8.
「仕事お疲れ様。終わったなら、食事に行こうぜ。俺、もう腹ペコペコ。」
電話口の今井は、さっそく切り出した。
どうやら、どこか近くで時間を潰しているようだ。
何だか悪い事した気がして、お誘いを断りづらい雰囲気になってしまった。
(このまま食事を奢られてしまう流れで、いいんだろうか?)
実乃理は迷ったが、しかしたかが一回の食事くらいで、色々御託を並べるのも、スマートでない気がする。
(ま、いっか。向こうも単なる気まぐれなんだろうし。)
実乃理はそう、結論づけると、電話ごしの今井に話しかけた。
「今井さん、今どこにいるんですか?」
「病院を出たところのコンビニだよ。立ち読みしてる。」
やっぱり待ってくれていた。
「わかりました。今からすぐ行きます。」
電話を切ると、実乃理は急いで帰り支度を始めた。
※※
「あーっ、美味い!」
「ちょっと、そんなに飲んで大丈夫なんですか?」
近所の"今井オススメの"焼き鳥屋。
確かに、焼き鳥もタレの味が絶妙で、美味しい。他の一品料理も、女性向けのサラダや豆腐料理が充実していて、周りに女性客も多く、雰囲気も良い。
店に入って最初こそ少し構えたものの、今井は意外と紳士的で話題豊富だったので、実乃理も料理と少しのビールを楽しんでいた。
…しかし。
「仕事の後のビールは美味いなぁ!」
「だから、飲み過ぎですってば。もう4杯目ですよ?」
店員から、4杯目、…3杯目からは日本酒ロックだが…のグラスを受け取った今井を見てさすがに呆れ、思わずツッコんでしまった。
「あれ、心配してくれるの?嬉しいな。大丈夫大丈夫。俺、酒強いから。それより早乙女さんも、もっと飲みなよ。せっかくの奢りなんだからさ。」
「いや、私は、明日も仕事だし、帰りも電車だし、一杯で十分です。」
「・・・・・」
調子良く喋っていた今井が急に黙ったので、気を悪くさせてしまったのかと思い、何か取り繕おうと口を開いた実乃理だったが、結局、その言葉は発せられなかった。
「俺、好きだな、早乙女さんの、そういう真面目なところ。」
「ぶっ!ゲホゲホゲホ!!」
「うわ、唾飛んできた。きたねぇ!」
「ごっ、ごめんなさい。だって今井さんがいきなり、変な事言うから」
「ハハハ、ジョークジョーク。唾なんて飛んでないから。でも別に、変な事なんて言ってないよ。・・ね、早乙女さん、ちょっと真面目な話、していい?」