嫉妬
翌日王宮に仕立て屋のリス獣人が5人やってきた。
「初めましてティナ様。私はリリスと申します」
「初めましてティナです。よろしくお願いします」
リリスは身長の低いおばあさん。他の4人は茶色いシマリスの姿をしてる。
「まず採寸をさせていただきますね」
「あ、はい」
「みんな、良いね。竜王様と違って丁寧に」
「「「「はぁい」」」」
ん?
リス獣人たちはぴょんぴょんと私の体に乗ってメジャーで体を測り始めた。
なんだか可愛い。
「でもエディと違ってって?」
「竜王様は衣装にこだわらない方なのでいつも時間を作ってくださらないのです。執務中に好きにしろと仰るので執務をされてる最中の竜王様にこうして採寸したり試着させたりしているのです」
だから丁寧にしようにもできないのですと言うリリス。
エディったら。それくらい時間作ってくれれば良いのに。
「ティナ様、こちらが生地になります。柄は古典柄を多めにお持ちしました」
「素敵ね。こんなにたくさんありがとう」
お店かと思うくらいずらりと並ぶ生地。
私は採寸が終わると手にとって見せてもらう。
「ルル、これが良いと思うなー」
「ネルもこれが良いと思うなー」
ルルとネルがそう言いながらある生地の上でくるくる回る。
「これ?」
「それは妖精柄ですね。古典柄の1つですよ」
手にとって広げてみる。翡翠色の生地に白い刺繍で妖精が数人飛んでる姿が描かれている。
「可愛いわね」
「ルルたちの柄ー」
「ネルたちの柄ー」
「そうね。あ、ルルとネルも洋服を作れるかしら。妖精も着替えられるのよね、ルナシーさんが言ってたし」
「ええ、中級の妖精の中には着替えを好まれる方も多いですから」
「ルルもお着替えー」
「ネルもお着替えー」
どうやら2人も乗り気らしい。
「頼んでも良いかしら」
「もちろんでございます。では妖精様のサイズを測らせてもらいます。みんな」
「「「「はーい」」」」
「わールルくすぐったいー」
「ネルもくすぐったいー」
私はその間にも他の生地を見ていく。日本の浴衣が懐かしくなるような趣の似た柄を幾つか選んでいく。
「あら竜王様」
リリスの声に顔を上げるとソファの隣にエディが座る。
「エディ?どうしたの?」
「我がいたら困るのか」
「え、ううん」
どうしたんだろう。一緒に部屋に入ってきたらしいネイツさんに目を向けると嬉しそうに頷かれた。
「もしかして選んでくれるの?」
「悪いか?」
「ううん!!」
「まあ!!あの衣装なんて着れればなんでも良い、むしろ竜の姿は裸なんだからと裸の王様になろうとしていたあの竜王様が!!お妃様の衣装をお選びになるなんて!!」
裸の王様だと?酷い、どれだけ頓着しないのよエディ。
リリスさんたちリス獣人がみんな驚いて時が止まってしまったみたいになっている。
「ふん。ティナ、気に入ったものはあるか?」
「え?えっと、うん。これとかこれとか、あとこれはルルとネルとお揃いにしようと思ってて」
「ふむ、そうか」
エディは私が指す生地を手にとって私に当ててみたりと熱心に考えてくれる。
「ふふ、ありがとう」
「なにが」
「なんでもないわよ」
「はっ!!ティナ様がいれば竜王様が時間を作ってくださるんだわ!!ありがたやー!!」
「「「「ありがたやー!!」」」」
なんか拝まれた。
「おいリリス」
「はい!!なんでしょう竜王様!!」
「ローナが仕事用だと言っていた服があったはずだ」
「山猫一族のお仕着せは特別製ですね。ローナ様もその生地を使われていたでしょう」
「それを使ってくれないか。確か王家に寄贈すると言われてお前のとこで保管させた気がする」
「ええそうです」
ぽんぽんと進んでいく話に私はまたモヤモヤしていく。ローナが着ていた衣装。
裸の王様でも構わないと思うくらい衣装に頓着しないのに覚えていたローナの衣装。
エディがここに来てくれた喜びがスッと冷めていく。
エディはやっぱり私を通じてローナを想ってるんじゃないか。
エディに愛されてる、大切にされてるってわかってるのに。どうしようもなく胸が苦しくなる。
「あれは山猫一族が育てた花で染めた生地で特別な……ってティナ?どうかしたか?」
肩に触れようとしたエディの手を振り払う。
「っ!!ティナ?」
「あっ……ごめん」
「いや、どうした?今は実物ないが絶対ティナに似合うはずだ。ローナは奇抜で派手なものが好きだったがあの若草色の服はなかなか似合って「止めて!!」……ティナ?」
「私はローナじゃない!!」
「ん?わかってるが」
「私を見てローナを思わないでよ!!そりゃあ私にとってはおばあちゃんのおばあちゃんの……ってくらいだけどエディにとっては実際に接して愛してた人だよ。でも私にとっては教科書に乗ってる歴史上の人物で、そんな人が恋敵なんてどうしようもできないじゃない。なんで私がモヤモヤイライラしなきゃいけないのよ!!もう馬鹿!!エディのバーカ!!」
「ティナ!?」
私は勢いよく部屋から飛び出した。
「「わーティナー待ってー」」
走って走って自分の部屋に戻った私。
「……やってしまった」
「ルルがよしよししてあげるー」
「ネルもよしよししてあげるー」
ソファに座って項垂れる私の頭をルルとネルが撫でてくれる。
「私何してんだろう……」
「んールルわかんなーい」
「ネルもわかんなーい」
「「でもよしよししてあげるー」」
「……ありがとう」
好きな人に過去好きな人がいたなんてよくある話じゃない。ましてやエディは700年も生きてるんだ。
私の知らない過去が700年もあるんだから嫉妬しても仕方ないのに。
獣人って規格外な存在だから難しいのよ。ただの人だと思って日本の恋愛小説に死んでしまった彼女を思い続ける人を好きになってしまった話はなかったかしら。
その物語ではヒロインはどうしていただろう。私はどうしたらいいだろう。間違いなく怒鳴りつけるのはいけなかった。なんで怒鳴りつけちゃった私。
「ティナ様ーお茶ですよー」
「ベルーナ……」
ベルーナがニコニコしながら部屋に入ってきて紅茶を置いてくれる。
「あの……エディは?」
ベルーナたち侍女は数人あの場にいた。つまり私が竜王に怒鳴りつける現場を目撃していたのだ。
「あー竜王様なら仕事に戻りましたよ」
「……怒ってた?」
「落ち込んでました」
「……やってしまった」
忙しい中時間を作って来てくれたのに。
項垂れる私の頭上でベルーナがクスクス笑う。
「ベルーナ?」
「獣人あるあるですよティナ様」
「獣人あるある?」
「はい」
私はベルーナから長寿な獣人の恋愛について聞くことになった。




