第6節 真上と真下
※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.
※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。
※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。
工場の内部――入ってすぐのところには倉庫らしき空間が広がっていた。天井まで届くラック、積み上げられたダンボール。床を動き回るピッキング用ロボット、フォークリフト。ダンボールの側面――社章と社名。ライトバンの側面に書いてあったものと同じ。
後ろを振り返った。ライトバンの運転手と、ミニバンに乗り組んでいた男達が麻袋を下ろしてピッキング用ロボットに載せるところだった。ミニバンの男達――アサルトライフルを肩にかけている。しかし気分を緩めている感じがした。自分達の家で襲われるとは思わない。
男達の後ろをついていった。奥の区画――二重の扉とガラス窓で区切られている。ガラス窓の向こうに機械――コンベア、スライサー、梱包用の機器、冷凍庫。食肉加工工場によくある機器。
機械類が動いている様子はない。推論――食肉加工の工場というのはダミー。しかしヒルコを捌いて加工するなら、食肉加工の機器が流用できる。ヒルコ――薬品や生体兵器の原料として高値で取引されている。
男達の会話――高低の激しい音の羅列。恐らくは夏王朝の言葉。
推論――夏王朝の企業が、N◎VA進出を目論んでいる。ダミー会社を拠点にして、ヒルコを捕獲している。
胸糞が悪くなった。衝動が膨れ上がる――壊す。
ヘッドセットから妨害電波を出した。ポケットロンと監視カメラを潰す。男達が騒ぎ始めた――急に通信が途絶してあわてふためいている。
――もう、遅い。
熱光学迷彩を維持したまま、男の一人に近寄った。肩をつかんで思い切り膝蹴りを入れた――防弾ジャケットでも殺しきれない衝撃。くず折れた隙に、アサルトライフルを奪い取った。ブーツに仕込んだ刃で足の腱を切った。男がたまげるような悲鳴を挙げて地面に転がった。引き金を引いた。四方八方に弾をばら撒いた。ガラスが砕け散った。機器類から火花が飛び散った。男達――次々に銃弾を浴びて倒れた。防弾ジャケット――拳銃の弾丸は防げてもアサルトライフルの弾丸は防げない。
生き残った男達――物陰に隠れながらアサルトライフルを乱射してきた。マズルフラッシュと銃声でクランの位置は暴露されている。連中の技量が企業の工作員並なら、数秒でこちらを見つける――数秒で十分だ。アサルトライフルを投げ捨てた。袴の下からサブマシンガンを取り出した。走りながら側面に回った。弾をばら撒いた。男達が倒れた。
運転手の男――物陰に隠れて何かを叫んでいる。その男に銃を向けた。引き金に指をかけた――別の気配。黒いボディスーツの男が二人。一方の男――右腕から鋭い突起を生やした。もう一方の男――両手の爪が伸びて、鉤爪になった。記録映像で見た特徴と一致した――ヒルコらしき個体。
男達――地面を這うような走りで近寄ってきた。姿は見えていない。妨害電波があるから電波での位置測定もできない。それなのに、クランに突進してきた。サブマシンガンを向けて撃った――突起のヒルコは腕を体の前でクロスさせた。銃弾が腕にはじき返された。
上に気配――鉤爪のヒルコが飛び掛ってきた。鉤爪を縦に振るった――横に飛んで回避した。鉤爪に幾筋かの赤い髪の毛が切られて、宙を舞った。
スピード――相手の方が上。クランの位置――恐らく超音波や嗅覚で測定している。クランの服でも超音波の反射は防げないし、匂いは消せない。熱光学迷彩に意味がなくなった――解除。
面白いじゃねえか――体が熱くなった。
周囲に目を走らせた。突起――片手剣のヒルコと鉤爪のヒルコ。刺突と斬撃を絶え間なく繰り出してくる。クランは障害物を盾にしながら、走り回った。レーダーとセンサーで、相手の大まかな位置はわかる。
機器類に遮られて相手の反応が消える。反応が現れるポイント、クランと相手の位置関係を計算しながら、相手の動きを予測して、挟み撃ちに遭わない場所を探して動き回る。相手も同じように考えているはずだ。探している。クランを挟み撃ちにできる場所を。
動き回るうちに、機器類で挟まれた通路に入った――誘い込まれた。障害物の影から鉤爪の頭が見えた――牽制射撃を浴びせる。時間を稼いだ。
その隙に、機器類の上に飛び上がった。斜め後ろに反応――片手剣。斬りかかってきた――ブーツから突起を出した。回し蹴りで片手剣をはじき返した。弾かれた力を利用して、片手剣が反転する――もう片方の手で裏拳を繰り出しながら。硬い甲羅に覆われた手。食らえばただではすまない。銃で防ぐ――間に合わない。回避しなければならない。
閃いた――膝の力を抜いた。上半身が一気に下に落ちた。裏拳が空を切った。背中からショットガンを引き抜いて脇腹に突きつけた。撃った。大穴が開いて、片手剣のヒルコが転がり落ちていった。
後ろに気配――鉤爪のヒルコ。横薙ぎの一撃を機器の上から飛び降りてかわした。距離をとって、サブマシンガンで弾幕を張った。鉤爪は物陰に隠れてやり過ごした。
弾幕が途切れた隙を突いて距離を詰めてくる――クランはそう予測して身構えた。鉤爪――近寄ってこない。おかしい――クランのセンサーに、音声らしき何かが聞こえてきた。発信源――鉤爪。センサーの出力をアップ。音声が聞き取れるようになった。
「こ……」
何を言っているんだ?
「こ……殺して……くれ……」
向こうから仕掛けておいて、死を望んでいる?
「やっと……これで……終わり……。仲間に……謝り……」
相手はヒルコ。推論――何らかの方法で操られている。ヒルコ街から連れ去られ、奴らの手先にされている。
ああ、待ってろ。今――殺してやる。
走り寄った。鉤爪が同じように走り寄ってきた。互いの距離が瞬時に詰まっていく。側面の冷凍庫に指をかけた。扉を引っ張って無理やり開いた。勢いよく開いた扉に遮られて、鉤爪の動きが止まった。冷凍庫に足を、扉に手をかけながら跳躍した。真上を取った。鉤爪がクランを見上げた。その眉間に拳銃を向けた――撃った。血が床に飛び散った。鉤爪の体がゆっくりと倒れた。
真上と真下は、もろい。