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第五章(16) 律のお母さんが律に伝えたかったことを伝えるために  

「ここ、サヤの部屋だよな。入っていいの?」

「いいの。」

私はノックをして、サヤの部屋に入った。

律も、少しためらいがちに入ってきた。


「柚紀はサヤの部屋、入ったことある?」

「ない。」


実は私も部屋に入るのは始めてだ。

女中だって、一人の人間。プライバシーはあって当然。

まあ、ここが本部なこと以外は、あくまでも普通。


「えっと、タンス・・・」

「タンス?」

そう。私はタンスを探していた。

タンスと言われたのは良いものの、棚はいくつもあって、どれがタンスなのかがわからなかった。

「タンスを左にって言ってたでしょ?」

「確かに。タンスだったら、これだよ。他のはタンスっていうよりも棚だから。」

律はタンスの場所を教えてくれた。

「じゃあ、このタンスを左にずらして。」

「・・・・うん」

本当にタンスの裏に隠し扉があるのだろうか?


「柚紀、これ。」

律が指さしていた方を見ると、パスワードを打つボードが端についている重そうな扉があった。


「よかった・・・」

「これ、なに?僕、ヤバいもの見つけた?」

「違うよ。この先が、律のお母さんがいる場所だよ。」

「この先?」

「そう。この先に、本部があるの。私たちに指示を出していた部屋。」

「何で、そんなこと柚紀が知ってるの?」

「今日の一番初めに言ってたでしょ?」

律はそのあと少し考えてから、

「言ってたような気がする。」

と言った。


「でも、パスワード、知らないから、入れないよな。」

「・・・考えたら、入れるよ。」

「え?パスワード、考えるの?」

「うん。」

「柚紀は知ってる?」

「知ってる。」


戦いが始まる前に、律のお母さんが、私にだけ教えてくれた。

だから、私は知っている。


「なら、考えなくても入れるじゃん。」

「でも、考えることが大事なんだよ。少しでいいから、考えてみて。数字だから。」

そう言われた律は、なんというか不服そうだったけど、考え始めた。


私にできることは、律に考えてもらう事だけ。

考えて、わからないって言われたら、ヒントを出してあげよう。


律のお母さんは、律に、伝えたいはずだから。

でも、直接は伝えられないから、私に話してくれた。

まあ、あれはたまたまだったけど。

それがわかっている私にだけ、パスワードを教えてくれたのだと思った。

だから、私は、律のお母さんが律に伝えたかったことを伝えるために、律に考えてもらっている。

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