ランダ
「あれがランダだ」
「うわぁ……」
見えてきた光景に息を飲む。
中央に建てられた宮殿。山や森、川、自然が多い印象の国、これがランダなんだ。
小さくて可愛い家から大きくて立派な家まで様々あっておうちのドアを開けて出てくるうさぎやリスの獣人たち。
薪を背に背負って運ぶ犬の獣人たち。
妖精とおいかけっこしている子供の獣人たち。
羊の男の獣人が小さい羊の赤ちゃんを抱いた人間の女性の肩を抱いていたり、穏やかな暮らしがそこにはあった。
エディがゆっくり下降して進むと子供の獣人たちが手を振る。
「竜王様ー!!おかえりなさーい!!」
「おかえりなさーい!!」
「うむ」
大人の獣人たちも笑顔で手を振る。
「竜王様!!ご結婚おめでとうございます!!」
「せーの!!」
「「「ティナ様ー!!ようこそランダへ!!」」」
突然の歓迎に驚く。
「あーそういえばサクティラで解放された妖精にティナのこと話したんだったー」
「先に戻ってるねって言ってたー」
改めて下を見るとみんなに名前を呼ばれている。まさか既に国中のみんなが知ってる?
「皆、我の妻のティナだ。山猫一族の血を引いているが人間だ。まだ獣人のことも妖精のことにも詳しくないが仲良くしてやってくれ」
エディが大きくないけどよく通る声で言うとみんなから歓声が沸く。
「素敵!!愛されてるのね!!」
小さな鳥が近くに飛んできて歌うような可愛らしい声で言う。
「可愛い……あなたも獣人なの?」
「ええそうよ!!」
鳥がくるりと回ると羽の生えた女の子が現れて今度はとても素敵な歌を紡いでくれる。
「とっても素敵。上手ね」
「ありがとう。ランダへようこそティナ様。素敵な王妃様にお仕えできるなんて嬉しい!!」
「え、お仕え?」
「城で待っていろと伝言しておいたはずなんだがな。そいつはベルーナ。人間の王族には侍女がいると聞いてティナと同い年だからこいつに侍女を任せることにした」
「侍女って付き人みたいなものって聞いてるけど何をするのかわからないのー。でも任せて!!」
「えっと……」
とにかくランダには侍女という存在はなかったけど私に合わせて特別に任命してくれたってこと、よね。
「かつて山猫一族は王族の付き人をしていたんだが絶滅してからはいないんだ」
「そうなんだ……。って、あれ?私と同い年?」
10才くらいの女の子だと思ったんだけど。
「私は18才よー」
「……やっぱり獣人って年齢詐欺だわ」
「ねえティナ様、侍女ってなにをすれば良いの?教えて教えて!!」
「ベルーナ、後にしろ。とにかく城に戻って皆と待っているんだ」
「はーい、わかりましたー竜王様ー。じゃあまた後でねティナ様」
「あ、うん」
ベルーナはポンと鳥の姿になって宮殿に向かって飛んでいった。
「すまんな。王宮務めをしているやつの娘で普段は人間の国でいうメイド?をしているんだ。一応他にもそういうやつを何人か集めたが……。何をすれば良いのかティナが教えてやってくれ」
「そんな、私も屋根裏暮らししてたからわからないわよ。気にしなくて良かったのに」
「ルルが他の家を覗いた時はねーお茶を淹れたり着替えを手伝ったりお化粧をしたり髪の毛をくるくる巻きにしてたりしてたよー」
「そうか。身支度を整えるのだな。安心しろ。それならベルーナたちでもできそうだ」
「う、本当に自分のことは自分でできるのに」
「それにベルーナのような娘たちとは別に夫人も集めているからわからないことは彼女らに聞いてくれ」
話聞いてないや……。いつの間にって感じだけど私が過ごしやすいように考えてくれたんだよね。
「ありがとう、エディ」
「いや、ティナが戸惑うことの方が多いだろうから、と思ったんだ。だが逆に迷惑をかけるかもしれないと不安になってきた」
「そんなことないわよ。大丈夫」
「そうか。だが困ったことがあったら言ってくれ。一応サリもティナの面倒を見るように言っておく」
「え、サリさんはエディの側近なんでしょ。それなのに私の面倒なんて見てもらえないよ」
「だがサリとは随分親しくなったように見えたが」
「それは短い間だけどずっと一緒だったし」
「だったら安心だろ。通常の仕事の合間にさせるから気にするな」
「そ、そう?サリさんが良いって言ってくれたら嬉しいけど」
サリさんって話しやすいし可愛くて癒し系だし、なによりネイツさんの奥さんなんだもんね。奥さんって何をするのか話を聞かせてもらいたいかも。
「ティナ、このまますぐにバジーリオのところに行くが良いか?」
「うん、もちろん」
エディは王宮を通りすぎて林に向かい人間の姿になった。
「この奥だ」
林の奥に進むと湖があった。
「綺麗ね」
「湖を見る分には気軽に来れる。気に入ったならいつでも来ると良い」
「うん、素敵。上級妖精はどこに?」
「この中だ」
エディが湖に手を翳すと湖が赤く光る。そして湖が左右に割けた。
「えっ」
「妖精は湖に飛び込めるがそれ以外はバジーリオが許可した者しか入れないようになっている」
「そうなんだ」
獣人の姿になったエディに抱き上げてもらい湖の底までゆっくり降りていくとそこには洞窟があって入っていく。
「やあエド、来ると思ってたよ」
「そうか」
石でできた台座に白銀の長髪と水色の瞳を持つ美青年が座っていた。
「バジーリオー!!ルル帰ってきたよー」
「ルル、良い経験をしてきたようだね」
「わかるのー?」
「もちろんだよ。お帰り」
「ただいまー」
「そしてティナ、初めまして。僕はバジーリオ。弟が世話になったね」
「あ、えっと、いえ」
やっぱりこの人妖精なんだ。
「うん、妖精だよ。ほら」
バジーリオさんが目の前で消えて妖精になった。
いや、それより。
「わ、私口に出して?」
「読心術みたいなものかな。ま、気にしないで。僕は人間も獣人も理解できないほど超越した至高の存在だからね」
「……はい?」
「ティナ、本当に気にしなくていい。相手にするだけ無駄だ」
「エドは冷たいね。そんなエドが愛妻家になるなんて僕たちが話していた通りで笑えちゃうよ」
「ふん、そなたたちの望む通りになったのは不本意だがまあ、良い。見ろ、ティナだ」
エディに力強く背中を押される。相変わらず雑だな、と初めて会ってからのことを思い返す。
「はいはい。とても可愛い女の子だね」
「……やっぱり見るな」
今度はエディに抱き寄せられる。なんなんだ。
「ふふっ面白いや。さ、どうやって出会ったんだい?馴れ初めを聞こうじゃないか」
「うむ。我がロイドの毒で弱っている時に出会ったのだ。最初はネルが人間の姿になったのかと思った」
「へぇ、それは一目惚れだったんだねぇ」
「え、なんでですか!?」
つい大きな声を出してしまう。
「ティナ、僕を見てごらん」
バジーリオさんはそう言うと人間の姿になった。
「はい?」
「妖精が人間の姿になると美しいんだよ」
「は?」
「ほら、人外の美しさっていうの?魅了の魔法なんてなくても魅力的でしょ」
「た、確かに?」
そういえばルナシーさんは言わずもがな美女だしセントス様も綺麗な人だ。
「獣人の男でそこそこの美形はいるけど僕には敵わない」
「はあ……?」
わかった。この妖精ナルシストだ。でも実際イケメンだから反論できない。
「つまりエドがティナのことを妖精に見えたってことはそれほど美しさに魅了されたということだ」
「へあ!?」
そ、そういうことなの!?
「ふむ……確かにそうかもしれない。言われてみればあの時ぼんやりしてたとはいえ人間とも獣人とも思わなかった」
「え!?納得しちゃうの!?」
「なぜ驚く?」
「いやいや、最初の頃のエディって酷かったでしょ」
「そうか?」
「自覚がない!!」
さすが傲慢な竜王様だ。でもさっきこの国のみんなが竜王様竜王様って笑ってた。エディはすごく慕われてる王様なのね。




