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健康食品店トワイライトⅡ

「つまり、記憶喪失という理解で合っているか?」


 店内にある小さな丸テーブルを挟んで、俺は彼女と向かい合っていた。


「はい……そうだと思います」


 しばらく姿を見せなかったと思えば、「自分が誰なのか思い出せない」と言い出した彼女は、困惑した様子で俯く。


「自分じゃなくて、家族や友人はどうだ?」


「いえ、それも……」


 彼女は小さく首を横に振る。その様子を見て、俺は静かに息を吐いた。正直に言えば、彼女の言葉を完全に信じたわけではない。何かボロを出さないかと、俺は別の角度から質問を続けた。


「一番古い記憶はいつのものだ?」


「五、六時間ほど前です。ふと気が付いたら、知らない公園に座っていました」


「どの辺りにある公園だった?」


「詳しくは分かりませんけど、近くにあった駅は――」


 彼女が口にした駅名は、ここから三百キロほど離れた地方都市だった。聞けば電車や新幹線を乗り継いでここまで来たらしい。


「その時の所持品は? スマホでも入っていれば……」


「このバッグだけです。でも、自分に関する手掛かりが何もなくて……」


 答えて、彼女は上品なデザインのバッグを机に置いた。さすがに女性のバッグの中身を覗くつもりはなかったのだが、彼女も切羽詰まっているのだろう。俺の目の前で一つ一つ中身を取り出していく。


「たしかに何もないな」


 すっかり空っぽになったバッグを見て、俺はそう結論付けた。財布は入っていたが、数万円の現金と小銭以外には何も入っておらず、店のスタンプカードのようなものも見受けられなかった。


「ふむ……」


 俺は軽く考え込む。彼女は本当に記憶喪失なのか。そんなフリをしているだけで、また陰陽寮への勧誘をするつもりではないのか。そんな疑念を振り払うことはできなかった。


「そう言えば、どうやってこの場所へ辿り着いたんだ?」


 ふと、当たり前の疑問が浮かぶ。さすがに偶然の一言で片付く話ではない。だが、彼女は小さく折り畳まれたメモ用紙を取り出すと、俺のほうへ差し出した。


「この店の住所か」


「はい」


 綺麗な文字で、この店の名前と住所が書かれている。だが、インクや紙の色褪せ方からして、数カ月は経っているはずだ。ひょっとすると、初めてこの店へ来る時に使ったメモだったのかもしれない。


「これが唯一の手掛かりだったんです。でも、お店を見ても何も思い出せませんでした。それで、しばらくお店の様子を見ていたら――」


「俺が出てきた、と」


 俺の言葉に、「はい」と彼女は頷きを返した。そして、逆に質問を口にする。


「あの……さっきの店主さんの反応からすると、私のことを知っているんですよね?」


 それはずっと聞きたかった質問なのだろう。彼女は真剣な目で俺を見つめた。


「知ってはいるが、あくまで店と客の関係だったからな。住所どころか名前も知らないんだ。役に立てなくてすまない」


「そう、ですか……」


 うちでは基本的に氏名や住所を聞くことはない。確認するのは、特殊な錬成薬を調合する時や予約が入った時くらいだ。だが……。


「そう言えば、君は陰陽寮で働いていたはずだ。そっちを辿ればいい」


「陰陽寮、ですか……?」


 初めて聞いた、とでもいうように彼女は目を瞬かせた。その様子に、俺はふと不安を覚える。


「ええと……そもそも、君は自分が普通の人間と異なっているという自覚はあるか?」


「なんとなく、そんな気はします」


「そうか」


 彼女の回答にほっとする。そこから説明するには、一般人に魔術の存在を信じさせるレベルの話術が必要になるからだ。どれだけ弱くても、彼女も妖力を持っている以上――。


「……ん?」


 彼女の妖力を確認していた俺は、思わず声を上げた。彼女の身体から呪術のような波動を感知したのだ。


「あの……?」


「すまない。少しじっとしていてもらえるか?」


「は、はい」


 困惑しながらも、彼女は大人しく観察されるがままになっていた。数分にわたって彼女を観察していた俺は、一つの結論を出す。


「呪い、もしくは封印の類いだな」


「え? あの、どういう意味ですか?」


「言葉通りだ。ひょっとすると、君の記憶がないのはそのせいかもしれない」


 そう伝えると、彼女の顔がさっと青ざめた。


「そんな……私がどうして」


 呆然と呟く彼女だが、俺に真相が分かるはずもない。ただ、これは彼女の演技ではないのかという疑念は急速に小さくなっていた。


「詳しく見てみなければ分からないが、かなり強固な術だな」


 俺は半ば無意識に呟く。術の雰囲気からすると、陰陽師あたりの作法だろうか。


「駄目だな……簡単には解けそうにない」


 やがて、俺は小さな溜息をつく。俺も解呪の依頼を引き受けることがあるが、それらの術式とは一線を画していた。


「……」


 そう結論付けると、俺は静かに座っている彼女の様子を確認する。よく見ればかすかに震えているし、顔色もあまり良くないことが窺えた。


「ちょっと待っててくれ」


 陳列棚に並んでいる商品を一つ手に取ると、カウンターの奥から店の裏側へ抜ける。そこには簡単な給湯設備があった。


「あの……?」


 急に姿を消して不思議だったのだろう。再び顔を見せた俺に、彼女は問いかけるような視線を向けた。


「ひとまず、落ち着こう」


 その視線に答える代わりに、俺は彼女の前にティーカップを置いた。錬成薬ではなく普通のハーブティーだが、多少は落ち着くかもしれない。


「あ、ありがとうございます」


 彼女は戸惑ったように俺を見上げていたが、やがて慎重な手つきでカップを口元へ運ぶと、ほぅ、と小さく息を吐いた。


「せめて、身元の手掛かりでもあればな……」


 その一方で、俺は工房に備え付けた帳簿をパラパラとめくっていた。彼女の名前の手掛かりが残っていないかと考えたのだ。そうして、しばらく時が過ぎて――。


「……あ」


 ふと思い出す。メモは残っていなかったが、彼女と一度そんな話をしたことを。


「――かすみん」


「え?」


「以前に一度、君が自分の愛称を口にしていた記憶がある」


「かすみん、ですか?」


 意外だったのか、彼女は目をぱちくりとさせた。


「ああ。自分でそう名乗っていた。というか、俺にそう呼ばせようとしていた」


「私が……」


 彼女はピンと来ていない様子だった。たしか、あの時は「あなたの恋人、かすみんですよー!」と言う謎の挨拶とともに現れて、俺にも愛称で呼んでほしいと言ってきたのだ。


 そんな説明をすると、彼女は呆然とした様子だった。


「以前の私って、一体……」


 羞恥からか、彼女の頬が上気する。耳まで赤くなっているあたり、本気で恥ずかしがっているのだろう。さすがにそれ以上掘り返すのも可哀そうなので、俺は話題を元に戻す。


「とにかく、名前の推測はできそうだな」


『かすみん』という愛称がつきそうな名前と言えば、俺の貧弱な語彙力ではほぼ一つに絞られる。彼女もそれは同じことだったようで、ぽそりと一つの名前を挙げた。


「かすみ……ですよね、やっぱり」


「俺もそう思う」


 そうじゃない可能性もあるが、他に手掛かりがない現状では妥当な推理だろう。そう結論付けていると、ふと彼女が店のカウンターに近付いた。


「じゃあ、これって……」


 そう言って彼女は植木鉢を覗き込む。それは、記憶を失う前の彼女が押し付けていった鉢植えだ。その根元に手を伸ばすと、彼女は小さなカードを引き抜いた。


「なんだ、それ?」


「さっき見かけて、気になってたんです」


 首を傾げる俺に、彼女は切手サイズのカードを見せてくる。そこには、どこか見覚えのある筆跡でメッセージが書かれていた。


 ――『あなたの霞より』


「あいつ……」


 当の本人が目の前にいることも忘れて、俺は呆れ声をもらした。てっきり植物の名称でも書いてあるのだろうと、気にも留めていなかったが……。


「てっきり、恋人さんから贈られた鉢植えだと思ったのですが、ひょっとしてこれを贈ったのは――」


「ああ。かつての君だ」


「やっぱり……」


 いたたまれない、と言った風情で額を押さえる。そのまま心の整理をしていたのか、微動だにしなかった彼女は、やがてきょろきょろと辺りを見回した。


「どうした?」


「よかったら、紙とペンを貸していただけませんか?」


「ああ、分かった」


 彼女の目的を察した俺は、カウンターに備え付けてあったペンとメモ用紙を渡す。それを受け取った彼女は、何も見ずにサラサラと文字を書いた。


「……」


 そして、彼女は無言で肩を落とす。メモ用紙には整った字体で『あなたの霞より』と書かれていて……その筆跡は、鉢植えに刺さっていたカードと非常によく似ていた。


「店主さん。あの……一つ確認させてください」


「なんだ?」


 聞き返すと、彼女は言いにくそうな、それでいて真剣な表情で問いかけてきた。


「私たちって、恋人だったのですか?」


「……え?」


 どうしてそうなったのか。疑問が俺の頭の中をぐるぐると駆け巡る。そんな俺の心境が分かったのか、彼女は慌てたように弁解する。


「その、こんなメッセージ付きのプレゼントをする仲だったわけですし」


「いや、それは一方的だったというか、勝手に置いていったというか」


「実は恋人だったけれど、貴方のことを忘れてしまった私を見て、罪悪感を抱かせるまいと他人のフリをしてくれているのでは……」


「俺はそんなにできた人間じゃないさ。もしそうならもっと動揺するし、なんとか記憶を戻そうと躍起になってる」


「本当ですか? もし気を遣っているのなら、本当のことを教えてほしいです」


 そう説明してもなお、彼女は疑っている様子だった。好意的な評価をしてくれているのは嬉しいが、さすがに買い被りすぎだ。


「あまり気は進まなかったが、君と俺との関わりを素直に話したほうがよさそうだな」


 俺は観念すると、交際を仄めかして俺を陰陽寮に取り込もうとしていた彼女のことを説明する。最初は真剣な面持ちで聞いていた彼女だが、次第に瞳から光が失われていく。


「私はなんというご迷惑を……その、本当にすみませんでした……」


 堪えきれなくなったのか、彼女は真っ赤になった顔を両手で覆った。十人中十人が振り返りそうな美人が、顔を真っ赤にして恥ずかしがっているところなど、そう見られるものではないが……さすがに気の毒だという思いが先に立つ。


「気にしなくていい。それより、君の名前は『霞』だと考えていいのかな」


 話を元に戻すと、彼女はほっとした様子で頷いた。


「はい。他に手掛かりもありませんし、私のことは霞と呼んでください」


「分かった」


 彼女の呼び名について合意すると、俺は今後の方策を考える。名前らしきものが分かったのは幸運だったが、苗字が分からなければ片手落ちもいいところだ。


 そして、こんな状況下でアテにできる人は一人しか思い浮かばなかった。


「知り合いに、こういう時に頼りになる人がいる。よかったら会ってみるか?」


 地域の相談役の顔を思い浮かべる。彼なら、妖怪の系譜である彼女を疎かにはしないだろう。


「どんな方なのですか?」


「神社で宮司をしている人だが、こっち系に顔が利いて、現代社会に適応しづらい妖怪の末裔を支援したりもしてる」


 どのみち、俺がここで首を捻っていても仕方がない。そう考えた俺は椅子から立ち上がった。


「歩けない距離じゃないが、そこそこ遠い。車で行こう」


「車……ですか」


 彼女の声にはためらいが感じられた。車に乗るのは苦手なのだろうか。そう尋ねると、彼女は気まずそうな表情を浮かべた。


「私は歩きますから、その神社で合流してもいいですか? 私の我儘で店主さんまで歩かせるわけにはいきませんし」


「構わないが……まあ、それなら俺も歩くさ。向こうで合流できるか心配だしな」


 なんといっても、相手は記憶を失った直後だ。これで何かあれば、さすがに寝覚めが悪い。


「すみません……」


 霞は申し訳なさそうに謝るが、重ねて一人で行くとは主張しなかった。やはり心細いのだろう。


「いいさ。俺も気になるからな」


 彼女の状態は興味深いものだし、その背景が気になっているのも事実だ。店の扉に「臨時休業」の札をかけると、俺は霞を連れて目的地へと向かった。




 ◆◆◆




「ちょうどいいベンチがあるな。休憩するか」


「あの、私ならまだ平気ですよ?」


 歩き始めて三十分ほど経っただろうか。手頃な公園を見つけた俺は、一息入れることにした。


「すまない。俺が疲れたんだ」


「……ありがとうございます」


 そう答えれば、彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。


「神社まであと十五分ほどかな」


 言いながら木製のベンチに腰を下ろすと、霞も反対側の端に腰掛ける。しばらく無言で休憩をとっていた俺たちだが……実を言えば、俺には休憩以外の目的もあった。


 ――探査サーチ


 隣にいる彼女を驚かせないために、言葉に出さず強く念じる。俺の魔力が辺りに広がっていき、周囲の魔力を捉える。そして――。


「店主さん……今、何かしましたか?」


 意外なことに、霞は俺の魔術に気付いたようだった。まあ、俺の本分は錬金術であって、こういった直接的な魔術ではない。隠蔽が甘かったのだろう。


「気付いたのか。少し周囲を警戒していた」


「警戒?」


 俺の言葉を受けて、彼女は不安そうに周囲を見回す。そんな彼女を横目に立ち上がると、俺は懐から一本の小枝を取り出した。


「――見ていてくれ」


 そして、特殊な処理をした小枝を十メートルほどの高さに放り投げる。その直後、小枝の周囲でかすかなスパークが走った。


「え? あれは……」


 放り投げられた小枝を目で追いかけていた霞は、目を丸くして驚く。それはそうだろう。何もない空間から鳩のようなものが現れて、そのまま墜落してきたのだから。


「式神だな。大方偵察用だろう」


 説明する俺の目の前で、鳥型の何かは紫紺の炎に包まれて消えていく。燃え尽きた後には塵一つ残っていなかった。俺は何もしていないから、自壊の術式が組まれていたのだろう。


「これって、まさか……」


 その様子を見ては、俺の言葉を信じるほかなかったのだろう。彼女は青ざめた顔で呟く。


「ああ。君を尾行していた可能性が高い」


 俺は無情に宣告する。気付かないフリをすることも考えたのだが、放置するとこれから訪れる神社に迷惑がかかるかもしれない。そう考えた結果だった。


「とりあえず、しばらくは俺たちを見失って右往左往するはずだ。その隙に進んでしまおう」


「は、はい」


 彼女が頷いたことを確認して、俺たちは公園の出口を目指す。だが――。


「入念だな。連鎖式か」


 魔力の気配を感じた俺は、公園内を振り返って顔を顰めた。鳥型の式神が墜落したその場所から、妖獣が出現したからだ。おそらく、鳥を撃墜した者を狙うように命じられているのだろう。


「――俺の後ろにいてくれ。離れるなよ」


 霞の返事を待たず、俺は妖獣に意識を向けた。眩いスパークに包まれた、実体も定かではない四足獣。おそらく雷獣だろう。

 異常に素早い上に、身体が雷で構成されているため、物理攻撃はあまり意味をなさないはずだ。


「ちっ――」


 反射的に魔法障壁を張れば、一拍遅れて雷獣が激突する。その隙にと、俺は懐から粉薬の包みを取り出して、中身を雷獣にぶち撒けた。


「――ッ!」


 悲鳴の代わりなのか、一際高いスパーク音を響かせて雷獣の姿が薄れていく。完全に消滅した後も気を抜かず、しばらく公園内に意識を巡らせるが……これ以上の追撃はないようだった。


「大丈夫だったか?」


 一通り安全を確認した俺は、無言で後ろに立っていた霞に問いかける。


「はい……とても驚きましたけど」


 その反応におや、と思う。殺害ではなく気絶・捕獲用だったのか、それとも連鎖式召喚の制限か。雷獣にしては小型だったが、それでも慣れていない人間には恐ろしいはずだ。


 だが、彼女は青ざめながらも気丈に立っていた。よく見れば足は震えているが、その程度で済んでいることが驚きだ。


「もうしばらく休憩するか?」


 とは言え、彼女がショックを受けていることに変わりはない。そう提案すると、霞は首を横に振った。


「今度こそ私たちへ向いた監視の目はなくなったんですよね? それなら、少しでもここから離れておこうと思います」


「合理的だな」


 了承すると、俺たちは今度こそ公園を出て目的地へ向かう。歩きながら軽い魔力探査を行ったが、特に尾行はついていないようだった。


「あの、先ほどはありがとうございました」


 そんな道すがら、無言だった霞はためらいがちに会話を切り出した。


「先に手を出したのは俺だからな。恩に着る必要はないさ。むしろ、危険に晒してすまなかった」


「いえ、そんな……店主さんはいつもあんな危険な目に遭っているんですか?」


 心配そうに尋ねる彼女に対して、俺は大げさに否定してみせる。


「まさか。俺は錬金術師だからな。引きこもりの研究職だ」


 錬金術師。長い歴史の中で統合された今では、薬や素材を作成する技能を持つ魔術師という意味で使われることが多い。

 英国には昔ながらの錬金術師もいるらしいが、俺は今の道具主義的な錬金術のほうが性に合っているし、どちらにせよインドア派であることに違いはない。


「そうですか? 堂に入った戦い方でしたから、てっきり慣れてらっしゃるのかと」


「たまたま、相性のいい錬成薬があったからな」


 雷獣を消滅させたのは、これから会う人物に渡そうと思っていた錬成薬だ。かつて彼女に売っていたものと同系統の、魔力を散らす薬。こちらのほうが効き目は強いが、物騒な使い方もできるため、よほど信頼している人にしか卸さない薬だ。


「それにしても……こんな人気がある場所で雷獣を呼び出すとは、何を考えているんだ」


 俺は一人ぼやく。魔術は現代科学にはない特別な力だが、科学に取って代わるほどのものではない。血統や属人的才能に大きく左右されるため、扱える者が少なすぎるのだ。


 そんな理由から、科学サイドに睨まれないよう、術の行使は秘密裏に行うことが暗黙の了解となっていた。

 一般人が魔術や妖怪の類を見ても認識しづらいように、陰陽寮が国単位の超大規模な結界を常時展開しているという噂だってあるくらいだ。


「たちの悪い術師かもしれないな……」


 嫌な予感を頭から追い払うと、霞を先導して歩き続ける。そうして辿り着いたのは、歴史を感じさせる大きな神社だった。


「ここが目的地ですか?」


 年季に驚いたのか、それとも広さに反応したのか。霞は驚いた様子で神社の全景を眺めていた。


「ああ。この辺りでは有名な神社だ。表向きも、そして裏向きの顔もな」


 と、霞にそう説明していた時だった。背後から野太い声が飛んでくる。


「――ほう? 裏向きとは人聞きが悪いな。そちらのお嬢さんが怖がってしまうではないか」


 そう告げて、声の主は豪快な笑い声を上げた。


「お久しぶりです。突然のお願いですみません」


 そちらを振り返ると、挨拶の言葉を交わす。相手は六十歳近いはずだが、百八十センチを超える肉体は鍛え上げられており、禿頭の下にある顔はまるで海賊のようにいかつい。


「京弥が女子おなごを連れてくるとは、珍事もあったものだ」


 そう告げると、彼は強靭な肉体で俺の肩をバシバシ叩いてくるのだった。




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