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妖精のくしゃみが人生を変える


「まあ良い。それでバジーリオ、ロイドは倒したぞ」

「あれ、もうノロケ終わり?まあ良いや、今度ルルとネルに聞こう。教えてね」

「「いいよー」」

「ロイドは自ら毒を飲んでいた。もって20年だがまともに動くこともできないだろう」

「そう」

「ああ、ロイドが王になることはない」

「良かったよ。みんなを呪い殺しちゃうところだったからね」

「……っ!!」



 私は思わず体を強ばらせる。


「おっと、ティナには刺激が強すぎたみたいだ。怖がらせてごめんね」

「い、いえ」


 にこやかに話すバジーリオさん。これまでのやり取りで親しみやすさも感じていたからこそ驚いてしまった。


「そうだなーティナには妖精のことを話そう。ティナはこれまで妖精のことをルルしか知らなかったけどネルやルナシーと知り合ったよね。それにセトスが妖精だと知った。ルルとネルといった初級妖精とルナシーとセトスのような中級妖精、どんな違いがあると思う?」

「えっと、ルルとネルだけかもしれないですけど2人ともお馬鹿……じゃなくて能天気というか……なんていうか」


 さすがにお兄さん的存在のバジーリオさんに言うには失礼かと思って口をつぐむ。


「ふふ、そう、それが初級妖精だ。素直で自分の思う通りに行動する。そして誰かに強い感情を抱かない」

「……どういうことでしょうか」

「気の向くままに行動するけどすぐに興味が削がれる。誰かに思いを寄せることもないし誰かを思いやることもない。悪意も感じ取らない。だからロイドといった者に利用されても気にしないんだよ」

「……私が知ってるルルとは違うような」


 ルルはずっと私のそばにいてくれたし私のことを思ってくれてたと実感してる。


 それに父やマルクスたちが私に対してしていたことにも怒ってくれてた。私が大丈夫だと言ってたから小さないたずらくらいはしてたけど大きなことはしなかった。


「それはルルがティナとティナの母親と過ごしたから芽生えた感性だよ。まあルルは勉強が苦手だからまだまだ先だろうけど中級になる素養はあるってことだね」

「えールル中級になれるのー?」

「あら、ルルって中級になりたいんだっけ?」

「ううんー勉強もお仕事もイヤー」

「ルルの成長は著しいからね。この先どうなるかはわからない。それにネルもルルほど大きな環境の変化はなかったのに離れていてもお互いに影響されていたね。ルルと離れたネルは昔から遊んでいたネイツたちを通じてエドの側に自然といるようになった」

「そうだな。我らは妖精のことをわかっているから妖精が興味を抱いても興味を削がれて離れても気にしない。だがネルは何か変わりつつあるのだろうと思って少しずつ遣いを頼んだりしたものだ」

「そうなんだ」

「だからネルもルルと同じく中級妖精になる素養はできたんだよ」

「えーネルも勉強もお仕事も好きじゃないなー」

「あーでも人間の姿になったら面白そうー」

「面白そうー」

「ふふ、この先が楽しみだね」


 ルナシーさんはルルとネルに勉強をさせようとしてるし私も頼まれるなら真面目にやらせようと思うけど理由はどうあれこの調子なら苦労せず勉強させられそうだ。


「話は戻るけど中級妖精は理性的になる。自主的に誰かのために動くこともできる。何より誰かの悪意を感じることができて自ら危険を回避できる」

「ルルは特別で他の初級妖精は悪意を感じ取れないんですもんね」

「そう。初級は悪意を感じ取れないけどだからって妖精が痛め付けられて喜ぶ兄はいないでしょう。やりすぎなんて人間の尺度は関係ないんだ」


 私はバジーリオさんの話がわかった。


「バジーリオさんは初級妖精を守るために」

「大昔悲惨な事件があってね、僕が獣人を呪い殺したことがあったんだ。そのあとランダの竜王が妖精と友好を結んで妖精を守ってくれたんだよ。それから代が代わって獣人がどんなに争おうと妖精を友として大切にしてくれたから僕は場所が変わってもランダに留まり大勢の弟妹たちを見守ってるんだ」

「ロイドが万が一にもランダの王になってしまえばランダは地獄と化していただろう」


 そういえばエディが毒に侵されていたていた時ルナシーさんとそういう話をしてた。


「僕としてはエドもティナも気に入ってるから安心してるよ」

「あの、エディはわかりますけど私のことは今日知ったのでは?」

「聞いてたよ。セトスから」

「セントス様から?」

「うん、訳あって僕はよっぽどのことがない限りここから動けない。その代わり中級妖精と僕は離れていても会話ができるんだ。だからセトスが神官として見ていたティナとルルのことを教えてくれたんだよ」

「そうなんですか」

「とても面白かったし楽しかった。だからティナには感謝してるんだ。人間にとって妖精は理解しづらい存在だ。でもティナとルルの絆は本物でお互いに思い合ってるのがわかって嬉しかった」


 そこまで言ってもらえるほどのことをしてたのかと思ってしまう。


「えへへー、ルルはティナが大好きだもんねー。ティナもルルが大好きー。だから両思いー」


 ルルがくるくる回って私の手のひらにちょこんと飛び降りる。


「そうね、私もルルが大好きだから両思いだわ」

「おやエド、複雑そうな顔をしてるね。そういえばエドは僕に頼みがあるんじゃないかな」


 あ、そうだわ。エディの頼みって何かしら。


「ああ、頼みがある。バジーリオに頼んでどうなることでもないと思うが」

「ふふ、僕に不可能はないんだよ。マナ、おいで」

「はぁい」


 大人っぽい何だか色気のある女性の妖精が突然現れた。


「この子はローナについていった子。農作物や植物を活性化させる力を持つ山猫一族と親和性の高い妖精だ。さっき眠りから起きてね。若干寝ぼけてる」

「この子が……」

「ふわぁ。あら?あらあら、あなたがローナの子孫なの?まあ、エドと婚姻を?」

「あの……?」

「ああ、気にしないでちょうだいな。ただあのローナの子孫がエドと結婚だなんて面白い巡り合わせだと思っただけ」


 どういう意味だろう。胸がざわつく。


「安心して。私はローナのことが大好きなの。だからローナの子孫のことも愛してあげる」

「えっと、ありがとうございます?」

「ルルたちが素養をつけても勉強や仕事が嫌いなようにマナもローナのことが好き過ぎるが他はからっきしでね。言うことはめちゃくちゃでも良い子だから仲良くしてあげてほしいな」

「あ、はい?」

「エドの頼みはティナに植物活性化の力を使いこなせるように教えてくれる存在がいないかってことだよね」

「そうだ。マナが起きたのなら助かる」

「マナは一回起きかけたんだけどね、ローナも山猫一族もいないんじゃつまらないといじけてるうちに二度寝してしまってね」

「えーっと、つまりマナさんが力の使い方を教えてくれると?」

「あら、マナで良いわよ。私は自分の力と親和性のある獣人が好きなの。よろしくね。でもまだ眠いからもう一度寝るわ。ふぁ……」


 マナはそう言うと一瞬光って消えた。代わりに地面にさっきまでなかった光る石が落ちていた。


「これは妖精の核なんだよ。眠りについた妖精は僕がこうしてここで守ってるんだ」

「そうなんですね」

「ま、適当に起きると思うから。でも、ああ、妖精に限らずこれはランダに住んでる生き物に通じてだけど時間とか気にしないからいつ起きるかは保証できないんだけどね。ティナがいるからすぐ起きると思うけど」

「時間を気にしないとは?」

「そのままの意味だがランダに住む者たちは時間を気にしないんだ。ローナが日本人は時間に細かい人が多いと言っていたからやりづらいかと。一応我や側近たちは時間通りに動くが普通の者たちはそもそも集合時間を決めることがない。日が上った丁度昼頃に会おうと言ったりいつの午後の適当な時間に行くからよろしくとか」

「あー……なるほど。日本人だった感覚からすると違和感はあるけど大丈夫」


 エディが気にしてたことってそういう話なんだ。前世でも日本と別の国でそういう違いはあったし郷に入っては郷に従えだもんね。


 サクティラも時間にルーズだったから大丈夫。


「それじゃあ我らは帰るか」

「うん、またいつでもおいで」

「あ、はい、ありがとうございました」

「「バジーリオーバイバイ」」

「ルル、ネル、またね」


 帰りもエディに抱き上げてもらって地上に着く。


「ティナーバジーリオ優しかったでしょー」

「優しかったでしょー」

「ええ、あなたたちの素敵なお兄さんなのね」


 穏やかな笑みを浮かべていたバジーリオさんがルルとネルに向ける瞳には弟を思う優しさがあった。


「ティナ」

「ん?あ、エディありがとね。私が力を使いこなせるように考えてくれて」

「基本的に獣人は一族の結束が高い。本来なら一族の者が教え導いていくものだ。山猫一族の力は種族固有の特殊なものだが今教えられる者がいないためどうしようか相談しただけだ」


 あ、エディが竜王様の顔してる。私はあることを思い出して笑ってしまう。


「どうかしたか?」

「ううん、あの、エディが言ってたこと思い出して」

「我が言ったこと?」

「私がエディのことを竜王って知らなかった時、王様ってどんな竜なのって聞いたら恐れられないとって」

「ああ、言ったな」

「でも実際はみんなエディのこと恐れてなくて慕ってるし力のことも真剣に考えてくれるし素敵な王様なんだなって」

「……ふん」


 エディはそっぽを向いてしまうけど恥ずかしいのか顔が少し赤い。


 ちょっと可愛いと思ってると急に抱き寄せられる。


「きゃっ」

「500年前父が死んでから王としてできることをやってきただけだ」

「そっか、500年も。凄いね」

「凄くなどない。我がやるべきことだっただけだ」


 獣人は一族の結束が高いんだ。でも竜は?竜は争っていたんだからエディは500年1人で戦ってきたのよね。


 もちろんルナシーさんやネイツさんたちはいたけど本当は協力しあう一族と戦い続けてたエディはきっと大変な思いをしていたんだろう。


 私は手を伸ばしてエディの頭を撫でる。


「ティナ、そなた我を子供扱いしてないか?」

「そんなことないよ。確かに子供の姿のエディは可愛かったけど。……偉そうだったけど」

「ふん。……これは慰めてるのか?」

「んー頑張ったねっていう感じ?ねぇ、山猫一族は絶滅してしまったのよね」

「ああ。他の国にはいると思うが珍しい種族だ。本当は一族の仲間がいるだけでも力が安定したりするのだが」

「そうなんだ。でもそれなら私はエディと一緒じゃない」

「我と?」

「うん。エディも他の竜と争ってきたんでしよ」

「ああ、そうだな。竜と他種族の子の竜というのはほとんど類を見ないし紛い物だと言われていた」


 酷い。エディのお父さんもお母さんも素敵な獣人でエディも立派な竜なのに。


「でもこれからは私がエディの家族だよ。種族は違うけど私はきっとエディがいれば力も安定させられる。力のことはわからないけどエディの側にいれば安心できるんだもの」

「ティナ……。そうだな、我もティナがいると安心する。ティナ、我はそなたを永遠に愛すると誓う」

「わ、私も」


 急に甘い雰囲気になって戸惑うけどなんとか答える。


「我らはまだ出会ったばかりだ。育った環境も違うし当たり前に思ってることも違う。だがこれから知っていきたい。ティナもそう思ってくれるか?」

「もちろんよ。私もそう思ってた。ランダのこと、獣人のこと、妖精のこと、なによりエディのこと、もっともっと教えてね」

「ああ」


 目を閉じてエディとキスを交わす。


「あら?」


 ふと周りを見るとルルとネルが回りながら花を落としている。


「ルル、お祝いしてるのー」

「ネルもお祝いー」

「ふふ、お祝いしてくれるの?可愛い」

「そうだな」




 私はサクティラで王子の婚約者だった。でもルルのくしゃみがきっかけで人生が変わった。


 これからも何が起きるかわからないけどきっと何があっても大丈夫。


 大好きな竜獣人の旦那さんと可愛い妖精。それにたくさんの仲間たち。みんなと一緒に新しい人生を楽しんでいきたい。




ここまでお付き合いいただきありがとうございました。次からはランダでの暮らしを描いていきます。

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