第二王子
私たちが森に入るとサイネスさんとライザさんが気付いて合流してくれた。
「例の場所は見つかったかしら」
「いえ、それらしき場所は見つけられませんでした」
「しかし第二王子がいるという離宮に人間がいました」
「スレイブ様でしょうか。無事だと良いんですけど……」
今のところサクティラの人間は洗脳されている人とセントス様に眠らされた人たちにしか会っていない。
「離宮に行ってみて良いですか?」
「そうね。第二王子がいれば例の場所もわかるだろうし」
「あ、でもサイネスさんたちは獣人だってわかると警戒されてしまうかも。説明するにしても最初は人間の姿で会う方が……」
「はぁい」
「わかりました」
「了解です」
そう言うとサリさんとサイネスさんとライザさんは人間と変わらない姿になりルナシーさんも精霊の姿では人間には見えないからと人間の姿になった。
しばらく歩くと木や蔦に覆われて森と同化しているような古びた外観の建物の2階の窓からこちらを見ている人がいるのが見えた。
「スレイブ様だわ!!」
良かった。無事だったのね。
スレイブ様は私に気付いて手を振るとどこかに行ってしまう。
そして私たちが離宮の目の前にたどり着くと同時に扉が開いてスレイブ様が顔を覗かせる。
「ティナ」
「スレイブ様!!」
「ティナ、早く入って」
スレイブ様は周りをキョロキョロ見ながら手招きして、私たちは急いで離宮に入る。
「スレイブ様、ご無事で何よりです」
「うん、ここは皆から忘れられてるからね。誰も来なかったんだ」
「な、なるほど。それではここの人たちは皆さん無事なんですね」
「うん」
この離宮はスレイブ様とスレイブ様の乳母とその夫、乳母兄弟の4人で住んでいる。
「ティナは国外追放されたはずだよね」
「あ、はい、ご挨拶できずにすみません」
「良いよ、バイバイしたし」
実はスレイブ様は私が国外追放を言い渡されている時、森の木の上から見ていたのだ。
スレイブ様はかなり行動的で国内の情報にも精通しているし、放って置かれてる立場で自由に動き回っている。
「それで、何で戻ってきたの?この人たちは?」
「えっと、ところでスレイブ様は今の状況はご存知ですよね?」
「もちろん。獣人たちがこの国を占拠してるんでしょ?」
「はい。実はこの3人も今は人間の姿をしていますが獣人なのです。あ、でも味方です。悪い獣人じゃないんです」
私がそう言ってサイネスさん達に合図すると3人は獣化して狐と狼と鷹の姿になった。
「わぁ……」
スレイブ様は驚きはしたが怯えや恐れといった表情はしなかった。
そもそもスレイブ様はちょっと、いや、かなり変わった感性の持ち主だ。
いまいち読めないスレイブ様の顔を伺いつつ話を続ける。
「えっと、国外追放されたんですけど紆余曲折あってこの人たちと一緒に戻ってきたんです」
「なるほどね。ティナは獣人と共闘してサクティラを占拠しにきたんだね」
「ち、違います!!この人たちは今サクティラを占拠してる人たちと敵対してて戦おうとしてるというか戦ってる最中なんです」
「へーそうなんだ」
何でもないことのような反応をするスレイブ様。
「あなた、自分の国が占拠されてるのにどう思っているのかしら。獣人も怖くないの?」
ルナシーさんが尋ねる。
「んー僕は僕の家族が無事なら良いかな。あ、ティナとかセントスとか好きな人もいるけど。でもティナは国を出ちゃったしセントスは今行方不明らしいね。獣人はねぇ、んー、ところでこの3人?3匹?3頭?は人間の姿と獣の姿は見たけどこれだと獣の姿になれる人間だね。僕は昨日今日遠目で角や尻尾を生やした獣人を見たけどこの3人も同じなのかはわからないね」
「……え?」
こういうところなのよね。スレイブ様のよくわからないところ。
とりあえず獣人姿を見たいということかと思ってサリさんたちに獣人姿になってもらった。
「おお、確かに獣人だね」
「あの、スレイブ様?」
と、そこにバタバタと足音が聞こえたかと思ったら男の子が走ってきてスレイブ様の頭を叩く。
「馬鹿スレイブ。ティナさんが困ってるだろ」
「うーん痛いなぁ」
「あの、ティナさん初めまして。僕はスレイブの乳母兄弟のアーヴィンです」
「ああ、あなたがアーヴィンなのね。スレイブ様から話は聞いてるわ」
「僕もスレイブからティナさんの話を聞いてました。あと今の話もそこで聞いてました」
アーヴィンが指差す方を見ると部屋の扉が少し開いていて男性と女性がこちらを見てお辞儀をしていた。
「僕の父と母です」
「そうなのね」
聞いた通り元気そうな姿に安心する。
「それで、じゃあティナはどうして僕に会いに来たの?生存確認?」
「そうですね。ご無事か心配してましたけど他にも聞きたいことがあって」
「なに?」
「以前スレイブ様が仰っていた獣の姿が見えないけど声がする場所っていうのがどこにあるのか教えてもらえますか?」
「良いよ。でもただじゃ教えられないよ」
「えっと、どうしたら良いですか?」
「その前にティナはサクティラを占拠しようとしてないんだよね?今いる獣人たちと戦うの?」
「そうですね。といっても戦うのはこの人たちなんですけど。私も役に立てることはしようと思ってるけど」
「じゃあさ、僕も連れていってくれる?」
「え?……えっ!?」
何を考えてるのかわからない表情から少し悲しい表情を浮かべるスレイブ様。
「アリシアが捕まっちゃってね。大切な家族だから助けにいこうとしてたんだ。どこにいるかわからないけど」
アリシア様というのはスレイブ様の婚約者だ。
家族が無事なら良いって言っていたけどアリシア様が捕まってしまったからさっきみたいに2階から覗いたりこの状況でも情報を集めていたんだろう。
「スレイブ様……さっきアリシア様とお会いしました」
「ほんと?」
「はい。ナンシーと一緒にいました。ナンシーの侍女をさせられているようでした」
「あら、さっきの子?」
ルナシーさんが言う。
「んー彼女も洗脳されてるみたいでしたねー」
「洗脳?」
「あの、洗脳っていう魔法を使って言うことを聞かされてるみたいなんてす」
「そっか……どうにか助けないと」
「ルナシーさん、洗脳は解けるんでしょうか?」
「魔力を体内に流して血流を乱すと解けるわ」
「獣人みたいに魔力のない人間でも大丈夫なんですか?」
「ええ。魔力を受け渡すわけでもないし魔力が後々影響することもないわよ」
「そうなんですね。……でもスレイブ様を連れていくのは危険ですよね」
「私に良い考えがあるから良いわよ。とりあえずエディのところに全員連れていきましょう。王宮に近いここにいたら巻き込まれるわ」
「わかりました。そしたらスレイブ様、森の怪しいっていう所を教えてもらえますか?その後で戻ってくるので私の家に皆を連れていきます」
「うん、良いよ。じゃあ行こう」
「え、行く?」
場所を教えてもらうだけのつもりだったんだけどスレイブ様は私の手首を掴んで歩いていく。
「ってわけだからアーヴィン、父さんと母さんと避難する準備をしててね」
「あーえーっと、わかった。1人で乗り込ませるよりマシか。ティナさん、足手まといになると思いますけどスレイブのことよろしくお願いします」
「あ、いえいえ、私こそ足手まといだから……」
こうしてひとまずスレイブ様に案内をお願いすることになった。




