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数多なる星  作者: たにぴー
1/1

1 未知の愛と謎の少女

息が浅い少女が目の前にいた。自身も喉が痛いのに気づく。息がまだ浅い。辛い。

なにか変なものに追いかけられて、ここへきて…それ以降のことはなにも思い出せない。

思い出そうと苦悩していると、目の前の少女は浅い息の中で言った。

多分まだあなたはこんなこと分からないのでしょうけど……でも、でもね。これだけは言わせて。


「あなたを愛してるわ……リフォ。」




はっと気づくと、自分の部屋だった。夢の中で何かに追いかけられた恐怖と、誰かからの愛に対する気味悪さがフラッシュバックする。

椎名雅人(しいなまさと)は人に愛されなかった。両親は物心着いた時にはいなかった。交通事故だ。引き取られた家では、数年経った今もあまり歓迎されていない。そんな雅人には愛、というものが分からなかった。なんだったのかとか不思議に思うような夢だった。まだ体が熱を帯びている。額の汗は別に嫌いなわけじゃないのに気味悪く感じる。夢で感じたあの温かみはまだ身体に残っていた。……雅人には心地よくは感じられなかった。


「おーい、雅人ー」

遠くから友達の河野光(こうのこう)の声が聞こえた。光は昔から一緒にいる。いつでも学年トップで優秀。しかも生徒会長副会長を務めている。だが独り言が激しく、時々おちゃらけた発言をする面白いやつだ。

「光、おはよう」

少しだけ微笑んで挨拶をした。でも雅人からすれば、これは目いっぱいの笑顔なのだ。

「にしても今日のテスト、本当に嫌だな」

「何言ってんのさ、光はどうせオール100点だろ」

少し嫌味っぽく言ってみた。

そういう雅人は至って平凡なライン、だいたい70から80点をキープ。時々上がったり下がったりする。なんで光のような頭の良い奴が自分みたいな落ちこぼれの生徒を構うのか、本当に今まで分からなかった。

「いや、今回ばかりはわかんない。いるだろ、金井由香(かねいゆか)。しかも加えて今回は俺の苦手な単元ばっかりでさ?絶対無理だっての。」

金井由香。唯一光と張り合える女子。現生徒会長。何にも恐れず物事をこなすその姿はどの教師にも慕われている。光はそんな由香に嫉妬するどころか何も言わない。生徒会副会長として会長を支えている。

「金井さんは、いつも2位なの?」

「……今までは俺が1位だったんだけどなぁ。」

「うわ、意地悪。」

光にそうふざけて言うと、額にデコピンを食らわせられた。

「意地悪くないですー、普通ですー。でも、今回ばかりはまじで危ない。」

「でも、なんで1位のお前が会長じゃなく、副会長なのかね。例年通りいくと、お前だろ?お兄さんも会長してたし、動機なんてありすぎて逆に困るし……」

雅人は光に向かってそういった。

すると光は真顔になって

「雅人」

と名前を呼んだ。

その無言の圧の壁が、雅人は世界一恐ろしくてたまらなかった。1度もこの壁に勝てた試しはない。いや、立ち向かったこともない。

周り一体がとても静かに聞こえた。生徒が廊下を歩く足音、話し声、笑い声。何もかも光の圧力の壁に吸い込まれた。

「あー、なんだ、ここにいたのかぁ。」

そのバチバチと聞こえそうな睨み合いの間に入ってきたのは羽矢梨夢(はねやりむ)だった。

梨夢はおかしな笑いで、その場がどんな悲惨な修羅場だとしても笑いに変えてしまう、変なやつだ。頭が悪い訳では無いが、頭が悪い風に振舞っている。なぜかは誰にも言ったことがないらしい。だから、全く分からない。

「羽矢、どうかしたの。」

「アンドゥー先生が光くんのこと呼んでたよ。きっと生徒会の何かでしょ」

満面の笑顔でその場を去っていった。

「そういや、カバン置かなきゃな。」

「そうだな。じゃあ、俺急ぐから、またなー」

光は早足で教室を出た。逃げるように。

梨夢は女子トイレに消えていく。雅人はゆっくりと教室に向かった。

少しして後ろから着いてくる足音が聞こえた。

「で、なんだよ羽矢。」

「ちぇ、ばれてたか。」

背後の柱から覗くように梨夢が出てきた。どうやら雅人の様子を見ていたらしい。

「いや、どうにもおかしいと思って。君たち、仲良いでしょ?私もよく盗み聞きしてるんだよ。」

たち悪ぃな、と相槌をうつ。いつもならぶってくるはずだが、そんなことはなかった。

「私はその会話が凄く好きなんだ。男子ってとっても面白い話しかしないし、その中でも君たちの会話が特に面白い。私的には女子の会話より君たちの会話の方が楽しいのさ。」

梨夢は雅人の方を向いて笑った。

「だから君たちには早く元に戻って貰わなきゃ」

「?どういうこと?」

雅人が首を傾げると、梨夢は笑って何も言わなかった。


梨夢には「絶対に光くんには言わないで」と口止めをされた。理由はわからない。しかし何かあることだけは伝わってきた。

「ふぅ、また安東先生が切れてた。」

光が教室に帰ってきたのは梨夢と別れて30分程経った後だった。

「どういうこと?ってかもう3分でテスト開始だけど、勉強しなくていいのか?」

「いいよいいよ、今更だしな。で、この前あっただろ?例の全校集会。」

例の全校集会、というのは先週あたりにあった変な転校生を紹介した集会だ。その転校生は普通に当たり前の制服を着ていたが、何か違った。放つオーラとか、立ち振る舞いとかそういうのではなく、本当に何かが違って見えた。住む世界が違う、ということだけ押し付けられた感じがした。

「うちのクラスの土屋隼太(つちやはやた)が、そいつに一目惚れ?したらしいんだけどそれが厄介で、先生も手のつけようがないらしい。」

「なるほど。それは絶対、安東なら怒るな。」

雅人は必死で相槌を打つ。

土屋隼太は雅人たちのクラスメートで、どうしようもない馬鹿。世にいう陽キャと言うやつだ。授業では大体彼が中心。そうすれば授業が面白くなるので先生も面白さ重視で彼に問いを振る。そんな彼をよく思わない人もいるが。

「最近隼太、授業中も落ち着きがないもんなぁ、受験生なのによ?」

「ま、恋はそんな効果があるってことだろ?」

恋。雅人は1度もそんな感情を持ったことがない。どんなものなのか、分からない。だが、人間をダメにするということだけは他人を見て知っている。だから、今後もそんな“もの”をすることはない。

「やべっ、座らなきゃ。テスト、健闘祈る!」

光はそう吐き捨て慌てて椅子に座った。雅人も急いで席に座るが、落ち着かない。

今の話では、光も恋というものを知っているということだ。何故か先を越されたようで、壁ができたようで苦しかった。


「あーっ終わったーっ!!」

一日のテストが終わり、皆が息をつく。ざわざわと話し声が聞こえる。ここの問題どうだったとか、今回もダメそうとか良さそうとか。雅人にとって心底どうでもいい会話で溢れた。

「よっ!雅人、どうだったよー?」

「光……お前なぁ……」

毎度毎度この男だけは雅人にテストの出来を聞いてくる。どうせ馬鹿にするくせにと思うが、いつも言わないでおく。

「だから言ってるだろ。言わないって」

「はい、ダメでーす。今回は言わないなんて無し!俺はお前の点数で馬鹿になんてしない。俺が馬鹿にするとしたらあいつだな、あいつ。」

光が指さした先にはアホそうな男、山田泰世(やまだたいせい)がいた。この男は雅人や光と中学1年生からずっと一緒のクラスで、とてもと言っていいほど仲がいい。学力は乏しく、国語以外の教科は大体1桁。国語“は”いいのだ。国語“は”。

「雅人。光。コソコソと陰口か?陰湿だぜー。」

こちらに気づいた泰世はニヤニヤと2人を見た。

「失礼だなぁ。泰世の成績ぐらいじゃないと馬鹿に出来ないってことを話してたんだよ。」

「そっちの方が失礼だろっ」

泰世は光といるとツッコミ側に回る。この2人はとてもいいコンビだと思う。雅人は再び果てしない壁を感じた。

「な?あいつはいじるしかない。雅人は頭がいい方の部類なんだし。そりゃあ俺よりは下かもしれないが、そこを目指さなくても雅人にしか出来ないことだってある。」

光は雅人に笑って見せて、雅人の手を握った。

「俺は、お前みたいな感情はまだ理解できない。でもだからこそ理解されない苦しい人の味方ができるってことはどんなことよりもいいことだと思う。雅人はその辺の奴らより優しい心を持ってるってこと。勉強よりそっちの方が誇らしいと俺は思うぜ。」

な?と訴えるように元々笑顔だった顔をより笑顔にさせた。光の表情はとても豊かだ。だからいつもそれに救われる。

「ありがとう。」

雅人も自分の精一杯の笑顔で光に応えた。その途端、別の教室から何か大きな音がした。


2人は音がした方へ走り、たどり着いた場所は

「ここは……音楽室……?」

「どうみてもそうだろ……。」

音楽室だった。雅人の学校では放課後、音楽室に幽霊が現れるという七不思議のひとつがある。ピアノが勝手に音を奏で、聞き入っているといきなりバーンっと鍵盤を叩きつける音がするという。雅人にとっては本当にどうでもいいものだ。

「お願いだからちょっと待て、頼む……」

「失礼しま」

「あああああっ!!開けたっ!!!」

怯える光を無視して扉を豪快に開けた。

そこには

「いててて……って、雅人くんと光くん!?なななななんでここに!?」

羽矢梨夢がいた。机に埋もれている状態で。

「なんでと言われても……」

放課後の音楽室には夕日が差し込み、金色のベールになっていた。そのベールの中には、か弱くいかにも脆そうな女の子が椅子に座っていたのに雅人は気づいた。

「お前……霜田??」

「え、私の名前をなんで?」

その女の子は紛れもなく隣のクラスの霜田希伊子(しもだきいこ)だった。ピアノが上手く、合奏コンクールではいつも伴奏を担当している。だが、病弱であまり学校に来れてはいない。なのに何故かここにいる。確か今日は休んでいたはずだ。

「いや、去年一緒のクラスだったし…」

「ああ、そっか。同じクラスでなくても私は君たちのこと知ってる。学年首位の河野光くんに、噂の椎名雅人くん。」

希伊子は笑って見せた。夕日に照らされ明るくはなっているものの、まだ肌は白かった。

「噂?」

「あ、その…過去に色々あるってのがちょっとした噂に……でも悪い意味では広がってないから安心して?」

雅人はドクンと胸の高鳴る鼓動を感じる。

まさかあまり話したことのない人からもこんな仕打ちを受けるなんて想像もしていなかった。会って早々、吐き気がした。

「………霜田は何してるの?」

吐き気を紛らわせるために雅人は尋ねてみた。すると希伊子は俯いて、

「……君も来るなって?」

とだけ呟いた。とてもか細く、澄んだ声で。ガラスよりも透明で見えないほどの。

雅人にはなんの意味かは知らなかった。でも光は少し分かっているようで眉間に皺を寄せて希伊子に向かってズカズカと歩いていった。

「なんでそうなるのか、聞いていい?」

「まあまあ、光くん落ち着いて?きーちゃんだって触れたくない話あるし、いまさっきの話題で雅人くんの過去に触れた話も謝るしっ!」

間に梨夢が入ってきた。でも光を止められず、

「そっちがそんなふうに来るならそうするよ。雅人が嫌がるような話題に触れたのに、そっちはいいんだ?それって自分勝手じゃないかな?」

光は怒ると笑ったまま論破しようとしてくる。雅人もこれは嫌だと思っている。怖いから。

「光、もういい。僕がまいた種だ。それにどちらも掘り返すのは嫌だろ。争いの中で傷をえぐられるとこっちが辛いんだ。」

雅人はキッと光を睨んだ。光はため息を1つ吐いて仕方ない、と呟いてお辞儀した。

「まあ、雅人に免じて許すよ。」

光は腕を組んで黙った。

「で、ここで何してたの?凄い音がしたけど」

雅人が聞くと、梨夢があたふたして

「きっ、聞かないで欲しい……かな?あとここ使ってたのも、ちょっと言わないで欲しい……。自分勝手だとは思うけど、一応2人のためでもあるから。また分かるの。絶対に2人に必要。」

そう言って手を合わせて深く頭を下げた。

光は雅人を見た。答えを求めている目だ。圧が強い…。

「……い、いいんじゃないかな?別に。」

「ありがとうっ!じゃあ、早く出て!早く出て!」

梨夢は2人の背中を押して音楽室から押し出した。

「じゃあ、また明日ね!さっさと寝るんだよ!」

微笑みながらそう言って扉をバンッと閉めた。

「あんにゃろー、明日絶対締める。」

「光、馬鹿相手に大人気ない。」

2人は何事もなかったかのようにそれぞれの帰路についた。


そして翌日。雅人は夢を見た。

学校の音楽室に2人の女の子の人影が見えた。1人はピアノを弾き、1人は歌を歌っていた。その途端学校は夕暮れ時から夜になり、そして2人は忽然と消えた。そこでハッと目を覚ました。夢だったと分かっているが、まだ感覚は残っている。2度も気味の悪い夢をみた。最悪の気分だ。

呼吸が収まると部屋の様子が見えてきた。だが、周りの様子がおかしく思えた。いつもは朝日は起きて右側にあるはずだ。だが今は日は左側にある。不思議な感覚に雅人は急な吐き気がした。

いや、何かがおかしい以前の問題だ。何もかもがおかしい。

……ここ、どこだよ。

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