上級妖精
エディの背に乗ってラリア砂漠の上を飛んでいく。
「ラリア砂漠は途方もなく広いって聞いていたけど獣人にとってはそんなことないのよね」
「そうだな。あまり来ることはないが」
「砂漠の向こう側なんてそれこそ異世界くらい別物な気がしてた。ねえ、向こう側は獣人ばかりなの?」
「人間も獣人も妖精も、それにエルフやドワーフなんかもいるな」
「えー!!凄いのね」
「あんまり関わることはないが。時々ドワーフに襲われたと人間が逃げてくることもあるな」
「そうなんだ。ドワーフは危険、と」
頭のメモにメモする。ラリア砂漠の向こう側の世界は日本という異世界とはまた別の異世界だ。
「ワクワクするわ。いろんなことを知りたい」
自分の想像や常識を越える出来事がたくさんあるはず。
「そういえばルナシーがティナにランダのことを教えると言っていた」
「え、本当?」
「ああ。王妃のやることなんてないとは言ったが考えるとティナは獣人のことも妖精のことも魔法のことも詳しくないんだったな」
「うん、教えてもらえるなら嬉しいな。でも良いの?ルナシーさんって忙しそうじゃない?」
「良いだろ。それにルルとネルに試験を受けさせなければと言っていた。30年前にサボったところからやり直しだと」
エディによるとルルたちが教わっていたことと私がこれから習うことは同じだそう。
ルナシーさんは私と一緒にルルとネルに勉強させようと考えてるらしい。
「えールル嫌ー」
「ネルも嫌ー」
「っていうかルルは仕方ないにしてもネルはなんで試験を受けてないのよ」
「ネルはルルと一心同体だからールルが受けないなら受けないって言ったのー」
「そう……」
ちなみにルルと一心同体のネルはこれからはルルと一緒に私にくっついてくるそうだ。私は面白いからだと。不思議だ。私は面白キャラじゃないのに。
「人間の、それにティナがいた日本の常識とはだいぶ違うとローナが言っていたな。まあそのうち慣れるだろう」
「例えばどんなことが違うの?」
「そうだな、人間は人が住む家を建てるのに何日もかかるらしい」
「それはそうじゃない?」
「魔法を使えば数時間で終わる」
「へー!!そうなんだ。そういえば魔法にもいろいろあるんだもんね」
「ああ、だから今頃ランダはいつも通りになっているだろう」
「あ、そっか、火の海だったんだっけ」
初めて会ったとき火の海だからランダに行かない方がいいって言われたんだよね。
「大丈夫なの?」
「さきほど獣人隊に聞いたが全員無事で国も着実に元通りになりつつあると言っていた。我らが着く頃には元通りだろう」
「そうなんだ。良かった。それにしても本当に魔法ってすごいのね」
ランダはどの時代も戦いが日常化していて平和的な国ではないそうだけどみんなの魔法や獣人の特性を使って協力しあって生活していたそうだ。
「ああ、ランダに着いたらついてきてほしい場所があるんだが良いか?」
「もちろん。どこに行くの?」
「上級妖精のいる場所だ」
「上級……」
ルルとネルは初級、ルナシーさんやセントス様が中級、その上である上級の妖精。どんな妖精なんだろう。
「上級妖精は1人。妖精王とも呼ぶ」
「妖精王!?」
上級妖精は妖精の王さまだったのね。
「バジーリオというんだが、他の妖精たちとは別の存在だな。神に近い存在だ。歴代の王はバジーリオに友好の証を示す決まりなんだ。それが獣人が古くから妖精の友人である証明になる。ロイドは妖精を蔑ろにしていたからな。我が死んであいつが王になってなどいたらバジーリオが全ての獣人を滅ぼすところだっただろう」
「それは……」
滅ぼすってどうやって?獣人だけを呪い殺したりとか?
「恐ろしいか?」
「う、ううん、そんなことないんだけど」
「バジーリオは優しいよー」
「優しいよー」
「ルル、ネル」
ルルとネルが私の周りをくるくる回る。
「ルルも久しぶりにバジーリオに会いに行こー」
「ネルもーつい最近遊びにいったけど会いに行こー」
「そ、そんなに気軽に会えるの?」
「全ての妖精にとって兄のようなものなんだ。我らは王位を継ぐ時や特別な時にしか会いに行かないが」
「バジーリオにティナのこと紹介してあげるーティナは面白いからバジーリオも気に入るよー」
「そ、そうなの?」
妖精の王で全ての獣人を殺せるような凄い人、じゃなかった、凄い妖精が?
「妖精に性別はないんだが大抵は自らが好きに振る舞ってる。ルナシーは女、セトスは男のようにな」
性別なかったんだ。ルルとネルは男の子だと思ってたけど。
「バジーリオはルナシーの男版のような性格だな。だがルナシーほど傍若無人じゃないし話の通じる妖精だ」
「ルナシーさんは別に傍若無人でもないし話も通じるけど……」
「いや、我はルナシーほど偉そうな妖精は知らない」
「そ、そう」
エディも十分偉そうで傲慢な獣人だけど。似てるところがあるから同族嫌悪みたいなものかな。エディはルナシーさんに育てられたみたいなものらしいしルナシーさんに似たのかもしれない。
「とにかくロイドが王になることはないとバジーリオを安心させるためにも会いに行こうと思う」
「それはわかったけど私がついていって良いの?これまでも王の奥さんになる獣人も会いに行ってたっていうこと?」
「いや、我の母親が行っただけだ。そんな仰々しいものではない。ただ、母とルナシーが昔バジーリオにおかしな話を聞かせたものだから」
「おかしな話って?」
「可愛げのない我が妻を娶ったら父のような愛妻家になるに違いないと。バジーリオも興味があるから連れてこいと言っていたんだ。我はそんなわけないと相手にしてなかったのだが今は母を自慢しに連れていった父の気持ちもわかる」
「え、自慢しに……?別に自慢できるような者では……」
「いや、そんなことはない。それに頼みたいこともある」
「頼みたいこと?」
「頼みというかバジーリオの知恵を借りたいと思っただけだが」
「どんなこと?」
エディがお願い事なんて意外。
「我が心配してるだけだ。ティナに余計な負担をかけたくないから気にしなくて良い」
「私に関わることなら教えてくれれば良いのに」
「……あとで良いだろ」
「そう?」
バジーリオさんに言うときに聞くだろうからまあ良いや。
それからルルとネルにバジーリオさんの話を聞いたりしていた。




