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解放Ⅲ

「えっと、高嶺さんだっけ? 結局、仲間の人たちはどこで戦ってるの?」


「近くの山中さ。良質な霊脈があったんで利用させてもらった」


「あ、だいたい分かった。ちょっと前に京弥が山火事を起こしかけた所だよね」


 車の後部座席から、不思議な取り合わせの男女の声が聞こえてくる。陰陽寮の職員である高嶺さんと、出発直前に合流した美幸の声だ。


「俺が火を放ったわけじゃないぞ。相手が考えなしだっただけで」


「あー、それってアレですか。賀茂の大将が出張ったっていう」


「ええ、多分それです」


 俺は車を運転しながら、ちらりとバックミラーに視線を送る。初対面ながらも二人に気まずそうな素振りは見られない。そのことにほっとすると、今度は助手席に視線を向けた。


「霞、本当に大丈夫か?」


「はい、大丈夫です。……京弥さんと一緒のほうが安心しますし」


「だとしても、最も危険なエリアに近付いているわけだからな。無理はしないでくれ」


 そう。本来なら避難する予定の霞もまた、俺たちと一緒に行動することになっていた。そしてその理由は――。


「それにしてもさ。タイミングよく発生した集団って、やっぱり関係あるのかな」


「ま、関係ないってことはないだろうさ。明らかに神山の坊ちゃんを意識してるからねぇ」


「神山家の味方ってこと?」


「そこまではなんとも。……ただ、陰陽寮(俺たち)を妨害しようとしていることは明らかだ。神山の味方かどうかはともかく、敵ではあるさ」


 後部座席の会話に黙って耳を傾ける。霞を一人で逃がすことができなくなったのはこの情報のためだった。十人程度の怪しい集団が、確認されているだけでも十四組。おそらく実数はそれ以上だろう。

 目的は不明だが、神山透の動きに呼応している以上、霞が見つかれば捕えようとする可能性は否定できなかった。


「お、そろそろ陰陽寮うちの結界に入ります。日野さんなら大丈夫でしょうが――」


「ええ、視えています。見事な人払いの結界ですね」


 大きな幹線道路から外れて、山の麓へ向かう小さな道へ車を進める。すると、道を遮るように工事車両が駐車していた。明滅する警棒を振って、交通誘導員が引き返すようジェスチャーで伝えてくる。


「あれは陰陽寮の工作員ですか?」


「ええ、そのはずです」


 言うなり、高嶺さんは後部座席の窓を開けて大きく身を乗り出した。何かしらのジェスチャーを返しているのは、陰陽寮の符号だろうか。


「オッケーです。いったん停車してもらえます?」


「分かりました」


 答えて車を停めると、高嶺さんがまず車を降りる。次いで俺たちも車を降りると、誘導員に扮した陰陽寮職員は俺たちを訝しげに眺めていた。


「お疲れさんです。特対班の高嶺です」


「ご苦労様です。早々ですが、そちらの方々はどなたですか?」


「協力者ですよ」


「協力者ですか? そちらのお二人は分かりますが……」


 戸惑う彼の視線は霞に向けられていた。彼女の妖力が微弱だからだろう。


「ちょっとワケありで、市内をうろついている奴らに狙われる可能性があるんですよ」


 高嶺さんがそんな説明をしている時だった。横合いから聞き覚えのある大声が聞こえてくる。


「おお、京弥も来たか! これは心強いな!」


「桑名さん、ここにいたんですね」


「うむ! 応援要請があってな。ここを作戦本部にして、市内の情報操作と山中への援軍の指示を出していたのだ」


 そんな会話を交わしていると、警備員に扮した職員が納得したように口を開く。


「ああ、桑名先生のお知り合いでしたか。それなら大丈夫ですね」


 そう言って、彼は再び交通誘導員のフリに戻る。その様子を見ていると、再び桑名さんが話しかけてきた。


「霞さんを連れてきたのは、謎の集団を警戒したためか?」


「はい。一人で逃がすのはリスクが高いと考えました」


「たしかにな……どちらかと言えば扇動者寄りの動きを見せているが、どうにも目的が見えん連中だからな」


 桑名さんは納得したように頷いて……そして目を瞬かせた。


「ん? 一人で逃がすとはどういうことだ。京弥、お前は一緒に避難しないのか」


「前線で戦っている人のために、錬成薬を持ってきました。十全の効果を発揮させるには俺がいないと――」


「だが、それでは本末転倒だろう。あの少年は京弥を狙っている。姿を見れば激昂して何をするか分からんぞ」


「あくまで援護に留めます。集団で大物と戦闘しているのであれば、順番で休んだりしているでしょう? そっちを相手にすれば、顔を見られることもありません」


「それはそうだろうが……」


「もし彼らが敗れた場合、神山透はうちの工房を襲うでしょう。そして、そこに俺がいなければ――」


「八つ当たりで工房を破壊するだろうな。ふむ……」


 渋りながらも、桑名さんは納得した様子だった。錬金術工房を破壊されるということは、錬金術師にとってかなりの痛手だ。まして、俺にとっては師匠の形見でもある。できるだけそれは避けたかった。


「――よお、京弥。やっぱりこっちに来たか」


 と、そこへまた見知った顔が増える。孝祐だ。


「やっぱりお前も呼ばれてたか」


 ここで桑名さんが指揮を取っているということは、孝祐もいるだろうとは思っていた。孝祐は天狗の末裔であり、彼らの一族は能力が一人一人異なる。そして、彼は特に諜報向きの能力を有していた。


「八岐大蛇だけならともかく、これだけ街中がごたついてるとな」


 答えて、孝祐は霞に視線を移す。


「霞ちゃんを連れてきたのは正解だな。町をうろつく不審な集団が二十七組。うち六組は明らかに『トワイライト』を意識してる」


「やっぱりそうか。それで神山透のほうは?」


「今は膠着状態だな。賀茂成明が霊脈と神具を使って、あの怪物の移動を封じている。だが、それだけだ。陰陽寮がどれだけ攻撃しても、御曹司には傷一つ付いてない」


「陰陽寮が総出でもそれなのか……」


 予想はしていたが、やはりあの少年は規格外の存在なのだと思い知る。


「賀茂成明なら多少は戦えるだろうが、今は霊脈と神具を使うことに集中してるからな」


「なるほどな。ありがとう、孝祐」


 礼を言うと、俺は車のトランクから大きめの瓶を取り出した。おそらく招集されているであろう孝祐のためにと、工房から持ってきたものだ。


「情報料だ」


「助かる。ストックが切れるところだった」


 そう言って孝祐が受け取ったのは、彼のために調整した妖力の回復薬だ。連続服用はあまり薦められないが、今はそうも言っていられない。


 ――と。さっそく瓶の蓋を開けようとしていた孝祐だったが、その表情がさっと引き締まった。


「気を付けろ! 向こうから例の集団が来るぞ!」


「なに!?」


 その場にいた全員が、孝祐が指差した方向を見つめる。まだ何も見えないが、彼の言葉を疑う者は誰もいなかった。


「道路を無視して進んできたか……なかなか骨がある」


「感心してる場合じゃないでしょうに」


 悠長な感想にツッコミを入れると、桑名さんは豪快に笑った。


「なに、この町には力のある妖力持ちが多いからな。多少腕に覚えがある程度では、ここまで近付けん」


 彼がそう告げた直後だった。孝祐が指差した方角から、強力な妖気が伝わってくる。


「あれは……吹雪か?」


 遮蔽物に阻まれて人の姿は見えないが、その上方では局地的に吹雪が吹き荒れていた。


「おー、ありゃ凄いな。彼は雪女の末裔かな? 吹雪の規模も雪壁の生成速度も桁外れだ」


 まるで現場にいるように、孝祐がその様子を教えてくれる。そのことを不思議に思ったのだろう。霞が俺の服の袖を引っ張った。


「あの、宮原さんはどうして様子が分かるんですか?」


「あ、霞ちゃん知らなかったの? 孝祐は飛ぶ生き物を操るんだよ」


 そこへ割って入ってきたのは美幸だった。その言葉に霞は目を丸くして驚く。


「そして、視覚や聴覚を共有することもできる」


 そのおかげで、孝祐は自ら諜報活動が可能なのだ。情報屋の大半は情報の売買がメインであり、本人が情報収集にあたるケースは意外と少ない。だが、孝祐はその点において大きなアドバンテージを持っていた。


「じゃあ、鳥を操って街中を見張っているんですか?」


「ああ、そんなところだ」


 正確に言えば、鳥ではなく虫でもいいのだが、虫だと感覚の共有精度が落ちるらしく、室内のような鳥が近付けない場所でしか使っていないと聞く。


「まあ、コントロールは大変みたいだけどね。操ってる数にもよるけど、たくさんある監視カメラの画像を引っ切り無しにチェックし続ける感じらしいよ」


「それは大変そうですね……」


 三人でそんなやり取りをしていると、横合いから高嶺さんが近付いてきた。


「日野さん、俺は加勢に行ってきます。よかったら――」


「分かりました。私も行きます」


 答えて、車から大きなトランクを取り出す。常人なら持ち上げるのにも一苦労だが、魔術で身体強化をしておけば問題はない。


「京弥さん――」


「大丈夫だ。直接戦うつもりはないし、危険を感じたら逃げるさ」


 駆け寄ってきた霞にそう告げるが、彼女の不安に満ちた表情は晴れなかった。だが、やがて思い直したのだろう。彼女は両手で俺の左手を包み込むと、まっすぐこっちを見つめる。


「はい……ご無事で」


「ああ。霞も無事で」


 短く答えてトランクを握り直す。すると、横にいた高嶺さんが口を開いた。


「大丈夫ですよ、奥さん。たとえ何があろうと、ご主人だけは絶対に逃がしますから」


 その言葉は、彼の誠意の表れだったのだろう。だが……だいぶ誤解があるようだった。


「え――?」


 霞が目を瞬かせる。その直後、俺と顔を見合わせた彼女は恥ずかしそうに視線を逸らした。


「あっははは! 高嶺さん、いい仕事するじゃん!」


 そうして沈黙したのも束の間。美幸の笑い声が響いて、緊迫した空気を雲散霧消させた。


「え? 俺、何か間違えた?」


 高嶺さんは不思議そうに首を傾げるが、誰も事実を説明しようとしない。ただただ、美幸の楽しそうな笑い声だけが場に響き渡った。


「大丈夫! 何も間違えてないから! ――くふっ」


 なおも笑いながら、美幸が高嶺さんの肩をバシバシ叩く。困惑した様子の高嶺さんだったが、おかげで悲壮な空気が消え去ったことには感謝するべきか。

 ちらりと霞に視線を向ければ、相変わらず照れた様子で頬を染めていた。


「えっと……まあいいか」


 やがて気を取り直した高嶺さんは、表情を引き締めると俺に目で合図を送る。


「行きましょう」


 頷きを返すと、彼は静かに身を翻す。その後を追って、俺は戦闘音が響く山中へと踏み込んだ。




 ◆◆◆




 外傷用の錬成薬を傷口に振りかけて、魔力回復用の錬成薬を口に含ませる。即効性を重視した薬はすぐに効果を発揮し、呻いていた男性を癒していく。


「助かりました……ありがとうございます」


「もう大丈夫ですね。間に合ってよかった」


 安心させるように微笑むと、俺はその場から立ち上がった。ここは、神山透との戦いで負傷した者たちの避難所だ。攻撃の余波に晒されることはないはずだが、かなり戦場に近いため油断はできない。


 そんな中で、俺は首を巡らせて周囲を確認する。到着した時には重傷者が七人いたが、これで全員の治療を終えたことになる。中には生死の境を彷徨っていた人もいて、あの少年の凄まじさを物語っていた。


 と、不意に茂みがガサガサと揺れた。そちらに視線を向ければ、また負傷者が運ばれてきたようだった。


「面目……ない……です」


「いいから喋んな! 体力は温存しとけ」


 そんな声とともに現れたのは、二人とも見知った顔だった。俺をここに連れてきてくれた高嶺さんと、かつて彼と一緒に店を訪れたことのある女性だ。


「――そこへ」


 手近な場所に彼女を寝かせると、トランクから新しい錬成薬を取り出す。表面的な出血は少なめだが、骨や内臓にかなりのダメージを受けているようだった。


 やがて治療を終えると、朦朧としていた女性の瞳が光を取り戻す。すると、彼女はきょとんとした顔で俺を見つめていた。


「あれ? お兄さん、どこかで……あ!」


「シッ、黙っとけ」


 素っ頓狂な大声を上げた女性を高嶺さんが押し留める。すると、彼女は小さめの声で言葉を続けた。


「先輩、避難対象者を連れてきてどうするんですか!? 賀茂さんが知ったら絶対怒りますよ!?」


「たしかに神山透の目的は日野さんだろうが、俺たちの目的は神山透の無力化だ。たまたま奴を補足できたのがこのタイミングだから、日野さんを逃がすよう言われただけで」


「じゃあ、賀茂さんにそう言えばいいじゃないですか」


「いや、それは何つーか……大将に邪念を与えたくなくてだな。ほら、あの人やたらと日野さんを気にかけてるだろ?」


「そうですか? 普通だと思いますけど」


「あの人にしちゃ珍しいんだよ。……ともかく、日野さんのおかげで何人かの命が救われたのは事実だ。始末書でいいなら幾らでも書いてやるさ」


 なんとはなしに、そんな会話を聞いていた時だった。彼らが戦っている場所で凄まじい妖力が立ち昇り、強い揺れが俺たちを襲う。


「っ――!?」


「今のは――!?」


 その場にいた誰もが、青ざめた顔で様子を窺う。それほどに膨大な妖力だったのだ。


「くそっ、大将生きてろよ……!」


 そんな中で、一人動きを見せた高嶺さんは戦いの現場へと走っていく。彼を追いかけるか逡巡した俺だったが、携帯電話が鳴動したことでふっと我に返る。表示を見れば、電話の相手は孝祐だった。


「京弥、今の妖力は感知したな? ちょっとマズいことになってるから、お前も現場を見て来てくれ」


「どういうことだ?」


「論より証拠だ。たぶん近付いても危険はない。それより、一人でも多くの術師に打破する手立てを考えてもらう必要がある」


「分かった」


 俺は了承すると通話を終えた。状況はよく飲み込めないが、今しがたまで戦いの現場を見ていた孝祐が言うことだ。今の俺にとっては最も信じられる情報だった。


「あ! 日野さん!?」


 後ろから聞こえる焦った声を振り切って、俺は戦いの現場へと駆け出す。強化された身体のおかげで、一キロ以上離れた現場へあっさり辿り着いた。


「これは……!?」


 壮絶な戦いがあったことを窺わせる、荒れ果てた空間。その中央部では見たこともない現象が起きていた。あえて表現するなら、異常な密度の結界だろうか。


「日野殿……!? なぜここに」


 と、驚く俺に声がかけられる。見ればずいぶんと疲労した様子の賀茂成明が俺を見つめていた。


「桑名さんの指示で、様子を見に来ました」


 さっきの高嶺さんたちの会話を思い出して、少しごまかす。孝祐は桑名さんの指揮下にいるようなものだから、嘘は言っていない。


「桑名先生が……」


「ええ。この現象を一人でも多くの術師に解析してほしいと言われました」


 彼にも桑名さんのネームバリューは通じるようで、それ以上ここにいることの是非を問うことはやめたようだった。


「あの結界の中に神山透がいるんですね?」


「ああ。おそらく今の彼に攻撃性はない。よければ、あの結界について日野殿の意見を聞きたい」


「分かりました」


 俺は頷くと、魔術の次元で結界もどきを観察する。通常の結界とは比べ物にならない、異常な妖力密度だ。俺が知るどんな攻撃を加えても、傷一つ付くとは思えなかった。


 だが、問題はそこではない。ただの防御結界ではあり得ない力の流れを感じる。これは、まさか――。


「いやいや、無茶にも程があるだろ!」


 思わず声が出る。それほどに分析結果は理不尽なものだった。


「日野殿。どんな結論だったか、教えてもらえるだろうか」


 そんな俺を見て賀茂が興味深そうに口を開く。俺は頷くと、溜息とともに結論を口にする。


「あいつ……()()()()()()()()()()()()


 それが俺の分析結果だった。物理的に同化するわけではないが、この山を自分の妖力と繋いで、霊脈ごと取りこむつもりなのだろう。


「やはりそうか……私も同意見だ」


 俺の意見を聞いた賀茂は、渋い顔で賛同する。


「今、透殿の移動を封じているのは神具だが、そのエネルギーはこの山の霊脈から供給している」


「つまり、その霊脈を自分のものにしてしまえば、神具は勝手に無効化されるわけか」


「ああ。そこまで考えたのか、それとも純粋に力を欲したのかは分からないが、結果的にそうなる」


「しかし……霊脈を山ごと乗っ取るとか、発想が無茶苦茶だな」


 そして何より、その無茶を実行に移すことができる能力。やはり災害級とは伊達ではない。


「神山家は八岐大蛇の末裔だからな。もともと山と相性がいいという理由もあるのだろう」


 やがて、俺たちは同時に結界へと視線を向ける。さすがに霊脈を乗っ取りながら戦うことは難しいようで、こっちへの攻撃は完全に止んでいる。だが、あの異次元クラスの結界があるかぎり手も足も出ないだろう。


「陰陽寮の火力を集中したら、あの結界を破ることはできるか?」


「無理だろう。辛うじて傷を付けることはできるが、そこまでだ。あの結界には本体と同じく再生能力がある。生半な攻撃を繰り返してもこちらが消耗するだけだ」


 返ってきた答えは絶望的なものだった。となれば、霊脈が侵食されるのを指をくわえて見ているしかない。


「――む。日野殿、少し失礼する」


 賀茂の携帯に連絡が入ったようで、彼はその場で電話を受ける。その様子からすると、あまりいい情報ではないようだった。


「どうした?」


 問いかければ、彼はあっさりと内容を明かす。


「隠蔽工作が厳しくなってきた、とのことだ。かなりの人数がこの山へ向かっている。マスコミも混じっているそうだ。……おそらく常世希求会が煽ったのだろう」


「市内で発生している不審な集団は常世希求会だったのか?」


 知っている組織の名前が出たことに驚く。妖力持ちを意図的に暴走させている疑いがあるということで、陰陽寮が調査に入っていたはずだ。


「その通りだ。裏は取れていないが、ほぼ間違いない」


 頷いて、賀茂は苦い顔で結界を見つめた。


「このままでは異能を発現している透殿が見つかってしまう。それは避けなければならないが……」


「この空間にさらに隠蔽結界を重ねることは?」


「すでに試した。透殿の結界が強すぎて弾かれてしまう。騒ぎが活発化したのも、この山全体にかけていた隠蔽結界が消滅したためだろう」


「なるほど……」


 となれば、あそこにいる八岐大蛇の化身をなんとかするしかない。そして……一つだけ、俺には心当たりがあった。


「賀茂さん。もしあの結界を破壊することができたら、後は任せられるか?」


 そう問いかけると、賀茂は眉をピクリと動かした。そして静かに頷く。


「問題ない。おそらく、今の透殿は妖力のすべてを侵食と結界に費やしている。結界を破壊した瞬間に潜り込めば、戦闘経験の少ない透殿のことだ。ろくに反応できないだろう」


「分かった」


 俺は頷くと携帯電話を手に取った。何か問いたげな賀茂の視線を感じながら、相手が通話に出るのを待つ。


「京弥さん、ご無事ですか!?」


 ワンコールもしないうちに霞と通話が繋がる。彼女に簡単な経緯を説明すると、俺は本題を口にした。


「――霞、力を貸してくれ。俺たちなら結界を破壊できるかもしれない」



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― 新着の感想 ―
[一言] おお、戦闘シーンが盛り上がると土鍋作品だなあ、って感じますね…読んでいてテンションが上がってきたかなっ さて、最後のセリフを受けてどう物語が動いていくのか…更新、お待ちしています
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