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「はぁ……」
真は職員室の自分の席に着くなり、机に突っ伏して大きくため息を一つ吐く。最近1時間目に自分の授業がない時はいつもこうだ。
ストレス性の頭痛と胃痛が酷い。先日医者にかかった時、
「胃潰瘍の一歩手前ですね。なにか大変な心配事でもあるんですか」
と、初診の医者が心配するほどに悪いという有様。流石に心配事の内容までは言えないのでそこら辺はぼかしたのだが。それ程までに真の心労は重いのだ。
原因は分かっているのだが、問題はどう解決したことか、ということ。結局答えも何もないまま、真はまた一つため息を吐くのだった。
「三上先生。出席簿。くださいよ」
真の後ろから声がかかる。簡潔な言葉を繋いだような声の主は真の同僚、村上清太だ。担当教科は数学で男女両方のバレーボール部の顧問。本人も高校、大学とバレーボールをしていたらしく、嫌味なくらいに背が高い。
「……はい」
真は腕の下敷きにしていた出席簿を後ろを見ずに清太に渡す。その投げ槍な感に清太は真に突っかかる。
「また溝口由香里のことですか。あんなのどうせ思春期の一時的な情でしょう。そんなに気にすることではないですよ」
「あたしも初めはそう思ってたんだけどね……」
冷たく言ったつもりの清太の言葉に、思いのほか反応薄く返す真。それから真は自分の机の引き出しから胃薬を取り出し、お茶で飲み込んでから一息ついてまた話し出す。
「住所を特定されてるとねぇ……」
清太は一瞬、真のことばに自分の耳を疑った。
「住所?住所を知られているんですか?」
「うん、何でか知られてんの」
沈んだ口調で淡々と話す真の様子に、清太は自分のことでもないのに底知れぬ恐怖を感じた。一生徒が教師の住所を、教えたわけでもないのに知っているというのは、それはもう、
「ストーカーじゃないですか」
「そうなんだよね」
真は肯定しながら自分の眉間に手を当てて唸る。これはもう度を越えているとしか言いようがないのだ。
「どう対処したものか……」
自分の想像を越えて酷いことになっている真の悩みに、清太はただ凍り付くしかできなかった。