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第100+話  あまみ


 でも、ちょっと待った!

 そもそも大人ってなに??


 やばい、めちゃくちゃ難しい問題にぶつかっちゃった気がする。




 とりあえず思い付きで、小学校のときの道徳の教科書を開いてみたけど、落書きばっかでよくわかんなかった。


 そういえば先生はよく「落書きするなんて子供だ」みたいなこと言ってたっけ。


 ってことは、この落書きをしてた小学生のときは子供ってこと?

 子供の次は大人だから、今の私は大人?



 よくわかんない。でもお腹は空いていて、今にもぐう、と鳴りそうだった。もう六時だ。

 そうそう、ぐうの音もでないってすごいよね。私だったら絶対なっちゃうもん。


 今日の夜ご飯なにかな。


 あ、そうだ。お母さんに聞いてみよ。




「お母さん、大人ってなに?」


「あら、早苗。急にどうしたのー?」


「大人になりたいの」


 今日のご飯はオムライスだった。お父さん仕様で味が濃い目。だからケチャップはかけない。


「青春ねぇ」

「大人ってなにかなぁ」

「早苗ってケチャップかけないよね」

「うん」


 お母さんは笑った。「それも大人だよ。素材の味ってやつ」


 うーん。余計にわからなくなっちゃった。


 私が悩んでいると、

「早苗が思う大人っぽい子に聞いてみればいいんじゃない? どうやってるの、って」


「あ、それいいかも!」



 友達にもなれるかもしれないし! とりあえずいつも一緒にいる子たちとか、同じ班の子に聞いてみようかな!


 ごちそうさまでした!




――――――



 

 だめだ、わかんない! 男子は馬鹿だし! 


 さいてーなことをいくつも聞かれた。すぐ男子はえっちなことを聞いてくるし、馬鹿なことばっかりやってる。



 あ、そっか。あれが子供なんだ。


 言葉にするのは難しいけど、なんとなくわかってきた。

 なんて言うんだろ、しょうもないってやつなのかな? 


 あんまり使わない言葉だから合ってるかわからないや。お母さんがいつも言葉遣い注意するの。大人になったら苦しむよーって。


 今も勉強で苦しんでるのに、大人になってもなんて絶対に嫌。



 うーん、どうしよう。


 このままだと昼休みが終わっちゃう。腕を組んで考えるのなんて、私にしてみれば本当に珍しいことだった。いろんな子がやってきて、体調悪いのとか聞いてきたり、怒ってるのか聞いてきたりする。男子は馬鹿だから知らない。

 そういえば、すぐ怒るのも子供っぽいって聞いたことがある気がする。


 あ、でも大人が怒ると大人げないんだっけ?

 

 大人の、なにがないんだろう? 我慢する力ってこと?



 だめ。私はこういうのに向いてないんだ。お父さんにいつも言われている通り、紙に書いて整理しよう。――青ペン使おっと! これは私のお気に入り。嫌な勉強でもこれがあると頑張れる。


 さてさて、書いちゃおう。



 ・騒がない

 ・素材の味を楽しめる

 ・すぐ怒らない

 ・言葉遣いが丁寧



 あとは小学生になくて、大人にあるもの。


 うん、身長だ。絶対身長だ。慎重さもないけど、おそらく大事なのは身長差。私はまだ伸びてるから大丈夫。

 


 机に向かって書き込んでいるとき、ふと誰かが私の前を誰かが通った。


 声を掛けてこないってことはたぶん友達じゃない。――でも気になったから顔をあげた。



 

 沖野さん。私の列の一番後ろの子だった。




 高身長で、怒ったところも泣いたところも見たことがなくて、

 それどころか誰かと一緒にいるところを見たことがない。だから騒いでるところも見たことがない。ちょっぴり怖い、近づき辛い子。


 結構話すタイプの私でも話したことなかった。



 机にしがみついたまま、むしろくさむらに隠れるようにして、沖野さんを目で追った。

 沖野さんは廊下に出て、やけに白い女の子――この子は全く知らない、と端で話し始めた。



 あ、笑ってる。めっちゃかわいいし、きれい。


 誰も二人にちょっかいをかけなかった。話かけもしないし、輪に入ろうとしない。



 そこには二人だけの世界があった。 


 去り際もそれとなく手を振るだけで、大げさじゃない。抱きつきもちゅーも手を握ったりもなかった。



 私は大人を見つけた気がした。




 よし、聞いてみよう――とはならないっ!


 沖野さんにすぐ話しかけるのは正直言って怖いっ。一回話さない距離感になっちゃうと難しい。そこらへんは非常に難しい。



「なにやってんだよ、あまみっ!」


 隣の席の男子が急に机を揺らしてきた。肩が跳ねちゃった。


「もー! びっくりするからやめて! あれ、ペン――」




「はぁい」

 拾ってくれたのは沖野さんだった。




「あ、ありがとう……」

 

 少しだけ微笑んで、だけども無言で立ち去っていく沖野さん。

 横で男子たちが気味が悪いとか、怖いとか言ってるけど、私は全然違う。


 大人だー!! そして初対面クリア!


  

 うん、絶対に仲良くなろう。それでたくさんのことを教えてもらおう。もう決めた! 決めたもーん。


 今日の帰りに手紙でも渡そうかな? やり過ぎかな? からかっちゃだめだよね。子供っぽいもん。さっきはありがとうくらいは言うべきかな? うわー、お母さんに相談したい!


 頑張ろっ!


 私は自分のお気に入りノートにお気に入りのペンで目標を書いた。

 なんか恥ずかしいけど、短冊みたいな感じでいいかも。


『沖野ちゃんと仲良くなる』

 

 私はそっとノートを閉じた。





――――――


 これを機に、私の中学校生活はちょっぴり変わることとなるんだ。


 だけどそれはだいぶ後のお話なの。 


 なんでかっていうとね、実はこのあと、沖野ちゃんにまったく話し掛けられなかったんだ。

 理由は席替えと、私の勇気のなさ。


 でも少し時間がかかっただけ。私がちょっと大人になるまでの、短い期間。



「あまちゃんー、このあとって暇ぁ?」


 今だとこうやって話し掛けてくれるもんね。


「うん、空いてるよ!」


「白石が風邪だって言うからお見舞いに行かない? みやちゃんもいるってぇ」


「わかった!」




 そういうことだから行ってくるね! 続きはまた今度。


 私はお気に入りのノート、中でも一番のお気に入りのページをそっと閉じた。


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