監視Ⅱ
「へぇ、その子が例の彼女か……想像してたよりも数段美人だな」
「ええと……?」
突然の軽口に、霞が戸惑った様子で俺を見上げる。家を訪れているのは、学友であり、情報屋でもある孝祐だ。
「初対面でいきなり困らせるなよ」
「そうかい? 褒め言葉くらいは許してほしいねぇ」
捉えどころのない笑顔のまま、彼は霞に視線を戻す。
「それに、前から彼女の話は聞いてたからな。初対面という気がしない」
「それって……ひょっとして、昔の私のことですか?」
孝祐の言葉を受けて、霞は気まずそうに問いかけた。その表情を眺めていた孝祐は面白そうに呟く。
「なるほど。記憶を失っているなら、そういう表現になるわけか」
以前の彼女のことを知っている孝祐は、記憶の封印についても疑念が残っているようだった。彼には術の構造を認識する能力はないため、それも仕方のないことだろう。
「それじゃ、自己紹介しておこうかね」
そう前置くと、孝祐はわざとらしくジャケットを羽織り直した。
「初めまして、綺麗なお嬢さん。俺は宮原孝祐。京弥の友人で、フリーの情報屋をしてる。何かあれば頼ってくれ」
「情報屋さん、ですか?」
珍しい職名に霞が反応する。まあ、情報屋なんて名乗る人間はそういないからな。まだしも探偵のほうがメジャーだろう。
「こっちの世界では有名な情報屋だ。俺もよく世話になってる」
そう補足すると、霞は興味深そうに孝祐を見つめた。
「あの、それなら私の身元も分かりますか?」
「名前が分かれば、それなりに調べられるが……姓は不明だし、『霞』という名前も仮称だろう? もう少し情報がほしいところだなぁ」
孝祐は茶化すように答えてから、思いついたように言葉を足す。
「というか、霞ちゃんを陰陽寮の人間だって指摘した客がいたんだろう? そっちを当たっちゃどうだ?」
「それが、あまり顔を覚えてないんだよな……あの時は彼女が露骨に動揺していたから、それ以上疑う必要もなかったし」
俺は溜息をともに首を横に振った。うちの工房を訪れるのは常連ばかりではない。妖力が安定している人であれば、数年に一度しか来ないことだって珍しくないのだ。
「まあ、霞の素性については、桑名さん経由で陰陽寮に問い合わせているからな。じきに分かるさ」
霞のほうを向いて、フォローするように告げる。そして、俺は孝祐に向き直った。
「それで? 敵の情報は出てきたか?」
孝祐がここにいるのは、霞を狙っている術師の情報を俺に提供するためだ。だが、彼は問いに答える前にじろじろと俺を眺めていた。
「なんだよ」
「敵ねぇ……。お前、だいぶ霞ちゃんに肩入れしてるな」
「俺も襲われたり、式神を工房に放たれたりしたからな。敵だろう」
俺がそう答えると、孝祐はわざとらしく肩をすくめた。
「ま、いいか。それより術師の情報だが――」
リビングの椅子に腰かけて、彼は数枚の書類を机に置いた。そのうちの一枚を手にすると、俺に手渡してくる
「京弥は顔を見たんだろう? こいつで間違いないか?」
「ああ。こいつだ」
そこには、見覚えのある顔をした男の写真が載っていた。昨日、店舗にやってきた男だ。
「佐原亮吾。元は首都圏で活動していた陰陽術師だが、人目を気にしないやり方のせいで、陰陽寮と折り合いが悪くなったようだな」
「それでこっちへ流れてきたのか。バックは付いているのか?」
そこが、俺が一番気にしていた部分だった。相手が組織立っているのであれば、こちらも対応を考える必要がある。
「組織に所属しているという情報はない。首都圏にいた頃から、野良陰陽師として色々と請け負っていたらしい」
「フリーか。対応はしやすいが、依頼主を辿るのは難しいな。陰陽師としての技量は?」
「戦闘評価はAマイナス。相当な手練れだ。もともと、そっち系の依頼で名が売れた男だしな」
「そうか……」
それはあまり嬉しくない情報だった。相手はかなり優秀な術師らしい。孝祐いわく、俺の戦闘評価はBらしいので、格上ということになる。ということは――。
「まあ、なんとかなるだろう。孝祐、準備を手伝ってもらうぞ」
「はいよ。お前がいなくなると困るからな。友情価格で請け負ってやるさ」
「具体的には?」
問いかけると、孝祐はこちらを見てニヤリと笑った。
「二割増しだな」
「増えるのかよ!」
そんな賑やかなやり取りを交えて、俺たちは計画を練るのだった。
◆◆◆
「日野さん。今のお話って、その……危険ですよね?」
綿密な打ち合わせを終えて、孝祐が帰った後のリビング。そこで、俺は心配そうな顔をした霞に呼び止められていた。
「絶対に安全とは言えないが、リスクは抑えてある」
そう答えると、彼女の瞳に翳りが生まれた。危険があることを否定しなかったからだろう。
「私のせいで危険な目に遭わせてしまって、本当にすみません」
霞は深々と頭を下げる。そして、顔を上げた彼女は一歩踏み出した。
「あの、日野さんがもっと安全でいられる作戦はありませんか? もし、私を気遣って解決を急いでいるのなら――」
「その気持ちだけ貰っておくよ」
そうして何度か問答をするが、霞が納得する様子はなかった。そこで、俺は正直なところを口にすることにした。
「霞のため、というだけじゃないんだ」
「え?」
「昨日の夕方あたりから、奴の放った式神が執拗に工房へ侵入しようとしている。今日なんかは、侵入どころか結界を破壊しようとしていた」
霞を不安にさせるだけだと思って、黙っていた事実を告白する。予想通り、彼女は大きなショックを受けたようだった。
「そんな……!?」
「もちろん、式神程度に壊されるような結界じゃない。だが、相手の行動は次第にエスカレートしてきている」
動かす式神も強力なものになってきているし、一般人に対して隠匿するための術式もどんどん適当になってきている。それだけリソースを強さに振り分けているのだろう。
「それでも、奴の目的が俺たちや工房ならいいんだ。心配なのは――」
「美幸さん、ですね。それに宮原さんも」
「ああ。こうも簡単にエスカレートしていくような奴だ。家に出入りしていた二人を狙うのも時間の問題だろう」
意外と察しのいい霞に驚くが、今はそれがありがたい。
「それに、いつかは焦れて本人が攻め込んでくるだろうからな。相手が万全の準備を整えるまで待っているなんて、それこそ自殺行為だ」
「それで、こちらから仕掛けるんですね」
霞は納得したようだった。自分だけではなく、美幸たちにも危険が及ぶと聞いたことで、優先順位が上がったのだろう。
そう考えていると、霞は生真面目な表情で俺を見つめる。
「せめて、私にできることはありませんか? そもそもの発端は私ですし、囮でもなんでもやりますから」
「気持ちは嬉しいが、戦闘は一人のほうが身軽だ」
「……」
言外に足手まといだと言われているのが分かったようで、彼女はしょんぼりと一歩下がる。なんだか罪悪感が湧くが、こればかりは譲れない。
「大丈夫だ。作戦が上手くいかなかった場合は、本人と対峙する前に撤退するから」
「分かりました。私のせいなのに、色々と我儘を言ってすみませんでした」
「気にしてないさ。心配してくれたんだろう? それくらいは分かる」
「……はい」
彼女は小さく返事をすると、不安を宿した瞳で俺を見つめた。
「どうか、ご無事で――」
◆◆◆
店の定休日である水曜日の昼過ぎ。俺は乗用車を運転して、とある目的地へ向かっていた。長めの赤信号に捕まったタイミングで、運転席から魔力探知を行う。
「やっぱり付いてきたな」
姿を消して追いかけてくる式神を認識して、俺はわざと助手席に話しかける。そこには、長い黒髪が特徴的な女性……のマネキンが設置されていた。
シートベルトを装着したマネキンを助手席に乗せてドライブする。なかなか倒錯的な光景だが、認識を阻害する魔術のおかげで、周囲にはそうは見えていない。
すりガラス越しに、なんとなく輪郭が分かる程度に留めてあるため、傍から見れば男女二人で出掛けているように見えるはずだ。
「到着、と」
さらに十五分ほど車を走らせると、俺は目的地の山へ辿り着いた。あまり標高が高いわけではないが、この辺りでは最も近く、俺にも馴染みのある場所だ。定休日にはよく素材の採取に訪れるため、道に迷うことはなかった。
平日ということもあり、周りに人影はない。知る人ぞ知る入り組んだ場所であることもあって、まず近付こうとする人間はいないはずだ。
「さて……」
車を降りると、いかにも自然を満喫しにきたという風情で大きく伸びをする。認識阻害の結界は車内のみを対象としているため、佐原とかいう陰陽師には、俺の姿がはっきり見えていることだろう。
「霞、大丈夫か? 車に酔ったのか?」
そして、車のドアを軽く開けて中のマネキンに話しかける。術師に声が届いているとは思えないが、念のためだ。
できれば彼女を巻き込みたくないため、大雑把な囮ではあるが……まあ、空振りに終わってもこちらに損はない。そんなノリだった。
……と。そうしてどれほど自然を堪能していただろうか。茂みの間を縫うように飛んできた呪怨の波動を、俺は魔法障壁で弾き飛ばした。立て続けに放たれた攻撃魔術も、俺の障壁を貫通するほどではない。
そして相手の次の出方を窺っていると、がさりと近くの茂みが揺れた。
「――意外としぶといな」
そんな声とともに現れたのは、ジーンズに革ジャンというラフな格好をした男だった。佐原亮吾。陰陽術師らしくはないが、その顔は孝祐から見せてもらった写真の通りだ。
「っ!」
背後に回り込んでいた鬼型の式神を魔力の弾丸で撃ち抜くと、俺は男を睨みつけた。すると、奴もまた俺を睨み返してくる。
「一応、交渉してやろう。……後ろの女を引き渡せ。目的はお前じゃない」
「その割に、容赦なく攻撃を浴びせてくれたようだが」
「お前がいなくなれば、後は無力な女一人だ。どうとでもなる」
そう告げて男は薄く笑った。その笑みが癇に障るが、ここで冷静さを欠くわけにはいかない。
「依頼人は誰だ?」
俺は直球でそう問いかける。その質問を受けて、彼はニヤリと笑った。
「俺の素性を突き止めたか。引きこもりの西洋術師のわりにマメじゃねえか。なら――」
佐原は笑みを深めると、一気に間合いを詰めてきた。その手に持っているのはピック状の暗器だ。
「俺の得意分野も知ってるよな!」
迫る敵に対して、俺は反射的に魔法障壁を展開する。だが――。
「弱ぇ!」
男が暗器を突き刺せば、障壁はあっさりと砕け散った。ただの武器ではなく、なんらかの術を込めているのだろう。
だが、俺もただ突っ立っていたわけではない。障壁が破壊された時には、すでに後方に飛び退いている。
「重力場」
「ちっ!」
俺の術の兆候を感じ取ったのだろう。男はとっさに跳び退いた。直前まで彼がいた地面が陥没し、浅いクレーターを作りあげる。
「!? ここまで戦闘力が高いはずは……」
そのクレーターに視線を向けた男は、訝しむようにぼそりと呟いた。向こうも俺のことを調べていたらしい。そして――。
「来い!」
男は懐から一枚の札を取り出した。おそらくは召喚符だろうが、かなりの魔力を感じる。相当格の高い式神を使役するつもりなのだろう。だが……。
「なぜだ!?」
初めて男が狼狽する。召喚符が機能しなかったからだ。その後も第二弾、第三弾の召喚符を取り出すが、まともに効力を発揮したものは一枚もなかった。
「まさか……!」
そして、男ははっとした様子で俺を睨みつけた。どうやら、ようやく自分の置かれた状況に気付いたらしい。
「錬金術師は戦闘に不向きだからな。下準備は怠らないさ」
相手の魔力を減衰させる複数の魔法陣や、術の集中を妨げる呪符。それらが佐原の力を弱めていたのだ。
さらに言えば、霊脈の真上に陣取っている乗用車は俺へ魔力を供給するための結界装置を兼ねているし、他にも俺を補助する仕掛けが複数起動している。
監視されている俺の代わりに、この難しい作業を成功させてくれた孝祐には、本当に感謝しかない。そして――。
「錬成陣、起動」
俺がここに来てから、少しずつ準備していた魔術が完成する。それは、数日前から孝祐に下準備をさせていた仕掛けの一つでもあった。
「!」
直径は二十メートルほどだろうか。俺たちを中心にして、青白色の光が錬成用の魔法陣を描く。そのことに気付いた男の顔が驚愕に染まった。
「――魔力消去」
次の瞬間、相手の魔力が根こそぎ消滅する。この場を錬金術工房、相手を錬成対象になぞらえて、無理やり錬金術を行使する俺の切り札だ。
入念な下準備と相手の迂闊さが必要であるため、必ず使えるわけではないが……成功すれば効果は絶大だった。
「くそっ!」
魔力を失った男は、錬成陣から逃れようと駆け出した。だが、その途中で突然地面に倒れ込む。
「な――!?」
転倒した理由を把握した彼は、再び驚愕の声を上げた。自分の膝から下の部位が岩に置換されていたからだ。あり得ない事態に、その顔面が蒼白になる。
「……さて。色々と教えてもらおうか」
陰陽術を使うどころか、立つことさえできない相手を前にして、俺は淡々と問いかける。
「なぜ霞を狙った? 記憶を封印しただけでは飽き足らなかったのか?」
「はっ、知るかよ」
青ざめながらも、佐原はふてぶてしく笑うだけだった。立つことは諦めたようで、岩になった両足を投げ出して上半身を起こしている。
「その様子だと、依頼人の話も?」
「当たり前だ。口は固い方でなァ」
挑発的に答えて、男は唾を吐いた。こちらを怒らせて、なんとか隙を見つけようという算段だろうか。
「残念だが、お前の意思は関係ない。錬金術師が自白剤の一つも作れないと思うか?」
「っ!」
それは盲点だったのか、佐原の顔が少し歪んだ。
「お前があの封印を仕掛けたとは思えないが……知っていることを教えてもらう」
そして、用意していた自白剤を取り出そうとした時だった。少し離れた場所で凄まじい妖力が吹き上がった。
「なんだ……!?」
距離にして五十メートルほどだろうか。妖力源の方向に目を向ければ、揺らめく炎の巨人……いや、巨大な炎鬼がそこに屹立していた。全長は五メートル近いだろうか。もし見た目通りの火力を持っているのであれば、山火事という大惨事を招きかねない。
「けっ、吠え面かいてろ」
驚く俺とは対照的に、佐原はふてぶてしい顔で笑う。魔力を失った身でどうやって――そう訝しんだ俺は、彼の手元に視線を向ける。そこにはリモコンのようなものが握られていた。
「……魔力を封じられた時用の保険か、それとも不意打ち用か。気が回るな」
おそらく事前に魔力を込めておいて、リモコン一つで式神を召喚できる仕掛けを作ったのだろう。それはつまり、物理的な干渉だけで陰陽術を起動できるという代物であり、誤作動する可能性もあるということだ。
「なるほどな……陰陽寮が追い払おうとするわけだ」
個人的にはわだかまりがある陰陽寮だが、やっていることは警察に近い。こっち側の世界の治安維持を担っている以上、こいつのような存在は認められないだろう。
「なんとでも言え。それよりもどうする気だ? お得意の錬金術であの炎鬼を消火してみるか?」
「その隙に逃げ出す気か? 今この錬成陣を解けば、お前の足は一生そのままだが」
その言葉は脅しではない。錬成陣は様々な可能性を併存させる特殊な空間だ。それを解けば、岩でできた足は現実のものとなる。
それだけではない。ただ単に構成要素を岩に置き換えただけである以上、その両足は切断されたことと同義だ。大惨事になることは想像に難くなかった。
「それが嫌なら、アレを引っ込めることだな」
そう告げる俺に対して、男は自嘲気味に唇を吊り上げた。
「……できると思うか?」
「なに?」
聞き返してから気付く。佐原の魔力を奪ったのは俺だ。彼があの炎鬼に干渉できるはずがない。
「ちっ――」
俺は逡巡する。このまま手をこまねいていれば、確実に山火事が起きるだろう。それに、あの炎鬼が人目に触れれば何かとややこしい話になる。
かと言って、この状態で錬成陣を解いてしまえば、俺は殺人事件もしくは傷害事件の犯人として追い回される可能性もあった。警察はともかく、陰陽寮はこの手の事件に厳しいからだ。
「……」
どうする。炎鬼の熱気を感じながら自問自答する。今回を逃せばこの男は慎重になり、同じ手を食うことはないだろう。そうなれば、次に追い詰められるのは俺のほうだ。
「いっそ、本物の岩人間にするか」
要は膝の部分で血管や筋肉を繋いで、血流が巡るようにすればいいのだ。奇病として扱われるかもしれないが、そもそも佐原は日陰者に近い。わざわざ病院に行ったりはしないだろう。
「くそ……錬金術師なんてロクなもんじゃねぇな」
その反応は予想外だったのか、佐原は焦りとともに口を開く。俺としても気乗りはしないが、これが一番マシな選択肢ではないだろうか。
――と、そう判断した時だった。炎鬼の傍にもう一つ、強大な魔力を感知する。
「敵か? いや……」
茂みの奥で、かすかに見えたのは人間だった。呪符らしきものを炎鬼に放って動きを止めると、刀で一閃する。炎鬼が消滅したわけではないが、かなりのダメージを受けたことが見て取れた。
「……へえ」
俺は素直に感心する。あのレベルの式神を、一閃で追い込む技量は賞賛に値するだろう。もし俺が戦いを生業としていたなら嫉妬したかもしれない。それほどの高みだ。
「なんだと?」
逆に、佐原は呆然とした表情を浮かべていた。ひょっこり現れた人物が、おそらくは彼の切り札であろう炎鬼をあっさり負かしているのだ。それも無理はなかった。
「おや、終わったか」
炎鬼の妖力が感じられなくなるまでに、そう時間はかからなかった。そして……後には燃え移った木々が残される。その火勢はかなりのもので、対応が後手になれば大きな被害が出るだろう。
「まあ、そうなるよな……」
俺は一人でぼやくと、懐に忍ばせていた小瓶の中身を飲み干した。もしもの時に備えて準備していた、経口型の魔力増幅薬だ。
「意味消失」
そして、燃え広がる木々をすべて範囲に収めて、『燃焼』という事象を除去する。錬金術ではないが、俺がそこそこ得意としている魔術だ。まるで手品のように、赤く燃えていた木々が落ち着きを取り戻した。
「ふぅ……さすがに範囲が広いな」
俺はほっと一息ついた。錬成陣を転用すれば楽に片付いたのだが、佐原の件がある以上、自力で何とかするしかない。そう判断した上での行動だった。
「それじゃ……続きと行こう」
当初の目的を思い出した俺は、再び懐に手を入れた。やがて自白剤を探り当てると、その密閉容器を取り出して……。
「――失礼。今の異変の関係者とお見受けする」
だが、その行動は闖入者に妨げられた。臆することなく錬成陣へ踏み込んできたのは、先ほど圧倒的な実力で炎鬼を滅した男だった。