第一章 (7) エルザ様の事情
「・・・で、私が社交場に行っていないほかの理由は?許婚がいないのなら、お兄様にでも連れて行っていただいて、社交場に行くのではなくて?」
「はい。先程お話しいたしました通り、4人の方がエルザ様の許婚になられて、解消されました。最後の方は、とてもいいお屋敷のご子息でして、勉強はもちろん、性格もよく、女性からとても人気の高い方だったので、旦那様と奥様、当主様の相談の結果、この人で許嫁は最後にしようと思われたそうです」
「・・・でも、駄目だったのね?」
「はい。初めのうちはよかったのですが、一カ月もしないうちに許婚の方は私たち使用人に暴行・暴言を繰り返すようになり、また、そのお屋敷の当主様が桁違いの額を借金なさったことで、解消となりました。エルザ様が15歳の時の話です」
「・・・しょうもない」
「仰る通りです。旦那様、奥様はエルザ様の本家からの隔離を命じられました」
「どうして?」
確かにこの家にはいないと思っていたのよ、父も母も。
・・・なぜか寂しいとも、会いたいとも思わなかったけど。
「許婚様方は大体、この家を馬鹿にする、または乗っ取る計画を立てていました。そして、エルザ様の許嫁になることがこの家に入り込むことのできるチャンスだったわけです」
「お兄様の許婚になればいいのでは?」
「いえ、ご当主様は許婚を決めていません」
「・・・どうして?」
「後継者の許婚になるということは、家の存続に直接関係します。なので、争いが多くなり、過去には実際にその争いに巻き込まれ、後継者が亡くなってしまうことがあったのです。それからは、後継者の許婚は決めないことが多いです」
「なるほど。で、話を戻すわ。私はどうして本家から隔離されたの?」
「エルザ様の許婚を決めることをやめるにあたり、本家にいると来客が多いことなどもあり、エルザ様の過去の許婚様が来られる可能性も十分にあります。なので、ご当主様に当主という経験をさせるということもできるので、ここでの生活になりました」
「なるほど、だから私は社交場に行っていないと」
「はい」
・・・私のこと、ちょっとはわかった。
みんな、私を利用しようとした。
だから、ここにいる。
父も母も私を守ってくれた。もしかしたら、家を守りたかっただけかもしれないけど。
「結構お話ししてしまいましたね。そろそろ、夕食です。リビングルームへ行きましょう」
「ええ」