さいけど、この大きいのは花街のお姐さん用や。せやからふた回り位小さいこれやったらお嬢さんにも使えるやろ」

「むしろこっちの方が可愛いわ」

「どれどれ、わあ、ほんまこの白っぽい藤もええなあ」

「あら、ほんまにお瑠璃ちゃんが作ってたんや」

 瑠璃が作業をしている番台をのぞき込んでいる客が直接声をかけてくる。

「器用やなあ」

「おおきに」


 番台で、出入りする客を見守りつつ簪をこしらえている。

 店頭では、よしの屋の女将、お福が張り切って簪を売ってくれているのだ。


 そろそろ、昼間は藤の簪を作りながら、店じまい後は同じ番台で牡丹の簪を作っている。

 先に作っておいた、菫之丞の舞台用には顔の半分もあるような大きなものだ。大きくて邪魔になるので長屋に置いてある。こちらはつまみ細工ではなくて、火で炙ったコテで整えていくと布が花びらのようになっていく。それを糸で縛っていけば見事な牡丹になる。


 でも、牡丹これの舞台が始まれば、つまみ細工で出来た小さい牡丹も必要だろうと、花だけ沢山作っておく。簪に取り付けるだけならすぐだ。


 陽が傾いてきたので、店じまいのための掃除を店先でしている。

「お瑠璃ちゃんおつかれさんやなあ」

「小まめ姐さん、今からお座敷ですか?」

「せやねん、あんまり気ぃ進まへんねやけどな」

「おや」

 近くの髪結処に寄ってきたのか、びしっと整えられた島田に、瑠璃が芸舞妓用に作った、菫之丞のよりは少し小さな藤の簪を付けている。

 唄や踊りなどの芸事が好きだと言って、いつも生き生きとお座敷に行く女性だ。

「なんで、憂鬱なん?」

 小まめが舞扇で顔を隠しながら教えてくれる。

「客はほら、お隣のえびす屋さんやねんけど」

「おやまあ」

「あの人ら全然歌や踊りに、のってくれへんねんよ」

「あそこのご主人には、玉むし言う人がくっついてなかった?」

「最近、お座敷では見ぃひんよ」

「へぇ、喪が明けたらあの人を身請けするとかいう噂やってんけど」

「そういえば、まだ喪中やんな。でもほとんど毎日あっちこっちの娘を呼んではるらしい」

「小まめ姐さん、うちも連れてくれへん?三味線ぐらいやったら弾くで。それに最近物騒やから付いて行くわ」

「ほんまに?」

「ちょっとこっちの女将さんに言うてく・・・」

「言うときますよ、瑠璃姐さん」

「わっと、卯乃吉ちゃん。ほな頼むわ、今日中には戻るさかい」

「坊ちゃん、お瑠璃ちゃん借りるわな」


「お二人とも気を付けてくださいよ」

「「おおきに」」


「途中で自身番屋によってうちの長屋にもよっていい?」

「もちろん、お座敷はそっちの方が近いから」


 番屋の岡っ引きに言づけして、よしの屋の様子を見るように頼んでから、長屋に行く。

 かろうじて夕焼けの時間で、着替え位は出来る。


 小まめを招き入れて奥の部屋の押入から三味線と、舞子風の着物を出す。


「姐さん、これ、ちょっと見といて」

 袋に入ったままの三味線を渡す。

「お瑠璃ちゃん、三味線も持ってるんや」

「お琴もあるんよ」

「どっちも弾けるんか?」

「こう見えて、京女どす。ふふふ」

 話しながらシュルシュルと着替えていく。

 その横で小まめが三味線をだして音の調子を少し合わす。

 チン・シャン・シャラン

「うん、三味線は大丈夫や、ちゃんと手入れしてるみたいやから、おかしくないわ」

「おおきに。よかったです」

「帯やったるわ」

「ほんま?うれしい」

「ええ着物持ってるなあ」

「余所行きはこれだけや」

 実家で姫として着ていた振袖の打掛で裾引きずりができる一着だ。それを姫としてはあり得ないほどに背中を開いて腰ひもを締める。

「よし、出来たで!可愛いわ」

 水木結びに仕上げてもらって少し気分が上がる瑠璃。


「おおきに、お礼にうちの新作の簪していかへん?」

 一つ出来ている、芸舞妓向けの牡丹の簪。華やかできっと座敷に映えるだろう。

「まあ、ほんまきれいやないの」

「こっちの大きいのは菫之丞はんの舞台用なんやけどな」と押入に布をかけてある牡丹をチラリと見せる。

「うちの方が先に使わせてもらえるねんや」

「かわりに、小まめ姐さんの藤の簪と交換して」

「もちろんええよ。いや、あんたおこぼ(下駄)まであるんかいな」

「これは、高さがないさかい歩きやすいねん」

「へえ」

 島田に簪は差したが、小まめの下に着く見習いとして行くので、すっぴんである。

「白粉には負けるけど色白やからおかしくないわ」

「おおきに」

 ほかの芸舞妓に見られたら怒られるかもしれないけど、道頓堀だしおおらかだろう。


「ほな行くえ」

「へえ」

 ガラリと引き戸を開けて出る。


「おや、どこの別嬪さん達かと思ったら、一人は瑠璃ちゃんやないか。もう一人のお姐さんは?」

「小まめ、いいます。よろしゅう」

 隣家の権蔵の銭湯帰りの赤い顔が小まめの笑顔でさらに赤くなる。

「お帰り権蔵さん。ちょっと、手伝いにな」

「気いつけて行っといで」

「はーい」


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