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「先生♪お昼一緒に食べましょ!」
「先生今日は職員室で仕事しながら食べるから」
「じゃあせめて、お弁当作ったんで貰ってください」
「あー、先生やっぱり今日はお昼抜こうかな」
毎週水曜日の昼休みになると、1年C組ではこのやりとりが毎回行われる。あまりにも毎回のことなので、他の1-C生徒は最早これを気に留めることなく各々自分たちの昼食の用意を始める。
これが1年C組。ある意味統率の取れたクラスだ。しかし、この日は少し違った。
「先生!いい加減にしてください」
「ウゲ……、上宮」
1年C組出席番号2番、上宮琴音である。彼女は溝口由香里の友人だ。
友達思いの彼女は、故に溝口のことを応援する。友達思いの彼女は、故に真の態度に怒る。
それが真にとってはさらに面倒なことなのだが。
「いつもいつもそうやってはぐらかして、由香里ちゃんの気持ち考えたことあるんですか⁉」
「ア、アルヨー……。ダッテセンセイきょーしダモん……」
目をざっぱんざっぱん泳がせて、どこぞのものとも見当のつかないイントネーションでまたはぐらかそうとする真の様子に、1-Cの生徒たちは「ないなコリャ」と悟る。
「いつもいつも、由香里ちゃんがどんな思いをしてるか先生は分からないんですか?」
「いやー……、分かるも分からないも先生は教師だしなぁ……」
「何度も何度も同じ言葉ではぐらかそうとしないで、ハッキリして下さい!」
「だってぇ……」
真は次の言葉を必死に探している。上宮の言うような「ハッキリする」こと自体は簡単だ。溝口の好意を否定しまうのは、簡単なことだ。
だが、それをしてしまうのは未成年の子供を預かる教師の立場として、あまりにも無責任だ。
というか、そんな矜持をかなぐり捨てて結構キツイ言葉で溝口の好意を否定したことがあった。これ以上ない位、ボロボロに。
なのだが、それでも彼女は何事もないようにアプローチを続けてくる。だから真は説得を諦めることにした。のらりくらりとかわし続けて、溝口の感情が自然的に消滅するのを待つことにした。
そして話は最初に戻ることになる。
自然消滅を待つ方針に転換した真の態度が、上宮には気に入らないということだ。友達思いだから憤る。ただ純粋に友達を思って出てくる言葉だから、真は頭ごなしに否定できないでいる。
友情を尊ぶのは間違ったことではないが、コトがコトなだけに全てを受け入れるのはムリだ。故に真が出す結論は、
「あ、いっけね。斎藤先生から呼ばれてたんだった」
逃げる。ありもしない約束をでっち上げてピャーッと教室から走って出て行った。
そして、1-Cの生徒達は悟る。
(あ、嘘だ)
と。これがこのクラスの大体の日常