6.
「悪かった。よく考えたら俺より早乙女さんの方が、体格から考えて薬、効きやすいよな。」
絶対にまた、受け付けで居眠りすんなよ、とか茶化されると思ったのに、今井が案外素直に謝って来たので、実乃理はちょっと拍子抜けしてしまった。
「いえいえ、いいんですよ。飲んだ私が悪いんだから。」
最近、得意になりつつある営業スマイルをちらっと浮かべ、仕事に戻ろうとした実乃理は、続けられた今井の言葉に驚いた。
「わかった!詫びに夕食奢るよ。今日俺早番だし、同じくらいに終わるだろ?また後で声かけるから。」
実乃理が何か言うより早く、今井は軽く手を上げると、仕事に戻って行った。
※※
「やっと終わったぁー。」
ふう。
一息ついた実乃理は両手を上に上げて、伸びをした。
ずっと同じ姿勢でパソコンに向かっていたので、肩と腰がこわばり、目も疲れている。
4月は、新規患者の増える月だ。
病院だから、いつから通い始めても別に良いし、いつから病気になるのか、わかっている訳でもない。
それでも、何故か新規患者が多いのだ。
当然、レセプト業務も増える。
レセプト業務とは、患者一人一人のレセプト(診療報酬明細書)を作成して、健康保険組合などの、保険者に提出する作業だ。
集中して作業をしていたので、いつの間にか、周りには人気が無くなっていた。
時計を見ると、午後7時30分を指していた。