激突
俺たちが施設から出た時には、すでに激しい戦闘が繰り広げられていた。
近代的な装備に身を包んでいるのは、この施設の防衛部隊だろう。彼らは統制の取れた動きで迎撃を行っており、練度の高さを思わせた。
だが、殺到する銃弾も、繰り出される種々な魔術も、たった一人の少年の行く手を阻むことができない。その余裕を示すように、彼はゆったりとした足取りで施設へ向かってきていた。
「透……!」
霞が苦悩のにじんだ声を上げる。まだ数百メートルの距離があるため、その声が聞こえることはない。と――。
「――っ!?」
盛大な破壊音が轟き、応戦していた防衛部隊がまとめて吹き飛ばされる。さすがに死んではいないだろうが、戦線に復帰できるとは思えない。やはり、その戦闘力は圧倒的だった。
その様子を見て、俺と霞は同時に視線を合わせる。
「霞、いいか?」
「はい。お願いします」
彼女は凛々しく頷いた。その表情に臆している様子はない。密着する時にはさすがに身じろぎしたが、すぐに気を取り直したようだった。そして――。
「ちっ!」
俺は霞を抱えたまま横に跳んだ。その直後、白い雷が地面から立ち昇る。
「今のは――」
「たぶんルーカスだ。霞が妖力を発揮する前に仕留めるつもりだな」
どこまで彼女の妖力の秘密を把握しているのか分からないが、霞が危険だという認識はあるのだろう。透とは別方向にいる人影を睨みつけて、俺は魔法障壁を展開する。
殺到した光弾が次々に衝突したかと思えば、地面が隆起して俺たちを搦め取ろうとする。矢継ぎ早に繰り出される魔術はどれも高レベルで、霞に力を発揮させる余裕を与えないつもりだと知れた。
「くっ――」
ちらりと視線を向ければ、神山透はだいぶ接近していた。このままでは霞の妖力を引き出す前に接敵してしまうだろう。
どうすればいい。俺は打開策を考えながら、飛来する光線を交わそうとして――。
「遅れました!」
そんな声とともに現れた女性が、その光弾を弾き飛ばす。そして、その傍らにいた男性がお返しとばかりに炎の矢を山のように打ちこんだ。彼らの顔に見覚えがある気がして、俺は二人の顔をまじまじと見つめる。
「お二人ともどうして――!?」
霞が驚きの声を上げたことで、俺はようやく思い出した。見たことのある顔だと思ったら、神山家で遭遇した腕利きの護衛だ。彼らは息の合った動きで防御と攻撃をこなし、ルーカスの射線を見事に遮っていた。
今のうちだ。俺は体勢を整えて、再び霞の妖力を解放しようとする。だが――。
「邪魔っ!」
怒りのこもった声とともに、八岐大蛇の妖気が俺たちがいた空間をえぐる。身体強化の魔術のおかげでなんとか避けられたが、まともに受ければ致命傷は避けられないだろう。
「透、やめて!」
声が届く距離になったことで、霞が声を張り上げた。すると、それまで一切動じなかった透の動きが止まる。
「姉さん……? 記憶が……!?」
透はぽかんとした表情で霞を見つめる。その表情は十歳の少年に相応のものだった。
「透、突然いなくなってごめんね。もう、全部思い出したから」
そして、霞は十メートルほど離れた透に手を伸ばす。その表情は優しさに溢れていた。
「だから……一緒に帰ろう?」
「姉さん……」
先ほどまで暴れていたのが嘘のように、透はぽつんと立ち尽くす。その様子は、行き場をなくした子供のように見えた。だが……。
「じゃあ、こっちに来てよ」
「え――?」
そのお願いに、霞は戸惑った声を上げた。それはそうだろう。ここは戦場で、いつルーカスが隙を狙ってくるか分からない。一人ではほぼ妖力のない霞を単独行動させるわけにはいかなかった。
「それは……」
霞の表情が思い詰めたものになる。危険は分かっているが、ここで透を拒絶したくない。そんな思考の板挟みになっていることは明らかだった。
「それはできない。君はともかく、ルーカスは霞の命を狙っているんだ。彼を捕えた後なら、君の希望を叶えることはできる」
だから、俺は代わりに答える。本来なら口を出す場面ではないのだろうが、俺としてもここは譲れなかった。
「お前が――!」
そう告げた瞬間、透の妖力が膨れ上がった。この距離で霞を連れての回避は厳しいものがあったが、かろうじて一撃をかわす。
「卑怯者! 姉さんを盾にしやがってっ!」
透は忌々しそうに俺を睨みつける。幸いなことに、攻撃の軌道を読むことは容易だった。薙ぎ払うような攻撃は隣にいる霞を巻き込むし、上から叩きつけるにしても、彼女側はあり得ないからだ。
そうして霞のいるほうへ回避し続けていることが、彼女を盾にしていると言われればその通りだった。
「それなら……!」
何を思い付いたのか、透の妖力の動きが変わった。ゆっくりと束ねられたそれは、八体の大蛇の形に収束していく。その様子は、まさに八岐大蛇の名に相応しいものだった。
「まずいな……」
俺の背中を冷や汗が伝う。これまでの力任せの一撃とは異なり、八体の蛇が様々な角度から俺の隙を突こうとしていたからだ。じりじりと睨み合いが続き、次第に俺と大蛇の距離が縮まっていく。
その緊迫した状況の中、俺は大きく距離を取ろうとして――即座に霞と位置を入れ替える。
「ぐっ――!」
彼女を庇った肩口に激痛が走る。横から飛来した短剣が刺さったのだ。その方角からすると、ルーカスが霞を狙ったものだろう。
「京弥さん!?」
状況を把握した霞が悲鳴を上げる。だが、それに答えている余裕はなかった。俺の隙を伺っていた八体の大蛇が一斉に襲い掛かってきたのだ。
「ちっ!」
ただでさえ避けることが難しい攻撃に加えて、霞を抱えていた腕も上手く動かない。身体機能を底上げする錬成薬は服用済みだが、この攻撃に耐えられるとは思えなかった。
それなら、せめて霞だけでも助けたい。そう判断した俺は、彼女から離れるために正面へ駆け出した。上手くいけば、俺が死んでも透が霞を守るだろう。その可能性に賭けるしかなかった。
そして――凶悪な八体の大蛇と接触する直前。横合いから飛来した斬撃が、大蛇を弾き返した。
「日野殿、無事か」
「賀茂さん!? どうしてここに!?」
俺は驚愕とともにその名前を呼ぶ。今朝会った時には別の任務が入ったと言っていたが、まさかそれは……。
「施設を囲んでいたテロリストの殲滅に手間取った。面目ない」
謝りながら、賀茂は俺の背中に刺さった短剣を引き抜いた。再び激痛が走るが、刺さったままよりはマシだ。今のうちにと、俺は常備している錬成薬を肩に振りかける。
「霞殿は触らぬほうがいい。これは対妖怪専用の呪具だ」
引き抜いた短剣を見て、賀茂は露骨に表情を歪めた。それほどに凶悪な代物だったのだろう。霞に刺さらなくてよかったと、密かに胸をなでおろす。
「成明……! またお前かっ!」
「透殿。今ならまだごまかしが利く。霞殿も記憶が戻られたことだし、ルーカスと手を切ることをお薦めする」
賀茂は冷静な声で勧告するが、透が話に耳を傾ける様子はなかった。
「うるさいっ! お前なんかに僕らの気持ちが分かるか! どこまでも人間扱いされないことの辛さが!」
「それは、ひょっとしてルーカスが掲げている主張のことだろうか。もしそうだとすれば、それは欺瞞だ。彼は妖怪の殲滅以外に興味などない」
「何を――!」
怒りの咆哮とともに、再び透の妖気が増大する。賀茂は神器らしき刀を構えると、透を見据えたまま口を開いた。
「日野殿、霞殿。時間は稼ぐ。後は頼めるか?」
「分かった。こちらこそ頼む」
そう告げると、俺は急いで霞を引き寄せた。まだ痛む腕を動かして、彼女の胸に当てる。
「京弥さん……お願いします」
俺よりも早く、霞のほうが口を開いた。もう覚悟は決めたということだろう。
それならばと、俺は彼女の妖力の核に働きかけた。自分の魔力を彼女の妖力と同調させて、迅速に、だが確実に秘められた妖力を解放していく。
「っ!」
やがて、弟にも劣らない莫大な妖気が霞から立ち昇る。紅く輝いた彼女の瞳は、魔性の気配を色濃く宿していた。
「落ち着いて妖力を制御するんだ。霊草を調理するように、ゆっくり確実に」
俺は霞の右手に手を添える。以前の戦いで、霞は右手に妖力を収束させていた。それが彼女が一番扱いやすいイメージなのだろう。ひょっとすると、包丁のイメージなのかもしれない。
「はい……!」
気丈に返事をすると、霞は膨大な妖力をまとめ始める。今の霞が妖力をまともに使うのは初めてだ。それを考えると、大した精神力だと言えた。
「姉さん……? じゃあ……あれは、やっぱり……」
その一方で、透は呆然と姉の様子を見つめていた。そして、ふとその顔に笑みが浮かぶ。
「姉さん、すごいね! 僕と同じくらい妖力があるよ!」
「透……」
場違いなほどはしゃぐ透に対して、霞が見せた表情は複雑なものだった。もし同格の妖力を目にして戦う気が失せたのなら、それに越したことはない。
「それなら、僕たちでこの施設を壊してしまおうよ! ちゃんと僕らが評価される社会にするんだ」
「駄目よ。それじゃまた大虐殺が起きるだけ」
透の夢想に対して、霞はきっぱりと否定する。だが、彼の意思が揺らぐ様子はなかった。
「あの時は、僕らみたいな先祖返りがいなかったからだよ。僕らのような存在がちゃんといたら、あの大虐殺だってこっち側の勝利になってた」
「一時の勝敗は問題じゃないの。力で押し切ったところで、いつかそれを上回る別の力でねじ伏せられるだけだもの。それを警戒して、四六時中気が休まらない生活を送るつもりなの?」
「う――うるさい! どうして姉さんまでそんなことを言うんだよ!」
霞が味方をしてくれないことに焦れたのか、透は癇癪を起こしたように叫ぶ。そして、同時に八体の蛇が動いて――俺へと向かった。
「錬金術師! お前がっ!」
「京弥さん!」
姉弟の声が同時に響き、二人の妖力が激突した。神話を思わせる巨大な蛇の群れと、それを上から押し潰す一本の剣。両者の激突は激しい気流を生み出し、大地を震動させた。
そして――。
「嘘だ……」
七体の大蛇を失った透はがくりと膝をつく。神話級の妖力の激突は、霞に軍配が上がったようだった。透が冷静さを欠いていたこともあるだろうし、妖力を八つに分散させていたために、各個撃破されてしまったという側面があるのかもしれない。
透の妖気が尽きたとは思えないが、妖力の正面衝突で初めて負けたからだろうか。彼は完全に放心しているようだった。
「透、もうやめよう? 姉さんも一緒に謝るから」
ぴくりとも動かない透に、霞は再び呼びかける。たとえ瞳が紅く輝いていたとしても、彼女の優しい微笑みは変わらなかった。
「……うん」
やがて。放心した表情のまま、彼はぽつりと頷いた。その仕草は驚くほど素直で、こちらが呆気に取られるほどだった。
「よかった……」
弟の反応に、霞はほっと胸をなで下ろした。これで一件落着だと、俺も彼女の妖力解放を終えようとして――。
「気を付けろ! 透殿の様子がおかしい!」
そして、賀茂の警告に気を引き締める。どういう意味だと彼に問いかけようとした俺は、目の前の異変に気付いた。
「なんだ……木の根?」
がくりと膝をついていた神山透。その全身から、紫暗色の根のようなものがはみ出していたのだ。
「と、透!? 大丈夫!?」
その様子を見た霞が悲鳴を上げる。それも無理はない。放心状態だった透の表情は、いつの間にか「無」としか表現できないものに変わっていた。
「京弥さん、いったい何が……!?」
焦った表情で霞が問いかけてくる。
「詳細は分からないが、一つだけ言えることがある。透君の妖力がどこかへ流れている」
「え――」
霞が声を上げた瞬間だった。膝をついた透のすぐ横に、見知った姿が現れる。
「ルーカス!」
俺はその顔を睨みつけた。師匠のことを初めとして、この男の存在が諸悪の根源だとすら言える。そんな俺の思いを馬鹿にするように、彼はわざとらしく鼻を鳴らした。
「やれやれ。やはり京弥は神山に取り込まれたのだね。その女が陰陽寮の回し者だと、早い段階で教えてあげたというのに」
「それは残念だったな。師匠の仇と手を組むような馬鹿な真似をせずにすんで、心底ほっとしてるよ」
挑戦的に告げれば、彼は嘲るような笑みを浮かべた。
「まあ、君は充分役に立ってくれたよ。魔物の存在を認識させないための結界。その発生装置の場所を教えてくれただけでなく、結界まで緩めてくれたのだからね」
「……それで?」
「いやいや、師弟揃っていい道化だったよ。さすがウィリアムの弟子だ」
ルーカスは楽しそうに顔を歪める。だが、その言葉に俺が動揺することはなかった。
「道化はお互い様だろう。のこのこと誘き寄せられておいて、よく言えたものだな」
「……ほう?」
俺に言い返されたことが不愉快だったのか、ルーカスは剣呑な目つきで俺を見つめる。
「日本最強の陰陽師に、神山家の手練れの護衛。そして、神山透に匹敵する妖力を持つ霞。この面子ならお前を倒せるという判断だ」
俺は断言する。確証があるわけではないが、そうでなければこの状況に説明がつかない。透を取り戻してルーカスを仕留めるために、わざと情報をリークする一方で戦力を揃えた。そんなところだろう。
ルーカスはともかく、神山透と戦う義理は俺にはない。だが、霞と一緒に行動している以上は透を放っておくはずがない。神山当主はそう考えたのだ。
「ハッ、策士気取りかね」
ルーカスがそう告げた直後。彼を中心として、数十本の白い雷が荒れ狂った。その破壊力はこれまでの比ではなく、結界施設のほうからけたたましいサイレンが鳴り響く。
「これは――!」
この世の終わりのような光景に呆然とする。それほどまでに、今の攻撃は凄まじい威力を秘めていたのだ。霞が妖力を使って守ってくれていなければ、今頃俺は消し炭になっていただろう。
「ありがとう、助かった」
俺は礼を言って辺りを見回す。賀茂は無事のようだが、神山家の護衛二人は地面に倒れていた。心強い援軍が一瞬で減ったことに内心で歯噛みする。
「――さすがは日本最強の陰陽師と妖怪だ。今の魔術には自信を持っていたのだがね」
「透君の妖力を吸い上げておいて、よくそんな図々しいことが言えるな」
「え……?」
俺の言葉に霞は驚きの声を上げ、ルーカスはニヤリと笑う。
「何かおかしいかね? 妖怪の穢れた力を、せめて有効活用してやっているのだよ。ただ振り回すしかない妖力も、私の技術を通せばここまで芸術的になる」
「透君の身体に埋めたのは呪具か? 暴走状態にした上で、妖力を根こそぎ吸い取っているな」
それが、透を分析して得た結論だった。今の透はルーカスに妖力を供給するただのタンクになっている。そう簡単にできる呪法のはずはないから、透のルーカスに対する信頼を利用したのだろう。そう思うと、余計に怒りがこみ上げてくる。
「許せない――!」
そして、霞に至っては俺以上の怒りに駆られていた。初めて聞く彼女の怒声とともに、その天災級の妖力がルーカスへ叩きつけられる。霞の怒りで膨れ上がった妖力がすさまじい衝撃波を振りまき、粉塵を舞い上げた。
だが――。
「……え?」
霞は戸惑いの声を上げた。ルーカスが平然と彼女の攻撃を受け止めていたからだ。彼の周囲に展開された防御結界は、ビクともしていないようだった。
「いやいや、いい動作確認になったよ。本当は神山透を始末する時に披露するつもりだったのだがね」
そう告げるルーカスの言葉は、強がりには思えなかった。今の霞の一撃は地形を変えかねないレベルの威力だった。それを受けてなお、防御結界には綻び一つないのだから。
「どういうことだ……?」
このままでは一方的に攻撃されるだけだ。そう懸念したところへ、再び白雷の嵐が吹き荒れる。
「――!」
霞の妖力に守られたまま、俺は歯を食いしばって目の前の惨状を見つめる。今度も賀茂は耐えたようだが、神山の二人は姿が見えなかった。攻撃の前に避難したか、あるいは――。
「京弥さん、施設が……!」
霞が悲痛な声を上げる。そちらへ目をやれば、もはや廃墟としか言いようのない惨状が目に入った。
「師匠……!」
施設内に避難していた師匠の身を案じる。施設から強い魔力を感じるため、中枢部はまだ生きているのだろう。だが、これ以上の攻撃に耐えられるとは思えなかった。
あの白雷の嵐は連発が難しいようだが、次撃が来るのも時間の問題だと思われた。
「あの防御結界の仕組みが分かれば……!」
今も展開されているルーカスの結界を睨みつける。クセのある構成だが、そこに込められた魔力は決して人の域を超えるものではない。本来なら、その程度の魔力で霞の妖力に対抗できるはずはないのだ。
「――あれが『不沈』ルーカスの防御魔術か」
と、考察を重ねる俺に近寄る人影があった。賀茂成明だ。近くで見れば、彼も小さくないダメージを負っていることが分かる。
「賀茂さん、何か知っているのか?」
問いかければ、彼は苦い表情でルーカスへ視線を向けた。
「魔物狩りを主とするルーカスの切り札だ。対象となる魔物の魔力を解析することで、その種族にのみ極めて有効となる結界を作り上げているらしい」
「そんなことがあり得るのか……!?」
「確かな情報だ。属人的な技能で奴以外は再現できないこともあって、詳細はまったく不明だ」
賀茂は悔しそうに答える。打つ手なしということだろう。八岐大蛇の妖力を持たない彼なら結界は効かないだろうが、今のルーカスには透の妖力がある。まともに戦っても勝ち目はない。
……だが。
「そういうことなら、奴を倒す方法に心当たりがある」
「私に手伝えることは?」
賀茂は一瞬驚きを見せた後で、冷静に問いかけてくる。その切り替えの早さはさすがだった。
「さっきと一緒だ。時間を稼いでくれ」
「承知した。――来い!」
言うなり、賀茂は懐から何かの札を取り出した。印を結んで投げつければ、仁王像のような巨人が現れる。その威容と霊力は、まさに鬼神と呼ぶに相応しいものだった。
「京弥さん。私にできることはありますか?」
賀茂がルーカスに向かった直後、今度は霞が問いかけてくる。
「もちろんだ。というか、霞の協力が大前提だからな」
彼女に頷きを返して、俺は手短に説明を行う。
「やることはさっきと変わらない。霞の妖力を俺が引き出すから、ルーカスを倒してほしい」
「え? でも、それじゃ――」
戸惑う霞に、俺は静かに答えた。
「引き出すのは、八岐大蛇の力じゃない」




