海中からの咆哮
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1945年8月5日深夜 マリアナ諸島テニアン島沖。
月明かりが照らす太平洋の海に一隻の潜水艦が浮上した。
浮上した潜水艦は潜水艦にしては巨大で大きさだけなら戦艦と間違えそうなほど大きい。その潜水艦のハッチが開き乗組員らが出てくる。
彼らは後部に向かい作業を始める。それを艦橋から見下ろす艦長は腕時計に視線を向けた。
「作戦開始まで残り少ない。副長、準備を急がせてくれ」
「了解です。総員作業を急げ」
副長が乗組員らに急ぐよう伝えるなか、艦長は焦りを抑えようと前部に載せられた兵装を見る。
そこには兵装と言えるものはなく大きな膨らみのような構造物があった。
これは兵器ではないと初見の人なら誰もが思うだろう。しかしこの構造物の前半分が艦首側に移動するとそのには二本の砲身が姿を現す。砲身の先は艦首に向けられ根本は後ろ半分の構造物と繋がっている。これは砲搭だ。
この潜水艦は戦艦が載せるような連装砲を載せているのだ。
この潜水艦伊ー900型が建造された理由はワシントン軍縮条約締結まで遡る。
日米英仏伊はワシントン軍縮条約により戦艦、空母の建造ができなくなった。対米六割にされた日本はなんとか米国との差を塞ごうと考えた。そこで英国が保有していたM級潜水艦に着目し、砲撃潜水艦を保有しようと考えた。条約外である潜水艦ならワシントン軍縮条約には引っ掛からない。しかし問題があった。
潜水艦は戦艦と違い厚い装甲が無い。砲撃戦になったらこちらが一方的に沈められてしまう。さらにM級潜水艦には限定された旋回砲搭しかなく、照準を合わせるには潜水艦自体を動かさなくてはならない。もちろん砲撃するには浮上しなくてはならい。
これをどう解決するか、課題となった。が、結局問題は解決しなかった。しかし、別の運用方法を思い付いた。
戦艦相手に砲撃戦は不可能なら地上目標、真珠湾のような拠点に対して有効ではないのかと判断したのだ。
戦艦を含む軍艦は全て必ず補給、整備が必要になる。
それを行う拠点を潜水艦で誰にも気がつかれず近づいて搭載した戦艦クラスの主砲で砲撃、破壊する。
攻撃目標を地上に限定したモニター艦のような運用にすることになった。
建造のために研究が行われロンドン軍縮条約にて研究は凍結されてしまった。だが当時のGF長官がハワイやパナマ運河を攻撃するために再開させ、伊ー900、901、902の三隻が建造された。
攻撃目標は戦況の悪化で当初のパナマ運河からマリアナ諸島のサイパン、グアム、テニアンに変更された。
三島に変更になった理由はこの三島から本土を爆撃するB-29を飛ばしているため、洋上から砲撃し、飛行場ごとB-29を破壊するためなのだ。
「艦長、晴嵐射出準備完了しました」
晴嵐とは、潜水艦の搭載を前提とした最新の水上機だ。
雷撃、急降下爆撃、空中戦までできる機体だが伊ー900型に載せた晴嵐は観測機としての改造が施され無線と電探を最新のものにしてある。
「晴嵐、射出せよ」
「射出ッ」
晴嵐は圧縮空気式のカタパルトで射出された。
飛び出た晴嵐は高度を上げず、低空飛行でテニアン島に向かう。
見送った艦長は再び時計を見た。
(そろそろ潜入部隊が始めてくれる時間だ)
そう思った直後、テニアン島で小さな爆発が起きた。
テニアン島には作戦のため特殊工作部隊が密かに上陸していた。
彼らの目的はテニアン島にある電探の破壊。
これが破壊出来なければ観測機が発見されて弾着観測が困難になるどころか母艦まで見つかるかもしれない。
それを防ぐために晴嵐は超低空飛行で接近し、潜入部隊で電探を破壊させたのだ。発電機もついでに破壊している。
突然の爆発と暗闇で米軍基地内は混乱していた。
明かりなく暗闇で何も見えない。手持ちライトで照らす兵士もいるがそれよりも明るい光が彼らを照らす。
光の方を見るとそこには晴嵐と落下傘が付いた照明弾があった。
「てっ、敵襲ッ!?」
「敵襲だッ日本軍が攻めてきたぞ!!」
日本軍と聞いて米兵たちは戦闘配置に付き、パイロットは飛行場にある機体に乗り込み発進させようとする。
「日本軍の奇襲だと?」
司令室で基地司令は報告に来た副官に聞き返した。
「機体に日の丸を確認しました。間違いなく日本軍です」
「なぜ、日本軍がここにきたのだ?まさか、例の兵器に気づかれたのか!?」
「わかりません。視認したのは一機のみですので偵察かもしれません」
確かに単機なら偵察であることも考えられる。
だが、電探と発電機が爆発してすぐに偵察機の登場は関係が必ずある。
「例の兵器の安全は万全か?B-29のほうはどうだ?」
「現在、地下壕で保管しています。艦載機で運べる爆弾では破壊できません。B-29のほうも全機無傷です」
「ならばよろしい・・・ッ」
突然爆発音と衝撃が二人を襲った。
「晴嵐より報告、初弾飛行場に着弾、修正の必要なし」
「よし、ドンドン撃て。これ以上本土を爆撃させるなッ」
長年の研究によって旋回砲搭を載せることができた伊ー900型の主砲は41センチ連装砲。
そこから放たれる三式弾を改造した対地攻撃用の四式弾が飛行場や駐機場で待機していた機体に命中していく。
弾着観測をしている晴嵐から順次観測結果が送られてテニアン島にある米軍施設を破壊していく。
「901と902の状況はどうだ?」
「先ほど連絡が入り、サイパン、グアムを砲撃中、飛行場や米軍施設を破壊しているとのことです」
「よろしいッ」
これで本土への爆撃はなくなる。
あとは政府が戦争を終わらせてくれるだけだ。
「敵、駆逐艦発見ッ本艦に接近しつつありッ!」
観測員の一人が叫んだ。
艦長と副長もそちらを見ると一隻の駆逐艦が向かってきていた。
「艦長、すぐに潜航しましょう!」
「間に合わん。このまま応戦する。奴の射程に入る前に沈めるぞ」
「了解ッ」
艦長の指示で主砲の照準を合わせる。
駆逐艦も自分に主砲が向いているのに気がついたのか回避運動をとりはじめる。
「四式弾のままでよろしいのですか?」
「弾種はこのまま、と言うより四式しか積んでないからな」
対地攻撃しか想定していないため、四式弾しか載せていない。
そもそもこの伊ー900型にはそれほど多くの弾は載せられない。
戦艦にも匹敵するほど大きさだがバラストタンクや魚雷などで場所を取られてしまい、二十発も載せてないのだ。
ならば対地専用として四式弾しか載せなかった。
『目標に照準よし、弾種四式弾ッ』
「撃ち方、は「敵艦発砲!!」ッ!?」
駆逐艦から発砲の際の光が見えた。
放たれた砲弾は本艦から大きく外す。
「敵さん、焦っているようですね」
「次は当てに来るぞッ主砲、撃ち方始めッ!!」
『テェーッ!』
砲術長の号令で二発の四式弾が駆逐艦に向かって飛んでいく。
取り付けられた時限信管が作動し内部に仕込まれた子爆弾がばら蒔かれて駆逐艦の周りで爆発する。
子爆弾にはそれほど貫通力はないので撃沈とまではいかないが駆逐艦相手なら戦闘能力を奪うことぐらいはできる。
「敵駆逐艦、沈黙しました」
「晴嵐にテニアンの米軍施設の状況を聞いてくれ」
「了解」
テニアン島の上空を飛行する晴嵐に状況を聞くと飛行場は破壊つくし、待機していた航空機も全て使い物にならない鉄の塊に変えた。さらに備蓄燃料を燃やし、この他の施設も破壊したとのこと。
「テニアン島の飛行場は完全に破壊したな。作戦は終了だ。総員に告げるこれやり他艦との合流海域に向かい、合流後、本土に帰還する。潜航準備に入れ」
艦上に出ていた乗組員たちは艦内に入っていく。
上空にいる晴嵐は一足先に合流海域に向かった。
艦長が最後に艦内に入り、潜航準備ができたと聞く。
「それでは、潜航せよ」
「潜航ぉー、メインタンク注水」
伊ー900は海中に姿を消した。
このテニアン、サイパン、グアムを攻撃したことで日本本土を爆撃することは当面不可能となり米軍は作戦の一部を変更しなくてはならなくなった。
米国にとって不幸中の幸いは新兵器が無事だったことだろうか。
この数日後、日本国内でクーデターが起こり、新政権はポツダム宣言を受諾、無条件降伏した。
伊ー900型潜水艦は米軍に接収され徹底的に調査されると潜水艦による戦略拠点攻撃は有力と判断され後の戦略潜水艦開発のきっかけとなった。
調査された伊ー900型三隻はソ連への技術流出を防ぐため、ハワイ沖にて雷撃処分されて海中深くで長い眠りについている。
ウィキペディアで調べていたら原爆ってサイパン島から飛ばしたのではなく、テニアン島だったんですね。