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5.
それから、鷹取さんは週一で、病院に通って来るようになった。
職務上、カルテを見る事もある。
内心、職務以上の興味がある事は、実乃理だけの秘密だ。
「"突発性難聴"・・・か・・・」
鷹取さんのカルテを見ながら、一人つぶやいた。
何か、仕事でストレスでも溜まっているのだろうか。
それとも私生活で?
「なーに見てんの?」
突然、後ろからかかった声に、実乃理はドキッとして思わず肩をすくめてしまった。
(やだ、これじゃ、やましい事してますって言ってるようなものじゃない。
別にそんなんじゃないのに。)
内心の動揺を隠しながら振り向くと、声をかけて来たのは、同僚の今井だった。
「い、今井さん・・・お疲れ様です。」
ヘンにどもってしまった。
と、いうかそれより。
実乃理は、今井に言いたい事があった。
「この間頂いた市販薬、あれを飲んだら、午後から眠くて大変だったんですよ。まあ飲んだ私も悪かったですけど…もう二度と勧めないで下さいねっ。」
冗談めかして言うと、今井は顎に手を添え、実乃理を見た。
「ああ、あれか・・・。」