第5節 追跡
※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.
※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。
※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。
目が覚めた。時計の表示は午前1時前。侵入者に備えてドアにつけていたセンサーを外した。いつものように武器を装備してカプセルホテルを出た。
熱光学迷彩を起動して、ヒルコ街を見回った。ヒルコ街には自警団がいる。イワサキはその監視の目をかいくぐってヒルコを攫っていた。そこを正体不明の集団が襲った。推論――集団は最小の労力で獲物をとることを狙っている。ヒルコ街の自警団の目が届かないポイントなら、彼らが現れる可能性が高い。
姿だけでなく、足音も消して慎重に歩いた。ブーツの靴底には歩く音を吸い取る素材を使っているが、念には念を入れる。水溜りを踏んで気づかれたり、泥やほこりを踏んで足跡を残したりすれば無意味だ。
目の前にヒルコの姿。2人組で見回っている――自警団。本番までは戦闘と消耗は避けたい。物陰に隠れてやり過ごした。
歩き回るうちに、自警団の警備体制が見えてきた。巡回のコースとポイント。何組かでくまなく見回っているが、それでも目の届かない場所と時間帯ができる。もし連中がクランと同じように考えて、警備体制の隙を突こうとしているなら、ここを狙ってくるだろう。
連中が自警団との衝突をいとわず正面から仕掛けて来たら? 自分もそこに行って乱入すればいい。
手近な建物の屋根の上で待ち伏せた。路地に黒塗りのミニバンが乗り入れてきた――2台。ミニバンから男達が現れる。黒い服、ヘルメット、ボディーアーマー。アサルトライフルやサブマシンガンで武装している。あの中に映像で見たヒルコ達がいるか――わからない。外見では見分けがつかない。
建物の中から現れる影――ヒルコ街の住人。脇に何かを抱えている――麻袋。ヒルコ達が男達に麻袋を差し出す。男達が麻袋と引き換えにキャッシュを渡す。
悟った。ヒルコ達――協力者。イワサキが警備体制の穴を突けたのは、ヒルコ達に内通者がいるからだ。ヒルコが一枚岩とは限らない。仲間を売る者もいる。金のため、自分達だけ標的から逃れるため――ヒルコも人間も同じだ。正体不明の集団はイワサキの獲物も、内通者も横取りしていた。
男がヘッドセットに向かって何事かをつぶやいた。クランもヘッドセットの周波数を合わせた――無線の傍受。会話の内容がわかった。トラックを呼んでいる。
数分してひときわ明るいヘッドライトが路地を照らした。トラックのモーター音。現れたのはドライバン。男達の目の前に止まると運転手と助手が降りてきて後部ドアを開けた。男達は手早く麻袋を箱型の荷台に放り込んでいった。
麻袋を全て荷台に入れると、男達はドアを閉めた。ドライバンとミニバンに分乗して出発しようとしている。
どうやって追跡する?
発信機――外される。途中で水素スタンドに入ってくまなく探し回られたらそれまでだ。
尾行――車がない。
ならば――連中に連れて行ってもらう。
地面に降りて、ダッシュした。ライトバンが十分に加速する前に後部扉につかまる。ミニバンに続いてライトバンが動き始めた。走った。手を伸ばした。指先に後部扉の取っ手が触れた――握りこんだ。そのまま体を引き寄せ、ステップに足をかけた。
後ろのミニバン――動きに変化はない。気づいていないと考えていい。
賭けだった。ライトバンが衝突したら自分も後部扉に叩きつけられる。横は見張れるが前はどうしようもない。しかしミニバンで前後を守っているので正面衝突や追突のリスクは低いだろう。ヘッドセットのレーダーとセンサーを全開にした。自分でも周囲を見回して警戒した。
ニューロエイジの車には後方の障害物を検知して自動的にブレーキをかける機能がある。しかしクランの服にはレーダーやセンサーの電波を吸い取る加工がされている。おかげで連中に気取られずにすんだ。
トラックは墨田川の検問に差し掛かった。N◎VA軍に見つかりたくはない――その間だけ荷台の上に飛び移ってやり過ごした。車は特に怪しまれることもなく、検問をパスした。車が出発すると、クランも荷台の後ろに戻った。
手近なランプから高速道路に乗った。車は合流車線で加速して本線に入った。高速道路は渋滞もなく、順調に流れていた。後方に対向車のヘッドライト、テールライトとN◎VAの夜景が流れ去っていく。20分ほど走って、高速道路を降りた。周囲の町並み――木更タタラ街。木更津湖の沿岸には工場や倉庫が集まっている。恐らくそこに連中の拠点がある。
車は工場街に入った。何度か右折や左折を繰り返した後、工場の門をくぐった。
駐車場らしきスペース――つかまってきたライトバンと同じデザインの車が並んでいる。側面には社章と会社名――撮影データを記録、ポケットロンに転送。任務に入る前に点眼してきたナノマシン入りの目薬――ARゴーグルやサイバーアイの代わりになる。
ライトバンは駐車場に入らず、工場棟に横付けした。建物の扉が開いた。地面に降りて従業員らしき男達の横をすり抜けた。