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アホの子シオリによる、異世界食レポ譚 〜すれ違った魔獣は鎧袖一触。全て食材にします!〜

作者: 青木葵

 木漏れ日が心地よい森の中。

 お日様の陽気に反して、生き物たちの気配は静まり返っていた。

 ここにいるのは、私と、三時の方向にいる一匹の猪、ただそれだけ。


 私に向かって、明確に敵意を放っている。

 皮膚の痺れで分かる。

 この猪は魔獣だ。


 魔獣と化した存在には、大まかに以下の特徴がある。

 まず、通常の獣より身体能力が向上している。

 次に、普通の獣より美味しい。

 そして、巨体なため暴れると甚大な被害が出る。

 さらに、巨大なために可食部位も当然多い。


 ごくり、と私の喉が鳴る。

 魔獣と相対した緊張のせいだろう。

 決して猪肉の柔らかさを思い出したわけではない。


 私と猪が向き合っている間、周囲には静寂が包まれる。

 きっと緊張が解けた時や、均衡が崩れた時に決戦が始まるのだろう。

 お前もそう思っているだろう、と猪へ目線で語る。

 そうだ、という返答が赤く染まった瞳から返ってきた。気がする。


 そうしてしばらく待つと、戦いのゴングが鳴るように。

 ぐぅ〜。という音が、森中に響き渡った。


 猪は呆然としている。

 私も気恥ずかしくなってる。

 緊張は解けたが、戦いは始まらない。


 数秒経ってから、剣を投げつけた。

 半ばヤケクソの投擲なんて、当然回避される。

 そして今の私は、丸腰だ。


 隙だらけに見える私に向かって、突進してくる。

 その口角は、私を間抜けとあざ笑っているようだ。

 状況的に、半ば反論できないのが悔しかった。


 だが、私の口元にも笑みが浮かんでいた。

 今日のご飯は、豪勢になると決まったからだ。


「ブレイドビルド」


 詠唱と共に、一閃、一閃と左右の腕を振るう。

 突然の斬撃と共に、猪は倒れ伏す。

 無手だったはずの私の両手には、2本の剣が握られていた。


 ブレイドビルド。

 土や金属から瞬間的に剣を創造する、私のお気に入り土魔法だ。


「うん。一撃必殺」


 満足げに頷くと、後ろから気配がする。

 新しい影に対し、私は一切の警戒をしない。

 自分の父親を警戒する娘なんて、この世にはいないからだ。


「いや、一撃じゃなかったが。

 パパ見てたからな」


 ロマンスグレーのオールバックが相変わらずカッコイイ。

 イケオジの体現者というべき顔立ち、吹き替え映画も斯やの渋い声。

 金の賢者マクベスと謳われる私の父は、まさにパーフェクト・パパであった。


「パパ」

「なんだ?」

「今日は、猪シチュー!」


 元気にそう告げると、若干呆れたような視線が返ってきた。




 ◇ ◇ ◇




 私はシオリ。

 気がついたらこの世界に転生していた、普通の(元)女子高生。

 転生前の私が死んだのかはわからないけど、赤ちゃんからのやり直しだったから、多分死んだんだと思う。

 にしても何で転生したんだろう。

 最後の日にしたことといえば、バラムツと牡蠣とフグをいっぱい食べたことぐらいのはずなのに。


 転生した私は、自分で言うのもなんだけど可愛かった。

 日本ではありえなかった銀髪。

 肌も化粧品いらずのツヤ肌。

 すらーんすとーんとした体け……だれがまな板じゃぼけ。


 我ながら中身が私でなければ完璧美少女だったと思う。

 あと動かない表情筋。

 パパ曰く、ご飯を食べるときだけ満面の笑みになるらしい。


 そんな私だけど、3ヶ月後には16歳の誕生日を迎える。

 そう。生前と同じ、花の女子高生だ!


「パパ。お願いがあるんだけど」

「何だ? シチューのおかわりか?」

「違う。でもちょうだい」


 5杯目のシチューに手をかける。

 もぐもぐごくごくごくごく。

 器を空にしてから、パパにお願いの続きをした。


「学校行きたい」

「学校か。通わせてもいいんだがなぁ」

「?」

「お前が学校行く意味、あるのかと思ってな」

「どういう意味?」

「いや。かなり逞しく育ったからな。

 さっきみたいに魔獣を一撃で狩れるぐらいにな。

 ちょっと抜けてるとこに目を瞑れば、十分独り立ちできる力はあるしな」

「む。パパよりはしっかりしてるつもり」

「ははは。あと10年経ってから言え」


 認めてられてるのか、バカにされてるのか、適当な扱いにブスッとする。

 でも自分でも抜けてる部分があるのは否定できない。

 ちょっと悔しい。

 形勢が不利なので、話題を学校に戻すことにした。


「パパ、どうしても通いたい理由があるんだけど」

「話してみろ」

「友達、欲しい」


 切実な一言に、パパが思わず固まる。

 そう。私には友達がいない。

 それはコミュ障的な意味ではなく、その機会がなかったということだ。


 金の賢者の称号を授かってから、パパは半隠居状態だった。

 拾われた身である私は、いつもパパの後ろをくっ付いて回っていた。

 そんな環境でできた知り合いといえば、当然ながらパパの関係者たちだ。

 皆いい人たちで、私にも親身に接してくれている。

 私もみんなが大好き。

 だけど残念なことに、同年代の子と知り合える機会は一度もこなかった。

 結局のところ、私の人間関係はパパのをそのままコピペしただけなのだった。


「ね、パパ。いい?」

「ああ。もちろんだ。

 それと、すまない。つい独り身だった時の癖で、お前を引っ掻き回してしまった」

「今更だよ。パパ」


 堅物っぽい謝罪に思わず苦笑する。

 こういう無駄に真面目なところもパパの好きなところだ。


「さて、それではスティーリアへ向かうか」

「王都? そこの学校?」

「ああ。俺の母校だ。

 あそこなら俺の推薦状一つで入学できる」

「流石金の賢者様」

「揶揄うな。

 あちらの準備も色々あるだろうし、すぐ出発するぞ」

「はいはーい」


 にしても友達かぁ。ワクワクする。

 年上相手とは生前よりも話すことが多かったけど、同年代とは15年近いブランクがある。

 どうやって仲良くなったらいいんだろう。

 ハロー? ちゃろっす? よろしくお願い致す?

 ファーストインプレッションをよくするため、頭の中でシミュレーションしてみる。


「あ」


 その時、私の脳裏に電流が走る。

 日本には同じ釜の飯を食べるという言葉がある。

 ご飯があればみんな友達になれるという意味だ。

 つまり、初対面は豪勢な食事であればあるほどいいことになる。


 私のやるべきことは決まっていた。

 まだ知らない友達のため、最高の食材を手にいれる。

 これだ。


「ねえパパ。ボルケニア火山に寄ってもいいかな?」

「む? 何故だ?

 概ね同じ方角だから、3日程度の用なら問題ないと思うが」

「うん。それだけあれば十分」


 親指をグッと立てて、ドヤ顔でパパに告げる。

 無表情だけど。


「ちょっと、ドラゴン1匹狩ってくる」


 私の発した『狩ってくる』のイントネーションが、『買ってくる』と完全一致した。

 友人との練習で書いた習作です。

 プロットを元に第一話だけ書く練習だったので、連載予定はありません。

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