第一章 (5) 料理長 メイスン
『なんでかわかんないけど、私は生きたいなんて言ってないよ』
『でも、それでも、あなたに、幸せになってほしい』
『そんなの、あなたの願いじゃない!私は今、記憶なくて、自分がなぜか怖いって思う単語があって、どうしていいのかわからないのよ!』
『大丈夫。もうすぐ、助けが来るよ』
「・・・エルザ様、昼食の時間です。いかがされますか?」
その声で目が覚めた。
・・・また、夢であの少女に会った。
私に、幸せになって欲しいって、言っていた。
「エルザ様?」
そっか、昼食の話だった。
どうしようかな?
「パン、ある?」
「はい。いつもは」
「なら行くわ」
「わかりました」
私はリビングルームに行く。
昼食はパンとスープだった。
ほんとに私、これしか食べないと思われてるんだ・・・
「国民と神に感謝します」
パンとスープは朝食同様、とてもおいしかった。
「エルザ様、今日の朝食のスープ、お口に合ったようで何よりです」
昼食をちょうど食べ終わったとき、そう声をかけられた。知らない人だった。
「私、この家で料理長をしてます、メイスンといいます。いつもはエルザ様と直接接点はないため自己紹介が必要かと思いまして」
「ええ、ありがとう」
自己紹介なかったら、今なんて誰かわかんないし。
「私からしたら、すべての料理に手を付けて頂けただけたでも、嬉しいです」
「・・・今まで申し訳ございませんでした」
ほんとに申し訳ない。
美味しい料理が多かったのに、今まで食べてなかったことが、今は、とても惜しく思える。
「エルザ様、謝らないでください」
「昼食もおいしかった。夕食も、楽しみにしてるわ」
「はい!また、何かお食事にご要望がありましたら、何なりとお申し付けください」
「わかったわ。ありがとう」
私は、部屋へ戻る。
「サヤ」
「はい」
「メイスンさんは、私と直接接点がないと言っていたけど、どうして?」
「はい。エレナ様のお食事はパンの調達とスープを作ることに力が入っておりまして。他のものは、いつも食べられておられないので、ご当主様の好みのものになっておりました。また、メイスンさんも、なかなか接しにくかったのではないのでしょうか?」
「・・・そうだったの」
「ですが、メイスンさんがあのように優しそうな顔をなさっているのは始めてみました。もともと、優しい人なのですが、顔は少し強面ですので」
「まあ、そうね」
「何でも、言ってみるといいと思います。たくさん、食べれるもの、食べたほうがいいですから」
「そうね」
メイスンさんは、いい人だ。
直感でそう思った。
顔は少し怖いけど、優しさが伝わる声だった。
この人の料理、もっと食べてみたい、そう思った。