未来視持ち
「にゃーん」
「ん?」
子供たちが全員で連携してエディに膝をつかせたら勝ちにしようということが始まり、撫でさせてくれる子がいなくなってしまった。
発案者はいつの間にか熱く指導していたリアさん。「子供たちよ行けー!!勝つぞー!!」「おー!!」って一斉にエディに挑み始めたのだ。
そんな手持ち無沙汰状態になってしまった私の側に猫がゆっくり近づいてきた。
「こんにちは。あなたもエディに挑みに来たの?」
「にゃーん」
んん?もしやこの猫は獣人じゃなくて普通の猫?というかランダに普通の動物っているんだっけ?
「にゃにゃーん」
そんなことを考えているとその猫ちゃんは私の膝近くで丸くなって眠ってしまった。
「なんだろう……とりあえず撫でて良いのかな」
ちょっと膝に毛が触れてるくらいだし嫌がられないだろうとそっと撫でる。
「ん?サヨじゃないか」
「リアさん」
熱血指導をしていたリアさんがこっちに気付いて来てくれる。
「リアさん、この子って普通の動物の猫ちゃんですか?」
「いや、その子は女の獣人だよ。スナネコ一族のサヨ」
「スナネコ一族……サヨちゃん」
リアさんは意識したら丁寧に喋れるけど普段は違うのだと言うから普通に喋ってもらうことにした。
それにしてもスナネコって砂漠の天使って言われてる猫だよね。
「特殊な子でね、未来視の力があるんだ」
「未来視ですか?」
「そう。夢で未来視をするんだ。ただしそれはごく稀でね、ほとんどは普通の夢。サヨは50年前に生まれたんだけどほとんどは寝て過ごして未来視をすると周りに伝えてくれる。起きてる時間が短くて体の成長も遅いから今は5才くらいの見た目をしていてね。夢の中で得た知識があるから知能は比較的高いが言動は幼い。まあ子供として接してくれて良い」
50才だけど5才……。つまり5年分しか現実で過ごしてないってこと?
「ランダでも珍しいことなんですね」
「そうだね。それにしても普段はこんなに賑やかなところにわざわざ来ないんだが……なにか未来視をしたのかもな。何か言っていた?」
「いえ。というかにゃーしか言わなかったので獣人じゃないのかと」
「ああ、サヨは夢の中では獣化して普通の猫として過ごしてるんだそうだ。猫として夢の中の出来事を第三者的な立場で見ているのにゃって言ってた」
「にゃ……」
「未来視って言ってもぼんやりしたことがわかる程度で何年先のことかもわからない。大したことじゃないことも多い。前回の未来視なんて"ルナシーがたくさんの人間を膝まづかせて高笑いしていたのにゃ。どこかの人間の国を支配したみたいにゃん"だったな。ルナシーが人間に敬われるなんて日常的なことだから大した話じゃない」
「え、いやそれ今のことじゃないですか?」
「ん?」
「サクティラの」
「……ああ、確かにそうかもしれん。ルナシーは今まで個人的に誰かに崇拝されてはいたが人間の国を支配だとかはしてないからな」
「厳密にはサクティラも支配してるわけではないんですけどね」
「なるほどなるほど。それあとで竜王様に伝えてくれるか?大した未来視じゃなくても一応サヨの未来視は竜王が管理して予言の書として実際に起きたらリストにチェックをするそうだから」
「そうなんですね」
サヨちゃんってすごい猫なのね。
「未来視をしたなら竜王に伝えにきたのだと思う。いつもは伝えるまでは深い眠りにつかないからすぐ起きるだろう。悪いが相手をしててくれないか?」
「えっと、相手って」
「撫でているだけで大丈夫だ」
「あ、わかりました」
熱血指導に戻っていくリアさんを見送りながらサヨちゃんの背中を撫でる。
どんな未来視をしたんだろう。エディに未来視を伝えに来たのになんで私のそばでまた眠っちゃったんだろう。
そう思いながら撫でて暫く。
「もー本当だー。主様ったらデートなのに酷いー」
「ティナーただいまー」
「ティナーただいまー」
「サリさん。ルルとネルも」
馴染みの声に振り返るとサリさんが頬を膨らませて怒っててルルとネルが私の周りをくるくるし始めた。
「主様がー子供たちの相手をしてティナが撫で撫でしてるって話が広まってたのよー。デートはー?お散歩はー?仲直りはー?」
「大丈夫。仲直りもできたしこれはこれですごく楽しいです」
プンプン怒ってくれてるサリさんを宥める。
「おや、サヨですね」
「ネイツさん」
サリさんこそネイツさんとのデートだったのに私たちの話を聞いて来てくれたみたい。
ネイツさんは私のそばにサヨちゃんがいることに気付く。
「あらー本当ー。サヨちゃんちっちゃいからわからなかったわー」
「どうしてサヨがここに?」
「わからないんです。リアさんは未来視をエディに伝えに来たのかもって言ってたんですけど。にゃーって言うだけですぐ寝ちゃってこのまま」
「そうですか。すみませんね。ほら、サヨ。起きなさい」
ネイツさんがサヨちゃんの背中をポンポン叩く。
「え、起こして良いんですか?」
「ええ。寝てないと死ぬわけじゃないので」
「ネイツはねー猫科獣人の纏め役でもあるのよー。あらーそう、ティナも山猫一族だからー困ったら全部ネイツに丸投げしたら良いのよー」
「側近の仕事以外にもそうした仕事があるんですか。ネイツさん大変ですね」
「それほどでも。ほら、サヨ、未来視は?」
「ん……にゃーん……」
「あ、起きた」
ネイツさんがサヨちゃんを抱き上げると起きた。
「にゃん……にゃ……ふわぁ……あ、ネイツおじにゃん……」
喋った!!可愛い。私はきゅんとする。
「サヨ、未来視をしたのかい?主に伝えに来たんじゃないのか?」
「ふわぁ……未来視……そうにゃん、そうにゃん……けどサヨ、ティナさまのとこに行こうとしたのにゃん。ティナさまはどこにゃ」
「え、私?」
「あ、いたのにゃ。ティナさまにゃん」
サヨちゃんが私に向かって手を伸ばしたかと思うとポンと姿が変わる。
「え……お母様……?」
獣人化したサヨちゃんの姿は猫耳と尻尾が付いているものの私の母、ヘレンにそっくりだったのだ。
「あれーヘレンだーヘレンに似てるー。ねーティナー」
「ルルも似てると思う?」
「うんー」
「サヨは山猫一族の血を引いてるんです。祖母が山猫でローナの姉です」
ローナの姉の孫……私はローナの孫の孫の……とにかく遠い親戚ってこと?
山猫一族はいないけどこんな繋がりがあったなんて。
「獣人は隔世遺伝で血の繋がってる種族が生まれることがあるからー絶滅ってあんまり言わないのよー。でも山猫一族の力は特別だからー何百年も生まれないから絶滅種に認定されたのー」
「前にも話をしましたが山猫一族の力に頼ることが多いので。隔世遺伝は通常二代が多いのでサヨの子供が山猫になる可能性は低い。なのでサヨが生まれてすぐ母親が亡くなってから絶滅種と認定されたんですよ」
「そうなんですね」
「にゃんにゃ、煩いのにゃ。ティナさま、サヨを抱っこするのにゃ」
「え、抱っこ?良いの?」
「にゃん」
私に向かって両手を伸ばして抱っこを促すサヨちゃん。
私はネイツさんからサヨちゃんを受け取る。
リアさんが言った通り見た目5才くらいの砂色のウェーブがかった肩まで伸びた髪に藍色の瞳を持つ可愛らしい女の子。
私と同じ色をしていたお母様と色合いは違うけど顔立ちが近くで見れば見るほどやっぱり似てる。
「にゃーん、やっぱり心地いいのにゃん。思った通りにゃん。不思議にゃん」
「サヨちゃん?」
「サヨ」
「にゃ!!」
「エディ!?」
私に体を擦り寄せてくる様子に癒されてるとエディがサヨちゃんの小さな頭をがしっと掴んできた。
「なんだ、起きてたのか。起こそうかと」
「りゅーおーさま!!いつもいつも痛いのにゃん!!」
「エディ、サヨちゃんに乱暴しないで!!」
「う……すまん。いつも未来視を告げる前と最中に寝るからつい」
「駄目!!今後サヨちゃんは優しく起こすこと!!」
「うむ……」
「思った通りにゃん。ティナさまは優しくて……ほわほわして……ふわぁ……心地いい気がする……にゃん」
サヨちゃんがまた眠っちゃいそうにうとうとしてきた。
「あ、サヨちゃん、起きて。起こしていいんだよね、起こした方がいいんだよね?」
「だからさっきのように起こすのが最善策なのだ」
「まあまあ、ほらサヨ。未来視は?何を見たんだい?」
「ふわぁ……そうだったにゃん。そう、未来視……」
「寝ちゃう、サヨちゃん、起きて、頑張って」
未来視が悪い出来事だったら早くエディに伝えないといけないんだよね。サヨちゃん、頑張って。
「にゃん……未来視……そうにゃんそうにゃん」
「サヨ」
「にゃん」
サヨちゃんがもぞもぞして地面に降ろしてほしそうにするから私はそっと降ろしてあげた。
サヨちゃんは目を擦ってからエディの前に片膝をつく。
「スナネコ一族サヨ。この血に誓い未来視を偽りなく竜王様に伝えるのにゃん」
「うむ」
ネイツさんがこそっと教えてくれる。
「ティナ様、あれは血の誓いという結婚の誓いのようなものです」
「あれが……。エディに聞きました」
「おや、主はやはりローナのことをそのように証明されたのですね」
「証明?」
「いえ、こちらの話です。血の誓いは基本的に婚姻の儀以外には罪を犯したものに使うのですが未来視は特別な力で同様の力を持つ妖精もおらず力を持つものが死んでから次の未来視持ちが生まれます」
サヨちゃんの力って本当にすごいんだ。未来視だもんね。
「たった1人しかいない未来視持ちが視たことと異なることを主張しても私たちにはそれが正しいのかわかりません。未来視持ちが悪に転じればいくらでも未来視持ちの望むまま。その危険性を危惧したランダのかつての未来視持ちだった竜王の側近がこの力を持つ者は血の誓いを以てランダの王に忠誠を誓うことと定めたのです」
「あー、一応ねサヨちゃんも主様の側近扱いなのー」
そうなんだ。サヨちゃん、すごく可愛いけどやっぱり大変なお役目を任されてるのね。
そのサヨちゃんはやっぱり眠いのか欠伸をしてうとうとしてる。
「おい、サヨ。いい加減に」
「わかってるにゃん!!もう煩いのにゃん!!ちょっと黙ってるにゃん!!」
「まったく……我の元にはまともな側近がサイネスしかいない」
「サヨちゃん……」
大変なお役目の最中のはずだけどいつもこうなのかな。




