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国外追放


「ティナ、お前を国外追放とする!!」

「承りましたわ。では」

「今さら謝ったって遅いんだぞ!!こんなに愛らしいナンシーを虐め妖精の乙女を偽った罪は重い!!」

「……誰が謝るかっての」

「マルクス様、お願い!!お姉様を責めないで!!私が良い子じゃなかったからお姉様は……」

「なんて健気なんだ!!愛してるよナンシー」

「わ、私もですわマルクス様!!」


 もう出発して良いかしら。


 妖精のくしゃみから5日後、ようやく沙汰が決まったと城に呼び出された私。


 やっと自由の身になれるのは嬉しいのだけど茶番に付き合わされてうんざりしているところだ。


「あなた、ようやく厄介者払いができるわね」

「ああ、そうだな」


 近くでそんなことを言ってるのは実の父と義母。


 まあ、全く気にしないけどね。


「さあティナ!!悔いながらこの国から出ていくのだ!!後悔してももう遅いがな!!わははは!!」

「行って良いのね。では、ごきげんよう」


 まったく、ようやく解放されたわ。


 後ろ手にワーギャー騒いでる元婚約者と実父と義母と異母妹の声を聞きながら私は歩き出した。


 けどこういうのって普通国外まで運んでいかれるものじゃないかしら。ここでさよならって良いの?


 ま、私1人でなにも出来ないと思われてるんだろう。




 こうして国外追放を言い渡された私はある場所に向かうことにした。


「さ、頼むわよルル」

「あーい」


 あ、ちなみにルルというのは妖精の名前だ。


 ルルが私の周りをくるくると回ると私の目には何も変わらないけれど周りからは私が見えなくなる。


 妖精にはそれぞれ特別な固有の能力があるそうだ。大昔国を救ったような能力がある妖精もいる。


 そんな中でルルの能力は人や物を透明にするというものだ。潜入から盗みまであらゆる面でうってつけの能力だ。


 私は生きるために仕方なく屋敷のキッチンでパンを盗むのに透明になっていたけど他所ではしてない。盗みは駄目よ。


「マリナさん、こんにちは」

「おやティナじゃないか。どうしたんだい?やっぱり復帰してくれるのかい?」

「いえ違うんですよ。実は私、国を追放されることになってしまったんです」

「おや、そうかい。じゃあ餞別にこれ持っていきなよ」

「ありがとうございます!!」


 透明化して向かった先は王都にあるパン屋だ。


 私は長年透明になって屋敷を抜け出しこのパン屋で売り子として働いていたのだ。


 肉を買うために働かないとと思いながらも前世のようにネットでサクッと調べるわけにも行かず王都をフラフラしていた時に盗人がパン屋のパンを盗んでいるところを目撃し透明になったまま突撃し盗人を捕獲した。


 そんな縁があってそのパン屋で働かせてもらえることになったのだ。


 マリナさんは夫婦でパン屋をやっている奥さんなのだけどどうも普通ではない肝っ玉母ちゃんで7才と5才の子供を育てながら明るく働いている。


 ルルのくしゃみ事件のあと透明化して辞めますと伝えに来て以来の私にマリナさんはいつも通り接してくれる。


「ティナは昔から世界を旅したいって言ってたもんね」

「まあ国外追放ですけど」

「良いじゃないか。ティナにお貴族様は向いてないよ」

「あははは。ですよね、私もそう思います」


 マリナさんは私が王太子の婚約者だとか妖精の乙女だとかは知らないけど貴族なことは知っている。


 私の赤褐色の癖毛は貴族としては珍しく翡翠色の瞳は平民としては珍しいから容姿からは判断しにくい。


 だけど引きこもりとはいえ貴族の教育を受けていたお母様からこの国の言葉を教わった私は知らないうちにお嬢様言葉を話していたのだ。それであっさりバレた。


「どこに行くかは決まってるのかい?」

「はい一応。たどり着けるかわからないんですけどね」

「そうかい。まあ、気ままに旅を楽しめばいいさ」

「ですね。それじゃあ行ってきます。お世話になりました」

「行ってらっしゃい。気をつけて」


 こうして私は生まれた国を追放されて旅に出た。




 マリナさんにもらった堅パンを食べる。


「残りのパン仕舞っておこう。ルル」

「あーい」


 ルルが大きく口を開けて私が持っていたパンを吸い込む。


 妖精には固有の能力以外に全妖精が使える基本の能力というものもあって、その1つに異空間というものがあるのだ。妖精が吸い込むと命があるもの以外ならなんでもその異空間に繋げられるらしい。


 城に行く前この能力を使って、育てていた家庭菜園の植物やお母様との思い出の品などを異空間に仕舞ってきた。


「で?」

「でー?」


 ルルに向かって尋ねると首をかしげるルル。


「どっちよ」

「んー?あっちかなー?」

「あっちなのね?」

「こっちかもー」

「……こっちなのね?」

「やっぱりあっちかもー」

「……」


 やっぱりかという気持ちと一歩めからわからないのかと呆れの感情でため息をつく。


 私が向かおうとしているのはルルの故郷と言える国だ。


 その国は人だけでなく獣人や妖精が共存して暮らしているという日本では考えられなかった異世界ならではの国。


 そんな国があるのかと興味深く思って、もし国を出ていくことがあればぜひ行ってみたいと思っていたのだ。だけどそんな国はこの世界でも幻の国だった。


 だから頼りはルルだけだったのだけど仕方ない。


「よし、聞き込みするわよ」

「でもみんな知らないってー」

「あの国ではね。別の国では違うかもしれないじゃない」

「そうかなー」

「ほら、行くわよ」


 私はとりあえず一番近い国の集落を目指すことにして歩く。




 パン屋で働けていたけど基本的に屋根裏部屋か教会にいないと怪しまれる。だから自由に歩き回りたいと思っていたのだ。


 お母様は引きこもって楽しかったみたいだけど私はせっかくの異世界をもっと楽しみたかった。


 それでもこれまで国外逃避もしなかったのはお母様と過ごした屋根裏部屋を離れがたかったからでもあるし、王族や貴族が妖精頼みで平民の努力をわかっていない中平民は初代妖精の乙女に感謝していると知ったからだ。


 きっと初代の妖精の乙女もそうした優しい人たちに出会って彼らを救うために生活の知恵を授けたのだと思う。だから私はささやかに妖精の乙女としての務めをやめなかった。


 務めというのは妖精へ祈りを捧げる儀式だとかお告げだとか離れた場所で起きている出来事を見通して伝えるとかそういうこと。


 妖精の基本的な能力の1つで天気を予報できたり、物理的に飛んでいって離れた場所の様子を見て来てこんなことが起きてると私に教えてくれたことを伝えたりしていた。


 だからこんなことにならなければ自由に旅したいと夢は見ても実際に出ていこうとは思わなかっただろう。


「ティナ、着いたー」

「そうね。……着替えなくて大丈夫かしら」


 最初の目的地に着いた私は自分が今着ているドレスをヒラヒラさせる。


 当然だが父は私やお母様に屋根裏部屋だけを提供したがそれ以外は何もしなかった。


 でもお母様が事前に予想して、お母様の持っていたドレスとお母様の唯一の理解者だったおばあ様──私にとっては会ったことのなかったひいおばあ様の持ち物をできる限りルルの口に入れて嫁いできた。


 だからそれらを着たり、破いて縫い直したりして赤ちゃんの時の私の服にしていたりした。


 今私が着ているのは城に行くからと一応ちゃんと貴族に見えるドレスだ。


「でも着替える場所もないし……そんなに華美じゃないから今日はこのままで良いかも。よしルル、聞き込み開始よ」

「あーい」


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