12【番屋】
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「よしの屋の主人、よくやりましたね」
夜。同心姿の百沙衛門がよしの屋の一番近くにある番屋の狭い六畳の間に、主人と女将を呼んで話していた。
隣の土間には、一人の岡っ引きの七兵衛と、瑠璃が上がり框に腰かけて足元のトラオと遊んでいる。
「瑠璃ちゃんやっぱり、島田も似合うやん」
「おおきに、あ、トラオほれっ」チリン
瑠璃の手元に紐があって、その先には鈴のついた赤い房がぶら下がっている。その先でトラオがじゃれている。
「このえびす屋の袋の中身なんだが、阿芙蓉と言うもので、ご禁制の品だ」
「やっぱり!」
よしの屋の主人が思わずつぶやく様に言う。
「まさか」
防虫剤だと疑ってなかった女将は吃驚している。
「反物の防虫に使えないのは当たり前です。
今回は私の一存で、よしの屋さんが所持していたことは不問にしますので、決して口外しないでください」
「煙草の葉に混ぜて燻して使うんやって言われたんです」
「なぜ言われたように使わなかったんですか?」
百沙衛門の質問の後に主人が答え始める。
「実は、私も少し疑っていたのです、この粉が明から来たことと、えびす屋に出入りしている人や客が時々酔っぱらったようにふらふらしながら出ていくところを見たことがありましてね。
花街で宴会した帰りじゃあるまいし。呉服屋ですよ?」
「まさか・・・」
同心の顔色が変わる。
「今後もこういうことがあったら、遠慮せずに相談しなさい」
それでも穏やかな笑顔を主人と女将に向けながら、優しく諭す。
武士なのに町人への心配りが人気の同心だ。
「はい、そうします」
「それから、昨日の破落戸もえびす屋と懇意にしていたやくざ者とつながっていたわ。
ご主人、とりあえず用心棒を増やして、特に隣のえびす屋に気を付けて商売を」
百沙衛門の言葉に、恐る恐るお福が瑠璃に切り出す。
「あの、しばらく用心棒に、瑠璃さんをお借りできまへんやろか」
「あぁ、女将それは」
少し渋い顔をする百沙衛門とは対照的に、なにも考えてないような瑠璃の表情。
「へ?うち?
ええよ?うちは誰かに雇われているわけやないからな。遊び人みたいなもんや」
「え?ちょと瑠璃さん!」
狼狽する百沙衛門。
「昨日の破落戸をやっつけたのも鮮やかやったやん。ごつい用心棒なんかが店の前に立っとったら、お客さんが出入りしにくいやろし」
「そんな鮮やかなんて、おおきに」
「せやなあ、瑠璃さんなら心強いよ」
よしの屋の主人もニコニコと頷いている。
「ちょっとそれは」
慌てる百沙衛門の声に気付かぬふりをして、
「かめへんよ」
「ああっ」
なぜか途方に暮れる百沙衛門。
「やった!ちょうど嫁に行ってしまった娘の部屋が空いとるさかい」
「それなら、旦那さんたちの部屋に近いんやな」
「せや」
「それでええやろ?百様」
「うーん」
強いと分かっているけど危険な所に行かないで欲しいのが惚れた男の素直な気持ちだ。
「ただな、よしの屋はん、うち別にやってる内職があって、それの道具持ち込んでもええか?」
「もちろんよろしおすよ」
「ああ、なんなら、ちょうどよい作業場を貸すで」
「しばらく住み込んで」
二人でぐいぐい誘ってくる。それが少しうれしいような。
「おおきに、そうさせてもらいます」
「じゃあ、今から七兵衛と荷物を取りに行くか?」
「へえ、行きまっせ」
岡っ引きも気軽に乗る。
「うち一人で大丈夫やで」
ここ心斎橋から堀江銀座裏の長屋まではすごく近い。
「せやけど瑠璃ちゃん」
「大丈夫、大丈夫。うち強いから用心棒するんやもん」
分かってるけど、女の子でしょ!
と言いたい気持ちをこらえて、
「そこの馬つかうか?」
この番屋は自身番で、火消しの道具と、街を見回るためのものが供えられている。
馬もそうだ。百沙衛門は瑠璃が馬に乗るのが得意なのも分かっている。
「そんな大げさな、今はこんな着物なんやから乗られへんわ。すぐ戻ってくるよって!馬はまた今度な。
あ、百様、一つだけ頼みたいんやけど」
「なんだ?」
「百様の黒っぽい着物か羽織貸してくれへん?」
このままじゃ、女の格好すぎて夜歩くと目立つ。
素直に頷いて、今着てる羽織を脱ごうとする百沙衛門に、
「それじゃなくて、奥に置いてあるやろ?」
「うるさい、これにしろ」
バサッと投げる。
「え?うん、おおきに」
その様子をよしの屋の二人が見ている。
「おやこれは」
「あらあら、まあ」
それが聞こえた百沙衛門は少し赤い顔になるが、羽織を頭からかぶった瑠璃は聞こえないのかそのままガラリと番屋の扉をあける。
「ほな、すぐ戻ってくるさかい」
「確かに、うちの嫁には無理そうやな」
「残念やな」
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