11【紫の房の】
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そういえば、昨日の昼は番頭さんと店番をしていた。
髪も島田に結ってもらって、普通に女物の着物に襷と前掛けをしていた。
百沙衛門の屋敷の老女中のお染と一緒によく来ていたから、番頭とも顔馴染みで、道頓堀の役者の話をする。この番頭は話すのが好きで色々なことをぺらぺらと面白おかしく言ってくれる。
大坂での着物の流行は、今は一番人気の女形の菫之丞から始まっているようなものだ。流行の演目や内容、それのための衣装など。
一緒に居合わせた女性客にも、瑠璃が作ったとは知らずに菫之丞の藤の簪の話題も振ってこられた。
「あのお芝居、お客さんも行かれたんですか?」
「そうなんよ」
「うちや、ここの女将さんも行きましたえ」
「あの簪素敵やったな」
「あれは舞台用やからなぁ。うちらが着けたら、お饂飩どころか茶ぁも飲みにくいでっせ」
「ふふふ、お瑠璃ちゃんも面白いこと言うわ」
「せやろ」
「番頭はんまで」
「ははは」
「ほな、この三つの反物包みますね」
「おおきに」
その客が買った反物をまとめて、風呂敷に包んでいると、表から大声でわめきながら三人組の破落戸がやってきた。
その横には丁稚に入ったばかりのまだ八つの男の子が青い顔で震えていた。
「おうおうおう、この店の丁稚に水掛けられたんだけど」
下駄をはいた毛むくじゃらの足が確かに濡れていた。
「それはすんまへんなあ。番頭はん手拭いを」
「へえ、どうぞ」
よしの屋の屋号が大きく染め抜かれた手拭いを受け取って一番いかつい顔の破落戸に渡す。
「どうぞ」
二人でにっこり。そして番頭はささっと女性客の前にでて、するりと帰らせていた。
「はあ?俺様の足を濡らされたのを、手拭い渡すだけで終わると思ってんのか!」
「詫び料に三両出しな」
「三両は多すぎやろ。汚い足を洗ってもらったと思えばいいのに」
本当にしょうもない男たちや。思わず半目になってしまう。
「なんやと!」
「ほな、せめてうちが拭いて差し上げましょう?そこに腰かけて下さいな」
示した腰掛に座った破落戸の前に瑠璃がしゃがんで、脛を拭こうとすると、
「兄貴の足に触るんじゃねぇ」
三下が叫ぶのに、
「うちじゃあきまへんか?」と上目遣いに一番偉そうにしている破落戸を見る。
「うっ、まあ、拭けや」
「ほな、で、どういう感じで水がかかったんどす?卯乃吉ちゃん」
「僕が持ってた手桶を、そっちの男が蹴飛ばしてきて、びっくりして柄杓をこう」
と、卯乃吉が柄杓を動かす。
「あ?なんだと?わしが悪い言うんか」
「まあまあ、兄さん。で卯乃吉ちゃんその手桶は?」
「これです」
「あぁほんま、こんな上の方に泥ついてるやん。あ、桶の輪が緩んでるやん。
兄さんあんたがこれを蹴飛ばして壊したんやね。
逆に桶代請求せなあかんのんちゃう?」
と卯乃吉に言うと、青かった顔がマシになって、うんうんと頷いている。
「こ、このー」
「このアマ、兄貴を舐めるなよ!」
二人の三下が暴れだす前にと、
ガシッ
「しょうがないな、うちがお相手してあげるから、表に出まひょ。よしの屋さんの中で暴れるんじゃないよ」
三下二人の襟ぐりをそれぞれつかんで両手に下げるように引きずっていく。
「え?や、やめろ何するんだ」
「な?なんだこいつ、店の女じゃないのか?」
「すげぇ力、取れん」
三下がじたばたしていると、
「貴様ー」
ガタガタガシャン
「な、なに?」
瑠璃に足を拭かれていた破落戸が腰掛からずっこける。
「椅子からこけるなんてあんたの兄さんは器用やな。
まあ、うちがさっき手拭いで椅子の足に括ったからやけどな」
「なんだと!」
「女だと思って手加減すると思うなよ」
弱い犬ほど吠えるっていうんだけどねぇ。
「本気でどうぞ」
顔の前で上に向けた手のひらの指をくいっとしたところまでは周りの者も見ていた。
瞬く間に三下二人は通りでのされ、
腰掛に縛られた男もよせばいいのに、もたもたと足の手拭いを外してからよろよろと殴りかかってきたのであっという間に返り討ちにあう。
まだ、少女とも呼べるような娘が、細い腕で悠々とそれらを後ろ手に縛る。
「な、なんでや」
「強すぎる。本当に女か?」
「あんたらが弱すぎんねや。見掛け倒しっちゅう奴やな」
縄はないので、身に着けていた襷や前掛けを使って、三人を繋げるように縛っていく。
そして、自分の裾をちょいとめくってとあるものを出す。
「お、お前は何者だ、ってなんだそれは!」
瑠璃の手には紫色の房がぶら下がった十手があった。
それを、よしの屋からは見えないように、男の首に置く。
「誰の差し金で、よしの屋に来たんや?自分達の意志でやったんやないんやろう?」
「・・・くそ、女のくせに同心かよ」
「そんな台詞はいらんねん」
「「・・・」」
「お、俺は知らん、兄貴に言われてついてきただけや」
三下の一人が叫ぶ。
「そうか、で?兄貴はんは?」
「・・・」
「だんまりでっか。今言うた方がよかったんやけど」
ため息をつきながら瑠璃が自分の胸元の合わせに指を突っ込むと、呼子の笛を出す。
ピィーッ
すると、近くの番屋から、岡っ引きと同心が走ってやってきた。
「・・・瑠璃」
「百沙衛門様ご苦労様です」
「俺は何もやってないけどな」
「ふふふ、まあそいつ等からいろいろ聞いといてな」
そういう昨日の破落戸の話の翌日なのに、懐の粉の話を付け足して言うのが少し怖い瑠璃だ。
それでもにっこり笑って、女将さんに伝える。
「ほな夜に旦那さんとおってな。店が終わったら連れて来るよって。それからこれはうちが預かるから」
女将さんは昨日からまるで、舞台役者を見るような目で瑠璃を見ている。
「お瑠璃ちゃんかっこいいわぁ、惚れそうや」
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