獣人あるある
後半に初のエドモンド視点です
「獣人の寿命は種族によって違います。千年生きる種族から200年生きる種族まで様々です。同じ種族同士で恋人になって結婚することもありますし違う種族の場合もあります」
ふむふむ。それは前に聞いた通りだわ。
「これは私の友達の話なんですけど、その子は豹の獣人で豹は結構恋多き一族なんです。あと美人ばっかりでスタイルも良くて羨ましい」
ベルーナは悔しそうに言う。
「ベルーナだって可愛いわ。それにお友達なんでしょ?」
「ありがとうございますティナ様。そうなんです、彼女はちょっと年上なんですけど大好きな友達なんです。その子はライオンの獣人と結婚してるのですが付き合い始めた当初ある流血事件が起きたんですよ」
「え、そうなの?」
「治癒魔法ですぐに回復しましたがライオン獣人は重症を負いました。獣人隊の隊長がですよ」
「獣人隊の……」
「今も隊長をしてるあの熱血戦闘狂です」
今も隊長なら私が頭に浮かべた人であってるみたい。
「何があったの?」
「痴情の縺れってやつです」
「……まさか」
「そうです、私の友達が嫉妬して半殺しにしちゃったそうです」
「まあ……」
「どうやら結婚まではしませんでしたけど隊長は昔その友達のおばあちゃんと恋人だったそうなんです。友達はそれを付き合ってからおばあちゃんに聞いて嫉妬して隊長を問い詰めたんです」
「隊長さんからお友達に言い寄ってたの?」
「いえ、アプローチも告白も友達からだったんですけど元恋人の孫だからオッケーしたんだろうって」
「隊長さんはなんて?」
「否定したそうです。でも友達は納得できなくてやってしまったそうです。気付いたら隊長が瀕死の状態で急いで治癒魔法を使える獣人を呼びにいったんですって」
「……そう」
「結局隊長に若くして獣人隊小隊長に上り詰める実力に惚れたと言われた友達は喜んでプロポーズして結婚することになったんです」
「……そうなの」
獣人の女の人って恋に情熱的なのかしら。情熱的って言っていいのかな。
「あ、でもその子は獣人隊長の小隊長さんなの?」
「今は子どもができて引退してますよ」
「そうなの。でもそれじゃあ普通のって言っていいのかわからないけど獣人隊の獣人じゃなければそんな流血事件は起きないわよね?」
「そんなことないですよ?」
「そんなことないの」
「はい。どんな仕事をしてる獣人でもよくある話です。なのであるあるです」
「あるある……」
獣人って……。
「あるあるなのでみんな驚きません。そういう喧嘩してる獣人を見つけたら治癒師呼んでおこうかなってなりますけど。だからティナ様は手が出なかったのですごいなーって思いました」
感心されてた。なんか複雑。
「獣人の恋愛事情はわかったわ。でも……」
「ティナ様、自分より遥かに年上の獣人に恋した獣人の心構えっていうのがありますよ」
「え、そんなのあるの?なに?」
「我慢しないこと、です!!」
「我慢しないこと?」
「はい。我慢しても良いことないじゃないですか。獣人は柔じゃないので全力でやり合ったら良いんです」
多分みんな全力で手が出るんだろう。私にはそんなことはできないけど全力で向き合うと考えれば……。
「ストレス発散するとか温泉に行くとか……あ!!ティナ様温泉まだ行ったことなかったですよね。行きましょうよ!!癒されますよーイライラしてた気分がスーっとします!!」
「それは良いかも。うん、行きたい」
「明日帽子を受け取りにいった後行きましょうよ」
「そうね」
そう、昨日お願いしていた帽子がもうできたというのだ。
嬉しくて徹夜しちゃったそうだが体調は大丈夫だろうか。でもそこまでしてくれて嬉しくないわけがないからすぐに受け取りにいくことになったのだ。
「ルル、温泉楽しみー」
「ネルも温泉楽しみー」
心配かけてしまったルルとネルも私の周りでくるくる回る。
「ふふ、そうね」
※※※※※※※※※※※※※
「……嫌われた?」
「あーあ、嫌われちゃったわねー」
怒って部屋を出ていったティナに呆然としていた我の前にルナシーがやってくる。
「見ちゃったわねサリ」
「見ちゃいましたねールナシー」
「ティナに嫌われて可哀想ー」
「我はティナに嫌われたのか?」
「だからそう言ってるじゃないの、馬鹿ね」
「馬鹿……。くそっ、ローナのせいだ」
何が何だかわからないがそれもこれもすべてあいつのせいだ。
「ローナめ……頭噛み砕いてやる」
「ローナはとっくに死んでるわよ」
「そうだった、くそっ」
「主、落ち着いてください。リスの皆さん、申し訳ない。また後日改めてきてくれないか」
「はいーもちろんでございますよ。獣人あるあるですからね」
「あれは用意しておいてちょうだい」
「はいルナシーさん、お持ちしますね」
リス獣人たちが帰るとルナシーがのんびり茶を飲みながら言う。
「まあ、あなたがローナを好いていたなんて知らなかったわ」
「好いてなどない。あり得ない。なぜ我があの気違い女を好かないといけないのだ」
「でも実際主の結婚相手としてローナが候補者ではありましたね」
「仕方ないわよねー。竜たちはエドを否定してるから婚姻なんてできなかったし」
「断固反対だ」
「ローナも断固拒否だって言ってたわね」
断固反対運動という名でのぼり旗を掲げてローナと共に父上と母上に反論したことを思い出す。
我にとってそれはつい最近の出来事だ。父上と母上と過ごした時間より亡くなってからの時間の方が長くとも鮮明に覚えている。
我は700年生きる竜人だ。200年を地下で、500年を戦いの中で生きてきた。そんな我が初めて愛した女、ティナ。
そのティナに嫌われた我は生まれて初めて絶望を感じている。
「……はぁ」
「主……」
「わぁ、主様ったらお可哀想ー」
この場で我に気を使ってくれる唯一の男ネイツ。我の腹心ネイツはなぜこの気の使えない女代表のようなサリを妻にしたのだろうか。
サリは頭がおかしいが実力はあるため側近にしているが如何せん気が使えない。
「もおー主様ったら酷いですー。気が利かない主様に言われたくないですー」
「声に出してたか。なら耳から食いちぎってやろう」
「嫌ですー。声が聞こえなくなったら誰が主様を癒してあげられるんですかー」
「これまでもお前に癒されたことなどない。それに声が聞こえなくても関係ないだろ」
「もおー主様の意地悪ー」
「こらサリ、止めなさい」
「はぁい旦那様ー」
「……ティナは」
「ベルーナを行かせましたよ」
「そうか」
ティナは怒ってるだろうか。泣きそうな顔をしていたが泣いていないだろうか。
「はぁ……なんでこんなことに」
「ねぇルナシー、明日私ティナとお出かけするのよー。お出かけっていうか付き添いー。ルナシーも一緒にこないー?」
「あら、そうなの。サクティラもサイネスに任せてきたし良いわよ」
「やったぁ。それじゃあそのあと温泉に行かないー?」
「良いわね」
こいつら……。本当に気の使えないやつらだな。
「ネイツ、なぜこうなる」
「そうですね……。そういえば主はよくティナ様にローナの話をしていましたね」
「それがなんだ?ティナはローナと同郷なのだろう。日本という。だからティナにも日本の話をした方が良いだろ」
「そうですね、なぜでしょうね」
「もう、馬鹿ね。別の女の話を何度も持ち出されて気分が良いわけないじゃない」
「そういうものか?」
「どうでしょう」
ほら見ろ。女にモテると言われてるネイツが首をかしげてる。きっとルナシーが適当なことを言ってるに違いない。
「女心がわかってないわねー」
「ルナシーに獣人や人間の女心がわかるか」
「失礼しちゃう。誰があなたに物事を教えてきたか」
「ルナシーとローナだな」
地下でしか生きることのできなかった我にとって世界の全てを知る方法はルナシーとローナの話だった。
だがルナシーは自由にいなくなるしローナは前世の知識を交える。そのせいで我の知識はおかしなことになってそれが長年我を苛つかせてきた。
我は一度聞いたことは忘れない。それが竜人故なのかはわからないがとにかくそのせいで地上に出て厄介なことになった。
ローナは前世でオタクだった。初めは小学生の時に歴史に嵌まっただけだったそうだ。だが次第に漫画オタク、アニメオタクと二次元に嵌まった。嵌まり性だったローナは前世でリアルな恋をしなかったことに悔やんで今世では大恋愛をすると意気込んでいた。
そんなローナから毎日のように日本やアメリカなどの歴史、アニメや漫画の知識などを聞いていた我はローナの前世で生きた世界とこの我が生きる世界の話が混じりに混じって混同していた。
そんな我が地上に出て混乱してもおかしくない。まず車が走ってないことに首をかしげ箒で空を飛ぶ魔女がいないことに首をかしげ……。
我の知識が混同していることを知ったネイツと1つ1つどれがこの世界の話かを整理するのに苦労した。
今ならアメリカというのはこの世界ではなくローナの前世の話だとわかるが当時はは何がこの世界のことかそうではないのかローナの話がざっくばらんでわからなくて苦労した。
本当に厄介なことをしてくれたローナ。ここにきて更に厄介な存在だ。
「とにかく獣人あるあるには我慢しないことが一番よ。ティナにはエドと向き合うように言うからちゃんと話なさいな」
「わかった、早く言ってこい」
「ティナにも落ち着く時間が必要なのよ。明日言うから早くても明後日2人で話し合いなさい」
「明後日だと?」
我は今すぐにでも誤解を解きたいのに。
「だって明日は温泉に行くって決めたんだもの。それにあなたどうせ今この時間のために仕事を後回しにしてるんでしょ」
「……」
「明日も明後日もやること山積みなんだから明後日ちゃんと話し合える時間を作るためにも明日は1日執務室に缶詰めになることね。私たちはその間ティナと遊んでるわ。ね、サリ」
「そうですねぇ」
……仕方ない。息を吐いてネイツを伴って執務室に向かった。




