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素直になれない者より

作者: 唄


 初投稿です。

 至らない部分も多いと思いますが、読んで頂けると嬉しいです。

 評価やブックマークよろしくお願いします。







 社交ダンスという場において、身分と名のつく壁は大きくて分厚い。


 ほら、あそこにいるご貴族様だって友人の側から離れようとしない。個で生きるよりも集団でいることを好んでる。

 

 集団でいる方が悪いことをしやすい。

 複数で行動すれば浮くことがない。


 そう、集団でいることが普通なのだ。

 それなのにあのご令嬢ったら、、、ガチガチに固まっている。

 緊張して、黙り込んでいるのだ。

 ハーッ、とため息がでる。

 


 、、、ふぅ、どうしたものか。

 

 関わるつもりはなかったんだけど、このままだとあの子はパーティーを楽しめずに帰ることになる。


 パーティーも人生も楽しまないと意味がないのに。


 

  




 荒れた土地で毎日生きるのがやっとな生活をしていた。


 親はいなかった。それは、よくあることで2人に1人の子供は親ナシだったんだ。


 だけど、生まれた時から親がいなかったわけじゃない。

幼い頃は、家族4人暮らしで幸せな毎日を送っていた。


 

 、、、先帝が亡くなってから全てが狂う。

 次代は浪費家で国庫が尽きたから戦争を始めた。

 父も、母も、弟も犠牲になった頃、皇帝は腹心に裏切られた。

 全てはもう遅い。

 


 次にいけなかったのは貴族。

 平民から名誉を奪った。人の功績を吸い上げていく。

 さも、自分がやったかのように行う。

 2番目に嫌いだった。



 でも、侯爵に助けられて自分の愚かさを呪った。

 貴族を恨んできたけど、仕打ちを受けてきたのは家族と友達だ。ただの逆恨みだったのだ。

 こんなのちっぽけな子供遊び。


 次に親代わりを努めようという侯爵に何の抵抗もできなかった。

 侯爵は整った容姿と身体能力の高さを買うと言った。




—- 10年かけて暗殺者へと育てられた。


 変なこと続きの日々だった。

 服が前より綺麗になって、決まった時間になると食事が出てくる、恵まれた生活。

 恵まれてると感じるたびに思うこと。

 1つ下の弟は、俺と顔が似ていて、頭も良くて、運動神経が抜群だった。

 ここにいるべきなのは弟だったのかもしれない。


 苦労もせずに生き残ってしまった。罪悪感。


 不安が残ったまま迎えた初仕事は、領主邸宅の調査。

 情が湧いてしまった侯爵は、この仕事で成功したら養子を組みたいと言った。

 —が、断る。

 

 ちゃんと自分の力で生きて行かなければならなかった。


 どんなに情けをかけてくれたとしても侯爵や侯爵夫人、彼らとは本当の家族にはなれない。

 っ、だって貴族だから。ここで抗わないと自分を見失ってしまう気がした。

 

 

 





 とある領主の邸宅内は使用人が少ない。

 横領疑惑がかかっているバックート領主。


 綺麗なまでに証拠が出ず、贅沢品も見つからない。金庫もあるにはあるんだが、中身は空っぽだ。

 

 この資料もあの資料も数字におかしな点はない。


 一旦、来た道を戻ろうとしたら、誰かに服の裾をつままれた。

 小さな手だった。


 「お兄ちゃん探し物〜?手伝ってあげるよ!」


屋根裏の通路には俺より小さな女の子がいた。

 えっ、何でこんなところに!?


 女の子は、「こっちだよ〜」と言いながら手を引っ張った。手に力が入っているがビクビクと震えを刻むこの子は、俺が危ない人なんだって気づいているんだと思う。

 そんな女の子になんとなくついて行く。

 

 向かった先は、可愛らしい女の子の部屋だった。

 高そうなアクセサリーに横領の証拠が保管されていた。


 そうか、こういうところに隠されてるんだ。

 まだまだなんだ。

 習ったことを実践に活かせないようではダメだ。

 

 もっと努力しないと。


 「またね、お兄ちゃん!」

ゆるくてフワフワした不思議な女の子。

 「君は、誰?」

なんか温かくて可愛いらしい子。


 「ロゼル・バックート。パパの娘だよ〜」

  パパの娘?バックートって領主の娘!?

 自分の父親が不利になることどうしてばらしたの?


 「お兄ちゃん、ちゃんと資料は読んだ〜?

  悪いことをしたのはパパじゃない。パパの弟よ。

  ここに隠したのだって、その人なんだから!」


 何かを庇おうとしている?

 確かに領主の弟、ハント補佐が横領の犯人である可能性が高かった。 

 調査に来てみても、俺は自力でなんの証拠も得られない。

 だが、事前調査はしっかりと行ってた。


、、、俺は貴族が嫌いだ。

 だから事実だけを報告する。

 嘘を吐きたくない。


 だけど、領主とこのロゼルという女の子を守るくらいなら出来るかもしれない。

 これはエコ贔屓だろう。


 ロゼルが気になるから。守りたいと思ったから。


 本当に守りたいのなら俺自身が力を得る必要がある。

 


 もっと強くなりたい。

  

  


ーーーそれから5年後。


 裏業界では、フラン・アイラートという21歳の若手が名を馳せていた。特徴はクリーム色の明るい髪、金瞳で垂れ目の男だという。

 目を合わせると女性はすぐに虜になってしまうそうだ。


 そんなフランに寄せられた新規の依頼。


 それは、大規模なパーティーで集まったご令嬢やご子息の護衛だった。


 護衛という俺にとってはさほど難しくない依頼でも手を抜こうとはしない。特に今回の依頼は重要だ。ロゼル・バックートも出席するパーティーなのだ。

 ウェイトレスの姿で会場に紛れ込んだ。


 仕事中でも周りから浮いたロゼルが気になり横目で見ていた。

 

 5年ぶりに会ったあの子はもう大人で雰囲気が違った。

 裏の仕事をしている俺に堂々と話しかけてきたくせに、今は生まれたての子鹿のようにビクビクしている。いや、あの時も震えていた。

  


 おっ、ロゼルがリーダー格っぽい縦ロールな髪の女の子に話しかけられた!


 、、、えっとロゼル?無視はいけないんじゃないかな。 

 相手側の子は涙を流して、走り去っていったよ。


 あ〜、せっかくのチャンスが〜。


 じゃあ、俺が代わりに話しかけてみる?

 勤務中なんだよな。 


 いけない。仕事には私情を持ち込まない。公私混同はダメ。

 でもウェイトレスとしてなら。ちょうどロゼルがお菓子を口に運んで皿の中身が減ってきた。

 

 「皿、お下げします。次のを持ってくるので少々お待ち

  下さい」

 ぼっとこちらを眺めるものだから何か次の話題を作ろうと思った。

  

 「何か好きな食べ物やリクエストがあれば言って

   ください」


 「あれ〜?も、もしかしてお兄ちゃん」


 、、、覚えててくれたの?

 あの時君は10歳だった。5年前のことなんててっきり覚えてないかと思っていた。

 

 「あ、あのね、私の家は潰れなかった。ハント補佐だけ

  があの屋敷からいなくなった」


 そうだね、君は貴族だ。

 やっぱり必要以上に関わるもんじゃない。

 これは仕事の一環で話しかけただけだから、俺のことだって無視してくれればよかった。


 でもなんか君と話していると温かくてさ。

 この仕事受けてよかったって思うんだ。


 「私、お兄ちゃんが助けてくれたの知ってるよ。

  ねぇ、この間はお兄ちゃんが家に来たから、

 今度は私がお兄ちゃんの家に遊びに行ってもいい〜?」


 「うん」

 思わず頷いてしまった。


 「あ、やっぱりダメ」


 でも自分の心には抗うのはもうやめよう。


 「気持ちの整理ができたら、俺が迎えに行くよ」

 

 彼女にだけ聞こえる小さな声で言った。

 






 









 最後まで読んで下さりありがとうございます。 

 またお会いできることを楽しみに待ってます!

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