カレーを作ったパパがきらい。
『きらい』
現代風。
人物変えてまたあげたい。物申したいきらいちゃんの話。
「やっとパパのカレー食べてくれたね」
殊更優しく、パパは言った。
妙な柔らかさのある声だった。それが猫を撫でる時の声のようで気持ち悪くて、扉を閉めた後も頭に残った。こびり付いた石鹸カスみたいに残ったままだから、ごしごし擦って落としてやろうと思ったのだ。
何なんだあれ。どういうつもりなんだ。まるで私が、しょうが無い子みたいに。
カレーを食べた。日曜日で、ちょっと気が抜けて、パンでも焼いてそれで済ませても良かったのだけど。決して反抗心が無くなった訳じゃなく、手を抜きたい日だったからカレーを食べた。
パパを認定して私の領分に入れてあげようだとか、思った訳じゃなかった。入れてあげないつもりで、教えてあげるつもりも無かった。めっきり愛想が尽きたのだから、勝手にすればいいと思っていた。そんなしょうが無い子みたいに笑われる筋合いは無いはずだ。
あの人は何を考えているのだろう。そんな穏やかな顔しちゃって、弟にあれこれ猫撫でるみたいに世話焼いて。私がそっぽ向いて空気の壁を見繕いだのを優しく、ちょっと悲しげに「そうか…」だとか言って。
猫相手にご機嫌取り。しているみたいだ。とびきり優しくすればこっちに寄ってくれると熱が入っている顔だ。心は届くのだと意気込む分からず屋を、私は受け入れることが出来ない。
何さ。何さ。押し付けがましいな。
何なのあれ、それどういうつもりなの。
「うんざりするほど聴いたよそれ。やめてよその話」
「だってね?やっと食べてくれたねって、コッチが悪いみたいに言ってんだよ?物が解らないのはそっちなに、何で押し付けられなきゃいけない訳?」
「そういう風に取るんだ、あの改心ぶり」
「だって、今までずっと何コレがダメだ、何で直さねぇだ言って、当たってきたじゃない。ママに愛想尽かされたからって今までと丸っきし態度変えてさ。これでチャラねとはいかないっての、ふざけんじゃねぇ」
「あそこまでの好意そう受け取るんだね、はー」
「気に食わないんならまた怒鳴り散らせばいいのに。ころっと意見を変えて、重みが全っ然ないんだよ」
「変わってないよね、態度変わっても」
「反省したフリなら止めればいいのに」
嫉妬しちゃってさ、周りも気を遣ってあまり突かないでくれてさ、一致団結して家庭を守っていこう。
ダサい。本当に。格好悪い。
好きでも嫌いでも無かった人が、うざったくて気持ち悪い人になって目を光らせる。青臭く「前向きな人」を見せられる。
憂鬱だ。
「起こすのにずっと独り言言うの止めてくれない?一、二言言ったらもう起きてるんだから」
「そんなの分からないでしょ?寝坊したら学校遅れちゃうし」
ほら。また、押し付けた。