顔バレしたVtuberは昔振られた幼馴染でした
俺はVtuber事務所天ライブのマネージャーとして働いている榊原 雷太という者だ。
俺の事務所はかなり有名でチャンネル登録者数100万人超えのライバーも抱えていて業績もよかった。
俺はマネージャーという仕事を所属するライバーと二人三脚でするものと思っており俺は多くのやりがいを感じていた。
大した学歴のない俺でもマネージャーになったんだ。
まさしくこの職は天職である。
ただ一つ欠点がある。それは・・・女性ライバーには合わせてくれないということだ。男性ライバーとはよく直接会ってしゃべったりもするが女性のライバーとは会うことはなくリモートで通話するぐらいなのである。
そして、今雑談配信をしている彼女、星野 キララももちろん直接会ったことがない一人である。
あったことがないとどのような人かわからないため俺は積極的に配信を見ている(決して、決してオタクではない。断じて違うぞ。)。
彼女の配信では今、シュワシュワという質問箱から質問を選びそれに答えている。
「初恋経験はありますか?か。私はね、あるんだよねそれが~。」
コメ欄
:そうなんだ~
:気になる~
:初恋、俺には縁のない言葉だったな~
:↑ニキ、ガンバ
Vtuberというのはどういうところから燃えるかわからない。そして燃えてしまったら鎮火するのは大変である。
ユニコーンは恋愛という言葉には過激に反応する傾向があり発言には気を付けなければならないのだがもう彼女は配信活動を3年ぐらいやっているベテランの方の人間であるのにもかかわらず少しおっちょこちょいである。そのようなキャラが人気なのだろう。
そして、自分は配信で話題になっている初恋という言葉を思い出すと過去の記憶が呼び起こってくる。
・・・・・・・・・・・・
あれは高校の頃の話だ。
俺は陰キャと呼ばれるグループに入っていたが、順風満帆な学校生活を楽しんでいた。
陰キャだから友達はそんなにいないので気さくに話しかけてくる人がいるということは嬉しくその気さくに話しかけてくれる人が俺の初恋の相手の人だった。
俺はうまいことしゃべることができていたから成功すると思っていた。
そして、いざ実際に告白してみると分かる。
「栗原さん、急に呼び出してごめん。俺栗原さんのことが好きなんだ!」
「ご、ごめんね。あ、あのなんて言うか嫌いじゃないんだよ?」
向こうに気を使われてしまった。悲しみを覚えると同時に自分には恋愛は向いていないんだと感じてしまった。
・・・・・・・・・
俺はその日から恋愛感情というものが薄れてしまったのかもしれない。
けどそのおかげで虚しい想いはしなかったと考えている。
失敗は成功の基とも言うけどこれ以上恋愛をする気にはなれなかった。
まだ未練が残っているのかもしれない。
急に過去の感傷に浸ってしまったが、今は置いておこう。
「いや~結局疎遠になっちゃって告白もできなかったんだよね~。」
さっきの回答の続きだろうか。
聞いていなかったためよくわからなかった。やはり今でも恋愛系は無理なのかもしれないと思ってしまう。一生結婚できないかもしれないな~なんて思いつつ結婚なんてものは非現実的なものとして捉えている自分がいた。
・・・・・・
無事に今回も配信が終わった。
一人のマネージャーとして無事に配信が終わるのは俺は素直に嬉しいと思っている。
「さて、次の配信は誰だ?」
マネージャーだがよく配信を見ているのでしっかりVのオタクになっていて天ライブのことになると早口になったりしてしまう。
そのキャラが面白いのか、視聴者から「配信まだですか」とか言われるが、俺は少しやる気を出せないでいる。自分がVになる、というのはうれしいことではあるがあんなに自分が配信で話せる気がしないからだ。
いい具合に誰かと相談したいな。と思いつつやはりそのようなことを相談できる相手は・・・いるにはいるがそいつには相談したくなかった。
・・・・・・
いつものようにライバーの健康状態や3Dモデルの確認、配信用のダンスの振り付けの進行状況を見終わりいつものように配信が始まった時だった。
「こんキララ~。みんなの心のかがやき星野 キララだよ~☆彡。」
コメ欄
:え?ちょっと待って?
:え?は?
:あ~これは歴史に残る場面に立ち会ってしまいましたね~
そう、機材のトラブルかVのキャラデザが動いているのではなくなんと生身の人間がそのまんま映っていたのである。
俺はすぐさまに星野キララこと栗原 秋子に電話を掛けた。もちろん当たり前だが今すぐに配信を切る旨の電話をするためである。
そこでようやく俺も落ち着いて配信画面を見ることができた。
そこで見たものはどことなく見たことのある顔の女性だった。
スタイルのいい体に艶やかな黒髪が肩まで垂れている。
そう、この人こそ俺の初恋の人であったのである。名前も一緒なのに気付かなかったのはそう思わないようにしようとしてただけなのかもしれないが、俺にとっては衝撃の事実である。
俺がしばらく硬直していると向こうが電話に出たようだ。
「あの、もしもし・・・。」
「今すぐ配信を切って話はそれから。」
そうしてすぐに配信は切られたが問題が解決したわけではない。
しかも今回の件は俺だけでは決められない。すぐに会議が始まるだろう。
「あの・・・私はどうすれば・・・。」
俺たちマネージャーの仕事は所属ライバーのサポートである。と、いっても今ここで何かを言ったところでその場しのぎにしかならないのは目に見えている。だから、俺は何も言えずにいた。
すると、業務用スマホに天ライブ社長天原 梨花から電話がかかってきた。
「至急、星野に対する処遇の件でこちらで話をしておく。どうせ榊原君が電話に出ているだろうから頼んだよ。」
とのことだ。俺は退所するのが一番遅い。だから社長は真っ先に俺に電話してきたのだろう。そして社長は言いたいことを言うと速攻電話を切った。それほど今忙しいのだろう。
ついさっきまで気の利いた会話の一つすらで出来なかった俺はどうしたものかと思っていたが案外向うからしゃべりかけて来た。
「ねぇ、榊原さんってさ高校一緒だったよね?」
「あぁ、まぁうん。」
俺はそれを今言うのかと思った。別に俺は栗原のことが嫌いというわけではないが・・・なんというかしゃべりにくい。余計にしゃべりにくくなってしまった。
「いや~まさか顔バレするとは思わなかったね~。」
急に喋り方がラフになる。どういうことなんだ?俺は内心で首をかしげていた。なぜなら今まさにネットの波に自分に顔が流出してこれから仕事ができるかどうか怪しいのに。しかもさっきまでは少なからず心配している声音だったのに。
「何か返してくれてもいいんじゃない?マネージャーさん?」
「なんでそんな余裕そうでいられるんだ?」
俺は言葉を返した。これが今一番聞きたいことだった。
「仕事ができなくても生きてはいけるでしょ?それに・・・。まぁなんでもない。榊原だとしゃべりやすいのよ。」
そう答えられた。普通ネットに顔が流れたらもっと不安になっていたっておかしくはないのだがなと思いつつ電話を切ろうとする。
「そうか大丈夫ならよかった。これからの配信活動については社長から電話がくると思うからよろしく。」
俺は少しでも早く電話を切りたかった。栗原とはあまりしゃべりたくないと思ってしまっているからだ。そして俺はすぐに切った。向こうは何かを言いかけてはいたが。
◇◇~栗原 秋子~(視点変化)
榊原は私のこと嫌いなのかな?やはり先ほどの会話からそのように思ってしまう。やはり時間が空いたのが原因かな?もしかして振っちゃったからまだ気にしてるのかな?そんなことを考えてしまう。
今はそんなことよりも憂う事態であるのにも関わらず。
「えへへっ。私もっと頑張らなくちゃ!」
あ、でも仕事がなくなるのは困るくない?私は一番大事なことに気づいた。
就活がんばろ
◇◇~榊原 雷太~
何なのだろうか。さっきから電話が鳴り止まない。問い合わせ時間は過ぎているから対応はしなくてもいいが星野の顔バレの件に対しての質問なのだろうな~と思いながら明日の業務は大変なものになるなという仕事が増えることに対するめんどくささで心の中がいっぱいである。
プルルルル♪
まーた鳴ってらってこれ俺のスマホやん。ちなみに連絡先を交換することが少ないので大体誰から電話がかかってくるのかわかったりする。
「どうした?お前のことだからキララのことだろ?」
電話がかかってきた相手は「さじよんじ」所属のライバー桜花 咲である。
彼女はうちの箱のライバーとコラボしていることが多く何故かコラボ先のライバーの機材まで調整していた俺はこいつに好かれ連絡先を交換するまでの仲になっていた。
「そうだよ、大丈夫?事務所的にあの子がいなくなると結構売り上げ落ちると思うけど。」
彼女はか細い声でしゃべり、庇護欲が湧くその声が人気だ。キャラデザは銀髪ロングの背が小さく、胸も小さい。
胸の情報はいらなかったかもしれないが、彼女も人気のVtuberである。
「まぁ俺がどうこう言える問題でもないしな。」
俺から言えることはこんなことしかない。
「む~、なんかあったら私のマネージャーになってくれてもいいんだけど(/ω・\)チラッ?」
うん、可愛い。まぁ俺は働けたらどうでもいい人間だからどこで働いてもいいけどわざわざ退職してまでこいつのマネージャーになるのはめんどくさいので拒否するが・・・
「まぁ機会があったらよろしく。」
「はいはい。キララ顔はいいからな~。別にそこまで炎上することもない気がする。」
まぁ確かにあいつの顔はいい。
でも問題は、視聴者がそれを認めるか、だ。
視聴者は認めるだろうか顔がバレてしまったVtuberを。顔がバレてしまっているならそれはただの配信者でいいわけだ。
「俺らがどうこう言える問題じゃないな。」
その一言に尽きる。
「雷っていつもそうだね。落ち着いてるっていうかなんというか。」
「褒められてるのか?」
俺はいつもこんな感じだと思っているがまぁいいだろう。
「何でもいいでしょ。落ち込んでなくてよかったわ。雷ならライバーがなんかしたらいっつも残念がってたし。それじゃ。」
俺のことを心配してくれていたらしい。いい友達を持ったなと思いつつ俺は会社から帰宅することにした。
・・・・・・
そりゃあ当たり前だが事務所はざわざわしていた。問い合わせの連絡は鳴りやまないは事務所のライバーが事故を起こすのは初めてで対策すらしていなかったからだ。
そりゃあ事故を起こす前提で対策をいれるのはあれだけど、多少そういう時のマニュアルでも作っておいてほしかったな~が正直なところ。
それぞれがそれぞれの仕事をする、いつもとは違い社内はピリついているが・・・。
好評なら連載するかもしれませんので、いいねや評価してくれると嬉しいです。
連載する小説の候補として『雪華ちゃんはついて来る?引っ越し先になぜか仲がよかった幼馴染が来ました』
https://ncode.syosetu.com/n9390if/
もあるので読んでみてください。