衣装
食堂に案内してもらった私。そこには既にみんなが揃っていた。一番にエディと目が合うけどエディは呆然としている。
そんなに似合ってないのか。
「え、えっと、変……かな?」
「そんなことないわー。ティナ似合ってるー」
サリさんにそう言ってもらって安心する。
「ええ、よく似合ってます。素敵ですよ」
「あ、ありがとうございます」
やっぱりネイツさんって良い人だわ。いや、良い獣人。これはモテる。
「そうですね。これまでのお姿も素敵でしたがランダの装いもよくお似合いです」
おお、サイネスさんも気遣い上手だ。あのなんの変哲もないワンピースすら褒めてくれるなんて。
「ティナ様なら古典柄もお似合いになるでしょうね」
「古典柄……?」
サイネスさんが言う古典柄というのは日本で古典柄の着物の柄として見たことのあるような有職文様みたいなものだろうか。
「ランダの古くからある柄です。今の若い者たちは嫌がるのですが。趣があって私は好きなのです」
「あらー私も好きよー。ネイツが好きだからー。ほら、今はハンカチで持ってるのー」
サリさんはそう言って七宝柄のハンカチをヒラヒラさせる。
「でも今の流行りは華やかな花柄とかレースだとか色味もパステルカラーとかいっぱいあるのよー。古典柄って地味な模様や落ち着いた色合いにするものだから若い子は好まないのよねー」
「へーそうなんですね。私は好きかも」
「私のオススメはねー登り竜かしらねー」
「えっ、登り竜……!?」
それは派手なのでは?でも古典柄なんだから王様の竜の柄があるっていうのは納得。
「サリ……。ティナ様、登り竜の柄は王族が式典などで着る衣装にのみ用いられる柄です」
「な、それはそうですよね」
ネイツさんの言葉にエディが登り竜が描かれた衣装を着ている姿を想像してみる。
うん、なんか強そう。実際強いんだけど。
そう思いながらエディを見る。そう言えば一言も喋ってない。やっぱりこの格好変だと思われてるのかな。
「エディ?」
「……」
「主様は衣装のことを気にしませんよねー」
「こらサリ」
「主がそうしたことに頓着しないのは確かですけどね。ティナ様、仕立ての予定があれば古典柄を希望してみてはいかがでしょうか」
そういえばさっき試着した中に古典柄っぽいものはなかったかもしれない。
「そうですね。そうしてみます。サイネスさんはこういうことに詳しいんですね」
「ええ、うちは姉が3人いますから」
「あれ?サイネスさんのおうちは軍所属が多いんじゃ」
「そうなんです。軍服を脱いだらおしゃれをしまくっているんです。獣人軍の女性にはそういう者が多いです。実家にいたときは休みが合うとよく叩き起こされて罵声を浴びせられながら買い物に付き合わされたものです」
あ、サイネスさんの様子がどんよりしてきた。
「今では妻と娘にも同じように。職場でも家でもなぜだか俺だけ扱いが酷い……」
「さ、こいつのことは放っておいて食事にしましょう」
ネイツさんが言うとサイネスさんが更にへこんでしまったけど私たちは食事をすることにした。
ランダではみんなで集まって食べる時は賑やかに食事をするものだそう。
サリさんが中心になって話をしている中でいつの間にかエディも普通に喋っていたけど私の格好についてのコメントは一言もなかった。
そういえば古典柄ってことはローナがまだランダにいた頃に主流だったのかな。獣人は長寿だからその辺りがよくわからない。
でもそうだとしたら私が古典柄の衣装を着たらローナを思い出したりするかも。
私はローナに似てるわけじゃないみたいだけど山猫獣人の色彩を持っているそう。先に用意してくれた衣装は山猫一族が好んでいたデザインに近い今の流行りものだそうだ。
私の格好を見てローナを思い浮かべられるのはちょっと複雑だな。
食事が終わりサリさんたちは仕事に戻ることになった。
「あの、私もなにか……」
「そなたは何も気にせずランダに慣れることに専念しろ」
「エディは?」
「我もサイネスとサクティラに戻る」
「そっか。気をつけてね」
私はその場でみんなと別れて部屋に戻る。
「ティナ様、明日からの予定ですが」
「あ、はい」
格好についてエディに何も言われなかったからって仕方ない。ネイツさんもエディはそういうことに頓着しないって言ってたし。
それよりこれからのことだ。エディに言われたようにこの国に慣れなくちゃ。
さっそく明日から勉強とか詰め込む感じだろう。頑張らないと。
「どうされますか?」
「……え?どうって?」
ミゼルダさんに問いかけられて疑問で返してしまう。
「えっと、やることはたくさんありますよね」
「そうですね。とりあえず明日は衣装の仕立てをしたり温泉に行かれたりします?」
「いや、もっと勉強とか」
「まあ、ティナ様は真面目な方ですわね」
おほほほほと笑われてしまう。
「真面目っていうか。あの、山猫一族が管理してた仕事とか」
「ああ、それは今すぐにやらなくてはいけないものではありませんので。見に行かれたいのであればご自由にどうぞ」
「そ、それじゃあ見るだけでも。あと仕立てる時に古典柄というのを見せてもらいたくて」
「あら、ティナ様は古典柄がお好きなのですか?」
「サリさんに見せてもらって好みかなって」
「そうなのですね。それでは用意させます」
「お願いします。あ、あの……」
「はい」
さっき思いついたローナのことを聞こうか迷う。ローナのこと気にしすぎなのかもとは思うけど。
「ティナ様?どうかされましたか?」
「えっと、ちょっと聞きたいことがあって」
「なんでしょうか?」
「山猫獣人のローナのことなんですけど……」
「ローナ様のことですか?」
「はい、あの、ローナと私は似てないみたいなんですけど古典柄の衣装を着たら似たりするんでしょうか……って何言ってるんですかね。こう、私を見てローナを懐かしくなったりしないですかねって」
……エディが、というのは口には出さなかった。
「そうですねぇ。私はローナ様と直接お会いしたことはありませんから分かりかねますが。ただ聞いたところによりますと今のデザインはローナ様が考えられたそうで、ローナ様は当時から衣装を自分で加工していたそうです。当時は斬新なデザインだと言われていたと」
「え、そうなんですか?」
「ええ、なんでもとても変わったお方でこれは数百年後の主流になってるはずだって。衣装だけでなく料理などもローナ様が革命をしたと言われています」
ローナっていったい……。ローナの人物像がよくわからない。
「あ、すみません。似てるかどうかというお話でしたね」
「あ、いえ、大丈夫です。えっと、じゃあ明後日にでも衣装を仕立てたいです」
「はい。でそのように手配いたしますね」




