13【間者】
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「昼はここを使うておくれやす」
もう夜なので店は閉まっている。建物の出入口は別にあって、そこからよしの屋に戻った瑠璃達は、店に入ってすぐ右にまるで京の広隆寺の門の仁王様がいらっしゃるような囲われたところを示される。
土間から膝より少し高く三畳の畳が並べてあって、その周りを、出入りする一部を除いて胸の高さでぐるりと囲われている。そして、丁度よい広さの座卓とお寺の住職が使うような分厚い座布団。土間から見ると首のあたりまで壁になっている。
南向きに窓があり作業するのには素晴らしい明るさだろう。それでいて、表からは見えないようになっている。
「風呂屋にもありますやろ。ここでも番台いうてます」
「なるほど出入りするお客さんが見やすいですね」
ここにいつも、女将さんや時折手代などが控えていて、訪ねてきた客に早く対応できるようになっている。
「ほんまに、ここを貸してくれはるんですか?」
「へえ、それに、うちも噂の瑠璃さんの内職をみたいんや」
「うちのは見様見真似の我流やで」
「せやけど、それで市山 菫之丞の人気が出たって知ってる人もいるんやさかい」
「・・・わかりました」
「その、卓の下にさっき取って来はった御道具の箱を置いておいたらええでっしゃろ」
「そうします」
長屋から持ってきた藤の道具入れを卓の下に置かせてもらう。
「ほな、今日はもう疲れはったやろ。晩御飯にしまひょ」
「分かりました」
出てきた料理は麦や雑穀が一粒たりとも入ってない真っ白なご飯、鰆の白味噌焼き、ほうれん草のお浸し、高野豆腐とエンドウ豆の炊いたもの、根菜類のお澄まし、田辺大根の漬物などがお膳に乗せられている。さすが大店やな、なかなか充実してるわと頬が緩む。
「どうでっしゃろ、お口に合いますやろか」
不安そうに言う女将ににっこり笑って、
「へえ、大変美味しゅうおす。それに、こんなにきちんとしたものを本当に久しぶりに食べました」
いつも、こすけの饂飩ですませている。竈のある長屋に住んでいるというのに、料理しなさすぎやな。とちょっと反省したりして。
それもそのはず。姫として生まれ育ってきたので、料理の稽古はしていない。忍者修行の野営の方法は習っているというのに。それに、安くても一応同心の給金と簪などの内職代、京の実家からの小遣いもあるので、懐の心配はいらない。
それでも忍びや同心の真似事なんて若いうちしかできないんだから、ずっと必要な料理ぐらい稽古するべきだななどと反省しながら、お膳の料理を食べていると。
コーン、リーン
「ひゃあ、なにごとやろ」
女将さんがびっくりした。
「さっき、瑠璃さんに案内したところやないか?」
主人も気付く。
「おい、何してるんや、さっき皆に言うたやろ!瑠璃さんの作用場になるから触るなと」
大きな声で怒っているのは、昼に蔵の中にいた手代の六郎だ。
怒られているのも、蔵の中にいた薹のたった隣の店から来たと言われている丁稚だ。
たしか黒兵衛と紹介されていた。
「すんませんすんません。掃除し忘れとったの思い出して」
「掃除ならさっきそこの卯乃吉がやっとったわ」
瑠璃は、横にいた昨日破落戸から助けた一番年下の卯乃吉に声をかける。
「どうしたん?」
「なんかあの、黒兵衛さんが瑠璃姐さんがさっき座卓の下に置きはった道具の箱を開けようとしたらしくて」
「ほーん、ほんでその上に置いてあったものに気が付かへんかってんな」
「何置かはったんですか?」
「湯飲みとお鈴や。やっぱり触ると思っててん」
卯乃吉は奉公にきた丁稚に見えるが、この店の三男坊だ。だから打ち明けてもいいだろう。手で黒兵衛から見えないように口元を隠しながら卯乃吉の耳に近づく。
「黒兵衛はんはたぶん隣を首になってきたんじゃなくて、隣からの間者やと思う」
「やっぱり」
「え?卯乃吉ちゃんも感づいてたん?」
「時々こそこそうろうろしてはんねん」
「なるほど」
間者をやるには素人ってことか。
土間で草履を履いて二人に近づく。
「お兄さんどないしはったん?」
「この黒兵衛が、瑠璃さんの荷物を開けようとして」
手代が申し訳なさそうに説明してくれる。
「いや、さっき瑠璃姐さんがココ使うから軽く掃除しといてて言われたのに、まだ掃除してなかったとおもって」
「そんで、うちが持ってきたその箱を触ったんやな」
「そうしたら、上に何かおいてはったのか、転がり落ちてえらい音して」
番台の中を確認する。箱の向こうに音の原因が転がっていた。
「箱にはこの、小さめの仏壇に置く小さいお鈴と、切子の湯飲みを蓋の上に乗せててん」
「なんでそんなもん持ってきたん?」
「お鈴は、これ用の座布団を頼まれてるのと、切子はもらいもんで、いつも使ぅてるさかい、持ってきてしもてん。大事なもんやさかい、割れんでよかったわ」
「堪忍やで、瑠璃姐さん」
黒兵衛が必死で謝ってるけど、全然反省してないのがバレバレだ。
「お瑠璃ちゃん、その切子って、天満橋のやろ?ちゃんと瑠璃色やねんな」
切子を作って売ってる店は、大坂奉行所のすぐ近くにあって、にやにやしてる女将さんの推測通り、百沙衛門からのもらい物だ。
「そんなことより、黒兵衛、商売は信用が大事なんやから、お客様じゃなくても他人の私物を触ってはだめやで。特に女子の荷物なんて触っちゃあかん。これからも気を付けるように」
女将さんが取り戻した剣幕で黒兵衛に注意をする。
「へえ」
「ほんまにわかってんのか?」
「すんません」
「・・・それにしても、本当に引っ掛かったな」コソッ
主人が言うのに、
「ほんまやな、瑠璃姐さんすごい」コソッ
卯乃吉も同意する。
「昼も、手代の兄さんの話し中も、土蔵でキョロキョロと目が動いてたんやもん」
「やっぱり」
「そうそう、上の者の話聞いているんかわからん時があるんや」
「えびす屋に有益なネタを探しているんかもしれないな」
「きもちわるい。まっとうな商売しやんとそんなことばっかり」
「ほんまに」
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