最強の竜
「置いていくぞ」
「ちょっと、待ってよ」
本当にこっちなんてお構いなしに進んでいくエディを慌てて追いかける。
開けた場所につくと大きな竜がいた。
「え……本物?」
「人が立てた銅像だ」
「人が?こんな場所に人が降りてきてたの?」
「今は滅多に降りてこないけどな。500年前に像を建ててから人は上の祠で祈るだけだ」
そこには大きな竜の銅像と、その後ろの壁には竜と妖精と美女の姿が彫られていた。
もしかしてヘンリーさんが言ってた竜と妖精と聖女の絵かも。
「そうなんだ。後ろの絵は?」
「あれは獣人が彫ったものだ」
「そうなんだ……。それで、ここに何があるの?」
「何もない」
「え、なんか武器とかがあるんじゃないの?戦うんでしょ?」
「戦うが我にはそんなもの必要ない」
「ふーん……」
巨大な竜の銅像の背に座って足を組むレイはどう見ても強そうに見えない少年だ。
でも力は強いしさっきみたいにすごい距離を落ちてもなんてことない顔してた。
今も澄ました顔をしてルルとネルと何か話している。
それにしても美形な少年だ。服装と同じで前世で中東の国のイケメンという容姿をしている。
きっと大人になったらそんなイケメンになるんだろう。……もう700才なのか。獣人って何才になれば大人の姿になるんだ。
「おい」
「へ?」
「何をボケッとしている」
「なっ、ボケッとしてなんかないわよ。あれ?ネルは?」
「外の様子を見に行かせた」
「そうなんだ。あ、何か食べる?そういえば私を砂漠を通るからって食料を確保してたんだったのよ。ルル」
「あーい」
持っていたりんごとルルの口から出した肉をエディに渡す。
「ふむ」
そう言って肉を見つめるエディ。
「あ、もしかして獣人って肉食べない……食べなさそうよね、共食い……」
「いや、物によるがこれはワニの肉だから問題ない」
「え、これワニなの!?美味しいのかな……」
「なんだ、食ったことなかったのか」
「どれくらい食料必要なのかわからなかったから手当たり次第に……」
「食ってみろ。旨いぞ」
そう言って差し出された肉にそっとかじりつく。
「あ、美味しい」
「だろう」
意外と癖もなくて美味しかった。エディが肉とりんごを食べ終わった頃突然目の前に何かが飛び込んできた。
「ヒィッ」
「主、ご無事で」
「ああ、大事ないか?」
「はい」
「ひ、人……じゃない……猫耳?」
何かと思ったら猫耳の生えた人だ。猫の獣人かな。
「虎だ」
「あ、虎」
「あー!!ネイツだー!!ネイツー!!」
「ルル。元気にしていたか?」
「元気ー」
ルルが虎の獣人の周りをくるくる回る。
どうやらルルの友達のネイツらしい。ネイツはイギリス人っぽい顔をした25才くらいの青年だ。
「ネルに聞いていますよ。あなたがルルの面倒を見てくれたのだと。ありがとうございます」
「え、いえ!!」
急に話しかけられて驚く。私だって金髪碧眼のイケメンにドキッとする。
「ルルには手を焼いたでしょう。すみませんね」
「いえ、滅相もございません!!」
「おい、なんだその態度。我を敬わんくせにネイツに敬語とは」
「だってこの人の方が年上っぽいし」
「ネイツの方が我より50才年下だ。そもそもそなた年功序列ではないと言っていたじゃないか」
「そうなんだ。トカゲと虎で大人の姿になるのに差があるのね。獣人って不思議」
「そなた……」
「まあまあ主、良いではありませんか。可愛らしいですよそのお姿」
「力が戻ったら頭咬みちぎってやっても良いのだぞ」
「私が死んだら主一人で書類仕事なさってくださいね」
「……それは無理だな」
「ねーネイツー、ルル、ティナと里帰りするとこだったのー」
「聞いてるよ。でも今帰っても火の海だから危険だよ」
「火の海……」
「ティナさんも危険ですが我々と一緒に行動した方がまだお守りすることができますから」
「わ、わかりました。えっと、火の海って何が……?戦争ってどういう。王様の政治に反対してるとか?」
「我が国では強者が正義ですから竜一族と他の獣人との間でいざこざは起きません。……本来ならば。現在は数百年に渡り現国王と異母兄との争いをしています」
「異母兄……」
戦ってはないけど異母妹の顔が頭に浮かぶ。
「異母兄弟って面倒ですよね……」
私がそう呟くとエディとネイツさんが首をかしげる。
「コホン……現国王は力は最強の竜なのです。力こそ正義。先ほどそう言いましたが現国王は生い立ちが少々複雑で。竜の父と虎の母を親にもつのです」
「獣人は同じ種族じゃないと結婚できないんですか?」
「いえ、竜以外であれば問題ありません。獣人と人でも結婚できます。ただ、竜の一族は古くから竜とのみ結婚してきました。竜は全獣人の中で最も強くプライドも高い」
「はーなるほど。血筋は異母兄、強さは今の国王が高くて争いになってるのね」
物語によくあるやつだわ。
「そうです。他の獣人の中でも異母兄が王に相応しいと言うものが一定数いて国が割れています」
「強さが一番なら強いんだから力でねじ伏せれば良いんじゃ」
「そなた戦争のない国で生まれたのに過激な意見だな」
「え、そうなのかな。でもそういうことじゃないの?」
「いえ、そうすれば良いのですよ。何て言ったってこの世界全てを治めたといわれる伝説の竜の生まれ変わりと言われる最強の竜なんですから」
「世界全て!!すごーい」
「もう何千年も前の話ですけどね」
「そんなに強いんだ。ルル会ったことあんまりないって言ってたけど良かったわね。ルルに苛ついて即殺されちゃったわ」
「国王様はそんなことしないよールル良い子だしー」
「ふふ、獣人が妖精に手をかけることはありませんよ」
ネイツさんが言う。笑った顔もイケメンだ。
「あー神様が創ったからだっけ。ってことは偉いんですか?」
「偉い、とはまた違いますね。貴い存在ではありますが獣人や人とは別の価値観で生きる我ら獣人の永遠の友人です」
「うーん、よくわからない」
「そうですよね」
私は隣でくるくる回っている生まれた時から知っているルルを見る。
まあ、ずっと一緒にいる友達っていうのはわかるかな。