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前章 二分された世界

ヨーロッパの街並みが美しく広がり、人が行き交っている。昔エコタウンとして名を挙げた、ドイツの街並みだった。原動機(モーター)付自転車が人を乗せて坂を駆け上がっていく。かと思えば、礼儀正しく反対側を同じ自転車が下っていく。道路の真ん中には路面電車のレールが走り、ちょうど今すぐそこを通り過ぎていった。最近の日差しだけはどうにもならないが、全く気にはならないだろう。

誰かが商店に入ったが、おかしなことは彼が商品の料金を支払わなかったことだ。いや、実は無料だ。

ああ、こここそ2090年の世界だ。商品は無料で、自転車でさえハンドルを動かす必要がないし、タクシーも公共交通機関も、果ては航空路線だって無料だ。

面白いのは、そこに何やら大きい銃火器を持った少年がいても誰も驚かないことだろう。

——ところで違和感がないだろうか?どうして彼らは何も感じずいつまで経っても幸せそうなのか、と。

正解は彼らがいつでも幸せなようにプログラムが頑張っているからだ。素晴らしいではないか、ここにはいつまでも満ち足りることのない幸福感をいつも埋めてくれるシステムがあるのだから!

それに比べて、日本周辺は未だに労働という概念や思考という概念を捨てていないのだ。ブッダやシャカによれば、何も考えないことが(というより、ただ感じるだけ)一番好ましい行為であり、幸福に近づくとされているのに、なぜ働いているのか?彼らは古いものにしがみつくあまり旧世代化してしまったのではないか?

なぜ理解できないかと言えば、彼らには思考という概念がほぼ残っていないからだろうが、それでも感情などを追い求めるよりも欲望を求めるのは甚だ馬鹿らしいというのは、ヨーロッパではいたって常識的だった。

さて、もしここで「戦争がある」と言えば、どう思うだろうか?馬鹿馬鹿しいだろうが、単純かつ複雑な問題が、対立を生んでいた。

AIが様々なこと、特にバイオメタリックセンサーで人の心を読むことができることは大前提なのだが、2060年代後期にAIが人に最大限の幸福を与えられると研究が結論した。

すると、こういう議論が起こった。「全てをAIに任せるのか、AIはサポーターであり続けるのか」だ。

第三次世界大戦でその悪名を、そして世界平和演説で一気にその評価を覆した政治家、道乃修也は、この問題を「個人の好み」と一蹴したこともあって、この議論はますます決着を困難にするばかりとなった。

ヨーロッパでこの運動を指導する者が現れると、それに対抗して日本のかりそめのリーダーとなった人物が東方アジアやオセアニアをこの「AIはサポーターである」という考えで埋めた。ようは、先ほどのヨーロッパの常識とは真反対に、人間が人間社会を維持し、例え技術開発の速度が遅くなろうとも人間が自らの手で未来を切り開く世界観を持っているわけになる。

彼は彼でAIをサポーターにしつつ人間としての尊厳や幸福などを考え、新たな理論や政治構造を作り、それがまたこの考えの支持者に受けたため、彼の理論は晴れて東側の根幹となった。

だが、対立はどう抗おうと対立で、それはある事件で一気に戦争へと加速した。ヨーロッパ側指導者は、アメリカから太平洋を渡って日本に攻撃を加えたのだ。生憎先の大戦で整備された防衛システムを攻略することはできなかったが、これがきっかけとなって双方は一切の交渉を断絶してしまった。それ以来インドとヒマラヤ、ウラル山脈を結ぶ線を境目にして二大対立構造が存在した。AIの発展は核兵器というデジタル制御兵器を無効化させたが、アナログ兵器や独立型の戦術指令システムは兵器の運用が続いた。20年以上に及ぶ対立で争いは小規模化の一途を辿りつつあるが、それは冷戦という貧弱な勢力均衡に少なからず似ていた。そのうちに全ての集中運用をするための中央指令AIがヨーロッパ陣営で、一定の基準のもとで戦争を一括指揮する軍務AIが稼働し、両陣営では徴兵制まで使用されるようになった。なぜ徴兵がAIに委ねられているかは、AIのバイオメタリックセンサーに聞いてみるといいだろう。

政治もこれらに影響されていた。ヨーロッパ側は政治こそAI任せで明言されないとはいえ、東アジア側は世界をAIサポーター論で統一させる所存だと20年間言い続けてきた。対立は今や当たり前になって、いよいよ(おそらく最後になるであろう)戦争でしか解決できない物となってきている。

社会は間違いなくこれまでと一線を画すほど幸福になった。個人レベルでもそれは抗えないだろう。しかし、その一方戦争に駆り出されてゆく人間が生まれることで、社会の闇とでも言うべき場所もまた、生まれていたのである。

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