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序章






ザザザザザーーーーッ




強い風が吹き、実乃理の髪を揺らすと同時に、何となく見惚れていた公園の桜の花びらを吹き散らした。


薄いピンクの花びらはあっさりとその母なる木に別れを告げ、くるくると踊るように一瞬、宙に舞ったかと思うと、後はもう顧みられる事もない地面へと着地した。


だが実乃理は、たった今、その植物としての役割を終えたばかりの、まだふんわりと地面に積み重なっている花弁から、目を離せなかった。


そう。


あの時も自分は、地面に落ちている花びらを、見つめていた。

満開に咲き誇る桜は艶やかに空を彩っていたが、実乃理が見ていたのは、地面に落ちた花びらだった。


顔が、上げられなかった。


顔を上げて、彼と目が合った瞬間、この恋が終わってしまうのが、わかっていたから。


「今まで、ありがとう。」


ありがとう。アリガトウ。アリガトウ・・・

単なる符号と化した言葉が、頭の中でこだまする。


アリガトウって、何?


私は鷹取さんに、何もしていない。


アリガトウなんて、言わないで。


そんな冷たい目で、言わないで。


「・・じゃ、そろそろ行くわ。お前も頑張れよ。」


実乃理が顔を上げない事に痺れを切らした鷹取さんは、しょうがないな、という風にフッと息を吐くと、一度だけ彼女の頭に手を置いた。


ポンポン。

軽い衝撃。


実乃理は、じっと、地面に落ちた薄ピンクの花びらを見つめていた。


くっきりとした花びらと地面の境目がだんだんぼやけてきたのは、次々に頭上から舞い落ちて来る花びらのせいではなく。


顔を上げなくても、彼がーー、ずっと憧れ続け、でもいつも彼の左隣で微笑む彼女の存在に遠慮し、何も言えなかった実乃理にあっさりと背を向け、立ち去って行くのが、わかった。


…三年前の、桜の記憶。


それは実乃理にとって、涙でかすんでぼやけていく、淡いピンクの花びらの記憶だった。






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