神山Ⅳ
「日野様ですね。お待ちしておりました」
神山家が手配してくれたホテルは、やはりグレードが高かった。庶民の俺では居たたまれなくなるような立派なロビーを抜けて、なんとかチェックインを果たす。
入室した部屋は、一人で使うのが申し訳ないくらいに広々としていた。
『――で、さっそく連絡をくれたわけか』
『ああ。年の瀬に悪かったな』
『何を遠慮してるんだよ。むしろ、最新情報が聞けてありがたいくらいだ』
どうしても誰かと話をしたかった俺は、孝祐に電話をかけていた。今日あった出来事も、入手した膨大な情報も、一人で整理するにはあまりに重すぎたからだ。
『霞ちゃんの記憶喪失が、自分で望んだものだったなんてな。さすがに予想外だ』
『お前には色々調べてもらったからな……手間をかけた』
『それはいいが……それなら、霞ちゃんはもともとお前に惚れてたってことだろう? どこかで接点があったのか?』
『言われてみれば……』
孝祐の指摘はもっともだった。情報量が多すぎて流していたが、たしかに時系列としておかしい。神山家の『執着』だって、一目見ただけで発生するとは考えにくかった。
『さっぱり記憶にないな。明日、会ったら聞いてみるか』
『お前……霞ちゃんをフッておいて、それを聞けるのか?』
『……っ』
孝祐の指摘に言葉が詰まる。ふと、霞の涙に濡れた顔が脳裏に浮かんだ。
『悪い、デリカシーがなかった』
『いや……孝祐の言う通りだ。彼女を拒絶しておいて、それは無神経だった』
そして、話題は明日の話へと移る。
『まさか、ウィリアムの爺さんが生きてたなんてな』
『ああ。賀茂さんの話だと、ほぼ相討ちだったらしいが……』
『賀茂の現当主と言えば、かつては日本最強の一角に数えられていたはずだが……。ま、あの爺さんが簡単にくたばるワケないか』
『ああ。本当に良かった』
『まったく、心配させやがって……これまで連絡一つ寄越さなかったんだ。会ったら俺の分まで文句を言っておいてくれ』
『任せろ』
俺は明るく請け負う。これまでの経緯を思えば不安は大きいが、それでも前へ進むことはできるはずだった。
『しかし……神山の当主も酷なことをするな』
『なんの話だ?』
『霞ちゃんのことだよ。お前にしても彼女にしても、明日一緒に出掛けられるような心理状態じゃないだろう』
『あの時点では、俺たちの関係性も定まってなかったからな』
むしろ、後押ししようとしていた可能性もある。俺はそう考えていたが、孝祐は別の考えのようだった。
『お前を取り込むことを諦めてないのかもな。あまり悪い噂は聞かないが、陰陽四家の当主ともなれば、清廉潔白ではやっていけないだろう。
こんな年末に爺さんへの訪問を突っ込んできたあたり、何もないとは思いにくい』
『そうか……けどまあ、なんであれ師匠に会えることに違いはない。後はその場で考えるさ』
『そっか。ま、気を付けろよ。美幸も心配してた』
『分かった。後で軽く連絡しておく』
そんなやり取りを経て、俺は通話を終えた。そのままベッドの上に倒れ込むと、俺は天井を見るともなしに見つめる。
「どうしたものかな……」
師匠のこと。そして霞のこと。まとまらない思考は、いつまでも頭の中を回り続けていた。
◆◆◆
「京弥さん、おはようございます。よく眠れましたか?」
待ち合わせ場所にしたホテルのロビーへ向かうと、すでに到着していた霞が声を掛けてきた。暖かそうなベージュのロングコートの上にはマフラーがしっかり巻かれていて、いかにも彼女らしい。
「おはよう、霞。屋内なのに暑くないか?」
「ロビーは外気が入ってきますから、実は寒いんですよ」
俺が軽口を叩けば、彼女は笑顔で言葉を返してくる。昨日の言葉通りに気を遣ってくれているのだろうが、その笑顔はよそよそしいものだった。
「それじゃ、行きましょうか。車の中は暖かいですから」
だが、俺がそれを指摘するつもりはないし、指摘する資格もない。俺にできることは、普段通りに会話をすることだけだ。
「車の暖房を全開にしていそうだな」
「だって、コートを着て車を運転するのは窮屈ですし」
言葉を交わしながら、俺たちはエレベーターに乗って地下の駐車場へ向かう。その途中で、俺はふと知った人影を見た気がした。
「どうかしましたか?」
俺の様子に気付いたのだろう。霞が不思議そうに問いかけてくる。
「いや、賀茂さんを見かけたような……」
「え? 成明さんもホテルに泊まっていたんですか?」
「ああ。今朝、朝食時に出くわして驚いた。なんでも別件が入ったらしい」
俺は今朝の出来事を語る。神山家を出る際には先に帰ったと聞いていたのだが、こんなに早く再会するとは思わなかった。
「別件、ですか……?」
「ああ。それがどうかしたのか?」
考え込んでいる様子の霞に声を掛ける。
「成明さんは賀茂家の次期当主ですから、年始は儀式で忙しいはずなんです。だから、よっぽど急か、深刻な案件なのかなって」
そう言えば、神山家も三が日は儀式で忙しいと言っていたな。陰陽四家はどこもそういうものなのだろう。
そんなことを考えながら、俺は霞に先導されて駐車場の中を歩く。やがて彼女が足を止めたのは、霞が乗ってきた神山家の自動車だ。
これから行く施設は極秘扱いのため、神山家が事前に登録した車でしか入れないのだと言う。
「それじゃ、京弥さんは助手席に乗ってくださいね」
「あ、ああ」
「不思議そうな顔をして、どうしたんですか?」
「いや……霞が運転するというのが、どうにもピンと来なくて」
これまでは霞を助手席に乗せて、俺が運転するのが常だったからな。だが、あの霞が運転できなかったのは、身元が不明で免許証も持っていなかったからだ。もし運転席に座らせれば、普通に運転できたのかもしれない。
「ちゃんと運転できますよ? この辺りは車がないと不便ですから」
そんな俺の言葉を、霞は別の意味に捉えたらしい。わざわざ説明することもないし、どのみち目的地への道を知っているのは霞だ。彼女に運転してもらうほうが合理的だろう。
「それじゃ、出しますね」
言って、霞は慣れた手つきで車を操る。事前の申告通り、しっかり運転はできるようだった。
「高速道路に乗ってから二時間くらいかかります。休憩したくなったら言ってくださいね」
「分かった。よろしくな」
そうして、彼女の宣言通りに高速道路へ合流する。車内で二人きりであることに気まずさを覚えている反動か、霞は意外とよく喋った。
「――なるほど、神山家も大変なんだな」
「はい。京弥さんや成明さんのおかげで大事にはなりませんでしたけど、透が公になりかねない暴走ぶりを見せたことは事実ですから」
「そういうのって、他の陰陽四家から糾弾されるのか?」
興味本位で尋ねる。偏見かもしれないが、上流階級はそういったことが日常化しているイメージがあるからな。
「普段はそうですけど、ルーカスさんに唆された人は他の家にもいますから。もちろんあの子の暴走は大問題ですけど、うかつに突つけば自分に返ってくる家ばかりです」
「霞の記憶を封印した術師とかな」
「はい。井岡さんは安倍家の傍流です。それに、今回の件は英国が意図的にルーカスさんを送り込んできた、というのが陰陽寮の見解ですから」
「意図的にって……英国で何かあったのか?」
思わぬ方向に話が広がって、俺は首を傾げた。
「日本の妖怪の末裔や術師が力をつけてきて、こちら側で世界に冠たる英国の座を脅かすことを警戒したから、と言われています」
「日本の力を削ぐために過激派を送り込んできた……? なんて迷惑な」
思わず溜息をつく。それが本当だとしたらテロのようなものだ。
「本当に……ただ、却って陰陽四家の関係は良好になりました。それが不幸中の幸いでしょうか」
「共通の敵のおかげで結束する、というやつか。皮肉だな」
「それまでは、人間派閥の安倍・賀茂家と妖怪派閥の神山・天原家で対立することも珍しくありませんでしたからね。……当時のままなら、透の暴走はかなり厳しく追及されていたはずです」
そんな規模の大きな話を、彼女はまるで近所付き合いのようなノリで教えてくれる。その辺りはさすが神山家と言ったところか。
「そう言えば、京弥さんは透と会ったんですよね? その……あの子、私を見て何か反応していましたか?」
「何も言及はなかったな。ただ……透君が霞を拘束した時も、怪我をさせることはなかった」
俺は当時のことを思い出す。ひょっとして、あれは巻き込んで怪我をさせないよう保護したつもりだったのだろうか。そんな答えを聞いて、霞は複雑な表情を浮かべた。
「そうですか……」
「ん? そう考えると、せっかく霞と顔を合わせたのに、どうして透君は『姉さん』って呼ばなかったんだろうな」
そう尋ねると、彼女は少し悩んでから口を開いた。
「私の素性を京弥さんに知られたくなくて、ルーカスさんが言いくるめたんだと思います。もし神山家とパイプが繋がれば、京弥さんを仲間に引き込むことは難しくなりますから」
「そんなに簡単に言いくるめられるものか?」
「たとえば、協力の見返りに私の記憶の封印を解く、とかでしょうか。ルーカスさんが『自分なら解けるかもしれない』と言えば、透はそれにすがると思います。あの子は力は強いですけど、術のような複雑なものは苦手ですから」
「なるほどな……」
思わず溜息をつきそうになる。まったく、人間不信になってしまいそうな話だ。
「京弥さん、次のサービスエリアで休憩しませんか?」
と、俺がどす黒い話にげんなりしていることを気遣ったのか、霞が休憩を提案してくる。標識を見る感じでは、かなり大きなサービスエリアのようだった。
「ああ、そうしよう。霞も疲れただろうし」
「ありがとうございます。まだ大丈夫ですよ?」
そんな会話を交わしながら、俺たちを乗せた車はサービスエリアへ向かっていった。
◆◆◆
「――すみません……私が紛らわしい感じにしちゃって」
「いや、俺が悪かったんだ」
サービスエリアの隅にある公園で、俺たちは互いに謝り合っていた。と言っても、何か問題が起きたわけではない。屋台ブースの話し好きな店員に、カップルだと誤認されて色々話しかけられただけだ。
「お互いに謝り続けても仕方ないし、この謝罪合戦は終わりにしないか?」
「そうですね」
霞も提案に賛成したことで、俺たちの間に沈黙が流れる。そんな無言をごまかすように、俺は別の話題を振った。
「ところで、師匠がいる施設は天原家の管轄だって?」
それは、行きがけに霞がぽつりと告げた情報だ。神山家と並ぶ陰陽四家とあって、さすがに気楽ではいられなかった。
「はい。天原家は神山よりも研究や技術開発に重点を置いています。今向かっている施設もその一つです」
「そうか……師匠に向いてそうだな。研究を始めると寝食を忘れる人だし」
ふと昔を懐かしむ。放っておけば飲まず食わずは当たり前の人だったからな。
「それじゃあ、京弥さんがお世話をしていたんですか?」
「そこまでじゃないさ。ただ、研究以外では抜けたところもある人だったから」
「そうだったんですね。あのお姿からは想像できないです」
「そうか? 霞はどんなイメージを持って――」
……と、その時だった。俺は返事をしながら、霞の言葉のおかしさに気付いた。
「あ――」
霞も気付いたのだろう。彼女は焦った顔で口元を覆う。その行動そのものが、何よりの証だった。
「霞……まさか」
忘れていた彼女への不信感が蘇る。なぜ彼女が師匠を知っているのか。神山家も師匠の襲撃に関係していたのか。そう疑う一方で、霞を信じたい思いがあるのも事実だった。
「バレちゃいました。京弥さんを諦めたことで、気が緩んだのかもしれませんね」
だが、霞の口ぶりに後ろめたさはなかった。そのことから最悪の展開を予想して、俺は気を引き締める。
「私、以前にお会いしたことがあるんです。ウィリアムさんにも、京弥さんにも」
「……え?」
思わず声を上げる。彼女の説明は想像と異なっているようだった。
「いつだ? そんな記憶はないぞ」
やや詰問調で問いかける。陰陽四家と知己を得るようなことがあれば、さすがに忘れないはずだ。
「五年前です。……とある霊山に立ち寄っていた私は、突然始まった大規模な戦闘に巻き込まれました」
「五年前……霊山……?」
俺はその言葉から想起される記憶に眉を顰める。霞はかすかに頷くと、静かな声で説明を続けた。
「その片方が賀茂家の当主率いる精鋭部隊だと知ったのは、家に戻ってからでした」
霞が語った内容で確信する。やはり、彼女はあの戦闘時に居合わせていたのだ。ということは――。
「ウィリアムさんは、巻き込まれた私たちを逃がしてくださいました。……お弟子さんだった京弥さんを案内役につけて」
明かされた事実に五年前の記憶が蘇る。彼女も高嶺さんと同じく、あの襲撃事件の被害者だったのか。
「……その時は、京弥さんに特別な思いを抱いてはいませんでした。お師匠さんと一緒に戦うと主張しながらも、避難する私たちに気を遣って、優しく誘導してくれた男性に好感は持ちましたけれど」
霞は懐かしそうな表情で経緯を語る。
「家へ無事帰り付いた私は、やがて巻き込まれた襲撃事件の結果を知りました。お師匠さんは相討ちで消息不明。そう知った時に京弥さんの顔が頭をよぎって……」
言って、彼女はふっと視線を逸らした。昨日のこともあって、面と向かって言いにくいのかもしれない。
「気が付けば、私は京弥さんの情報や近況を集めるようになっていました。ろくに会話だってしていませんし、自分でも変だと思うんですけど……私の中でどんどん京弥さんの存在が大きくなっていったんです」
ということは、それが執着の原因になったのだろうか。執着が種族特性と言うくらいだから、神山一族は思い込みが激しそうだしな。
「実は、何度かこっそりお顔を見に行ったこともあるんですよ」
霞は少し恥ずかしそうに告げる。
「そうなのか? 霞の容姿は目を引くから、さすがに記憶に残ると思うけどな」
「変装してましたから」
「変装の必要なんてあるか?」
俺が首を傾げれば、彼女は「あります!」と大きく頷いてみせた。
「だって、私たちのせいで京弥さんはお師匠さんに加勢できませんでしたよね? だから、その……恨まれてるかもしれないって」
「それで、ずっと秘密にしていたのか」
「はい……すみません」
「謝るようなことじゃないさ。それに、恨んだりするつもりもない」
「それならよかったです」
霞はほっとしたように微笑んだ。そんな様子を見つめていると、彼女ははっとしたように真面目な表情を作った。
「寒くなってきましたね。よかったら車に戻りませんか?」
「ああ、そうしよう。霞が凍えてしまうからな」
そうからかえば、彼女は反論せずに微笑む。
「ふふ、そうですね。手袋をつけて運転しようか悩んでいます」
「手袋のせいでハンドルから手が滑ったりしないのか?」
「その時は、京弥さんが助手席からフォローしてくれますから」
そんな軽口を叩きながら、俺たちは車に乗り込むのだった。
◆◆◆
辿り着いた目的地は、俺が思っていたよりも遥かに厳重に警戒されていた。
大掛かりな結界はもちろんのこと、物理的にも頑丈な造りであり、研究施設というよりは軍事施設のような様相を呈している。
「お世話になっております。一時から主任博士にアポイントを取っている神山です」
だが、そんな圧迫感を物ともせず、霞は受付に話しかけていた。その姿は凛としていて、ホライゾンカフェで働いている時の彼女を思い出させる。
「……いや、逆か」
この仕事モードが培われていたからこそ、カフェの仕事にも活かすことができたのだろう。
「京弥さん、行きましょう」
俺が感慨に耽っている間に話が付いたらしい。迎えに来たスタッフの後を、俺と霞で並んで歩く。
「そう言えば、結局ここはなんの施設なんだ?」
「あ、言ってませんでしたね。ここは――」
「神山様。この施設の存在は国家機密に当たります」
霞が口を開こうとすると、先導していた女性スタッフが少し慌てた様子で口を挟んでくる。だが、霞に動じた様子はなかった。
「この施設に関する情報開示については、神山の当主から了承を得ています。それに、こちらの方は主任博士のお弟子さんです」
「えぇっ!?」
霞の説明を受けて、案内してくれたスタッフは大声で驚いた。おそらく二十歳前後だろうか。彼女は目を見開いて俺に詰め寄ってくる。
「じゃあ、私の兄弟子なんですね! 主任以外の錬金術師とお会いするのは初めてです!」
「兄弟子……? ということは、あなたも錬金術師ですか?」
その言葉に驚く。だが、ここに師匠がいるならおかしな話ではない。
「はい! ……と言っても、研究の合間にしか教えてもらえないので、まだまだ見習いの域を出ませんけれど」
恥ずかしそうに告げてから、彼女はニコリと微笑む。
「この施設のお話でしたよね? ここは日本列島全域に対して、認識阻害の魔術を行使している施設です。他にも色々手掛けていますけど、最大の特徴はそれです」
「ちょっと待ってくれ。日本列島全域だって……?」
俺は思わず足を止めた。国家単位を相手取った魔術など聞いたこともないし、そもそも可能だとも思えなかった。そして何より――。
「いったい何に対する認識を阻害しているんだ?」
国家機密ということは、国はこの行いを肯定しているということだ。凄まじいコストもかかっているはずだが、その目的はなんなのか。
「妖力や魔術の存在です」
「な――」
あっさり答えられた目的に言葉を失う。……だが、よく考えればおかしなことではない。術師も妖力持ちも、その力が人目に触れないよう自粛しているが、本来、その程度で隠しおおせるようなものではない。
「情報機器の普及が進むにつれて、異能の力の行使が映像記録などで捕捉されるようになりました。その記録すべてを検閲して消すことは不可能です。
だから、記録を見る人々のほうに働きかけて『こんなものはあり得ない。トリックに決まっている』と思わせることにした……らしいです」
そう説明してくれたのは霞だ。あまりにスケールが大きい話のせいか、彼女もピンと来ていないようだった。
「情報機器の検閲はできないが、日本全域に一種の結界を張ることならできる。……発想が無茶苦茶だな」
「そう言うわりに、なんだか楽しそうですね」
「ああ。感心してるところだ」
最近始まった取り組みだとは思えないから、昔からこの超大規模結界が維持されていたのだろう。もちろん魔術防御を組み込んだ空間には効果がないだろうが、そんなことをする人間はそもそもがこちら側だ。
「――こちらで主任がお待ちしています。それでは失礼します!」
そんな話をしている間に、俺たちは応接室に辿り着いていたらしい。錬金術師見習いだという彼女は、軽く一礼すると施設の奥へパタパタと駆けていく。
「じゃあ、入るぞ」
「はい」
霞の同意を得て、俺は応接室の扉をノックする。扉を押し開いた先にいたのは……五年ぶりに目にしたウィリアム師匠の姿だった。




